上 下
60 / 105
キスは好きな人と

4

しおりを挟む
「ね、こんな風に話すのってさ、久しぶりだよね」
「そうだな。久々だ」

 最後のデートから二週間は経っている。告白したことをどう切り出そうかともじもじしていると、カインは切った果物を皿に載せ、一切れを自らの口に放り込んだ。

「え……それオレにくれるんじゃないの!?」
「ニーナは起きたばかりだ。固形物は止めた方が良い」

 検査中、ニーナは医者に空腹を訴え、昼食にと重湯を出されたが全く足りなかった。治療術の影響なのか、ニーナは病み上がりなのにやたらと空腹だった。

「ちょっとくらいなら、食べてもバレないんじゃないかな……」

 我ながら意地汚いことを口走ったなと頬を染め「今のは忘れて」と小さな声で付け足すと、カインは口元を押さえてくつくつと笑った。

「ふふ……すまない、冗談だ。先生にも少量の果物なら食べても良いと聞いている」
「な、何だよ! もうっ」

 カインは果物が載った皿を差し出した。ニーナは「ありがとう」と言い、一切れ摘むと果肉にシャリリとかじりついた。甘酸っぱい味が口内に広がり、目が覚める様に瑞々しい。

「はぁ……美味しい……」
「そうか、良かった」

 ニーナがあっという間に一切れ平らげ、もう一切れに手を伸ばすとカインは愛しそうにその光景を眺めている。

 こうして普通にしているとカインは優しく穏やかな大型犬だ。あの日、魔獣を腕力で殴り抜いた姿は今のカインからは想像出来ない。 

「……やっぱり、ギャップがあるよなあ」
「何の話だ?」
「んーん、何でもない……」 

 ニーナは果物をかじりつつ、首をふるふると振った。

「ニーナ、俺はそろそろ行く」
「え、もう?」
「ああ、名残惜しいが」

 カインは果物の皿をベッド脇の小さな机に置き、手甲をつけ直した。

「平原に野営するので、次に会うのは二日後になる」
「そっか……二日後かぁ……」 

 ニーナがシュンとしているとカインは苦笑した。

「そんな顔をされると、後ろ髪引かれてしまうな」
「……ごめん。カインはお仕事なのに」
「もうひと息で平原の厄介事は落ち着く。きっとニーナの退院までには……それで、その……」

 ニーナの手を取ると、深呼吸してから真剣な顔になった。

「全て終わったら、一緒に王都へ帰ろう」
「カイン……」

 ニーナがコクリと頷くとカインは満足そうに微笑んだ。

「では、行って来る」

 手を離して立ち上がろうとしたカインをニーナはグッと引き寄せた。

「ニーナ?」
「もうちょっとだけ、こっち来て」
「ああ、分かっ……」

 返事を聞く前にニーナはカインの唇に自分の唇を重ねた。

「い、行ってらっしゃい」
「…………あ」

 すぐに顔を離すと、カインは何が起こったのか分からないといった表情で唇を押さえている。

「今のは……」
「ほら、もう行かないとなんだろ!」
「あ、ああ、そうだな……」

 カインは狼狽えているのか、よろよろと立ち上がった。

「……怪我しないで帰って来てね。絶対だよ」

 ニーナは自分のことを棚に上げてそう言った。カインは唇を押さえたままニーナを見て目を細めた。

「ニーナ、顔が今までにないくらいに真っ赤だな」
「う、うるさいなぁ! ほら、遅刻しちゃうよ!」

 カインは吐息を漏らし、手甲越しにニーナの髪を優しく撫でた。

「帰って来たら、またして欲しい」
「……ん」

 ニーナは病室を出て行くカインを見送り、一人になると気恥ずかしさからベッドの上をゴロゴロと転げ回った。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜

きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員 Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。 そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。 初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。 甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。 第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。 ※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり) ※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り 初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

エリート上司に完全に落とされるまで

琴音
BL
大手食品会社営業の楠木 智也(26)はある日会社の上司一ノ瀬 和樹(34)に告白されて付き合うことになった。 彼は会社ではよくわかんない、掴みどころのない不思議な人だった。スペックは申し分なく有能。いつもニコニコしててチームの空気はいい。俺はそんな彼が分からなくて距離を置いていたんだ。まあ、俺は問題児と会社では思われてるから、変にみんなと仲良くなりたいとも思ってはいなかった。その事情は一ノ瀬は知っている。なのに告白してくるとはいい度胸だと思う。 そんな彼と俺は上手くやれるのか不安の中スタート。俺は彼との付き合いの中で苦悩し、愛されて溺れていったんだ。 社会人同士の年の差カップルのお話です。智也は優柔不断で行き当たりばったり。自分の心すらよくわかってない。そんな智也を和樹は溺愛する。自分の男の本能をくすぐる智也が愛しくて堪らなくて、自分を知って欲しいが先行し過ぎていた。結果智也が不安に思っていることを見落とし、智也去ってしまう結果に。この後和樹は智也を取り戻せるのか。

年上の恋人は優しい上司

木野葉ゆる
BL
小さな賃貸専門の不動産屋さんに勤める俺の恋人は、年上で優しい上司。 仕事のこととか、日常のこととか、デートのこととか、日記代わりに綴るSS連作。 基本は受け視点(一人称)です。 一日一花BL企画 参加作品も含まれています。 表紙は松下リサ様(@risa_m1012)に描いて頂きました!!ありがとうございます!!!! 完結済みにいたしました。 6月13日、同人誌を発売しました。

赤ずきんちゃんと狼獣人の甘々な初夜

真木
ファンタジー
純真な赤ずきんちゃんが狼獣人にみつかって、ぱくっと食べられちゃう、そんな甘々な初夜の物語。

お客様と商品

あかまロケ
BL
馬鹿で、不細工で、性格最悪…なオレが、衣食住提供と引き換えに体を売る相手は高校時代一度も面識の無かったエリートモテモテイケメン御曹司で。オレは商品で、相手はお客様。そう思って毎日せっせとお客様に尽くす涙ぐましい努力のオレの物語。(*ムーンライトノベルズ・pixivにも投稿してます。)

転生したけど赤ちゃんの頃から運命に囲われてて鬱陶しい

翡翠飾
BL
普通に高校生として学校に通っていたはずだが、気が付いたら雨の中道端で動けなくなっていた。寒くて死にかけていたら、通りかかった馬車から降りてきた12歳くらいの美少年に拾われ、何やら大きい屋敷に連れていかれる。 それから温かいご飯食べさせてもらったり、お風呂に入れてもらったり、柔らかいベッドで寝かせてもらったり、撫でてもらったり、ボールとかもらったり、それを投げてもらったり───ん? 「え、俺何か、犬になってない?」 豹獣人の番大好き大公子(12)×ポメラニアン獣人転生者(1)の話。 ※どんどん年齢は上がっていきます。 ※設定が多く感じたのでオメガバースを無くしました。

嫁側男子になんかなりたくない! 絶対に女性のお嫁さんを貰ってみせる!!

棚から現ナマ
BL
リュールが転生した世界は女性が少なく男性同士の結婚が当たりまえ。そのうえ全ての人間には魔力があり、魔力量が少ないと嫁側男子にされてしまう。10歳の誕生日に魔力検査をすると魔力量はレベル3。滅茶苦茶少ない! このままでは嫁側男子にされてしまう。家出してでも嫁側男子になんかなりたくない。それなのにリュールは公爵家の息子だから第2王子のお茶会に婚約者候補として呼ばれてしまう……どうする俺! 魔力量が少ないけど女性と結婚したいと頑張るリュールと、リュールが好きすぎて自分の婚約者にどうしてもしたい第1王子と第2王子のお話。頑張って長編予定。他にも投稿しています。

処理中です...