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愛しさと逃げ出したい気持ち・後編

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 翌朝、ニーナは宿屋の小さな食堂でパンとスープに果物がついた朝食を摂っていた。

 後から馬車で乗り合わせた母子がやって来たので軽く挨拶を交わした。男の子も母親の後ろに隠れて小さく「おはよう」と言ってくれたので、ニーナは微笑ましい気持ちになった。

(5才くらいかな。旅路がこんなことになっちゃって大変だなあ)

 母子は窓際のテーブルに座って朝食を摂り始めたので、ニーナも自分の食事を続けた。食事は期待していなかったのに、手作りと思わしき丸パンがやたら美味しく、ニーナは追加で注文をした。

(まあ……食事くらいしか気分を紛れさせる術がないっていうのもあるけどな。どのくらいここにいることになるんだろ)

 昨日も手紙を書きながら砂糖菓子を二袋も食べてしまった。自分で思っている以上にストレスを感じているのかもしれない。

(何か楽しいことでも考えよう。そうだ、手紙はいつ出そうかな)

 カインへの手紙は悩みに悩み抜き、下書きで便箋を数枚消費して、やっと一枚書き上げた。

 それだけ苦労したのに、時候の挨拶のようなものに自分の近況とカインの話が聞きたいという要望だけの手紙が出来上がった。

(はっきり言って面白みがない手紙だ。でもカインは「一言だけでも良い」って言ってくれたし……よ、喜んでくれるかな?)

 また「恋心」らしきものが胸の中を甘ったるくさせたので、思いを振り払うように丸パンをパクパクと食べた。

(あ~ダメだ、ダメだ! 今は、この状況をどうやり過ごすか考えないと。今日は仕事を探しに行って……何もなかったら商人のおじさんの話し相手にでもなって……うん、これで行こう)

 丸パンは一皿に手の平サイズの物が二つ載っており、中は柔らかくフワフワとしているが表面はパリッと焼かれている。言えばジャムかバターを付けられたが、スープに浸して食べるのがニーナの好みに合っていた。

 二つの内一つを食べ終えるとふっと息を漏らして茶を飲んだ。ニーナが商人の男がいないか食堂をキョロキョロと見回していると、宿屋の女将が近寄って来て、茶を継ぎ足してくれた。おかわりが欲しいと勘違いされたようだ。ニーナは微笑んで礼を言い、もう水気は十分足りていたが、グッと茶を啜った。

(ここの人達って人が良いよな。やたら食べ物を勧めて来たり、昨日も夕方ちょっと散歩してたら、茶を飲んでけって言ってくれたり……)

 ニーナは自分が生まれ育った集落を思い出して切ない気持ちになった。

(オレの生まれた所も……弟の面倒見ていると、近所の人がよく菓子とかくれたっけ……)

 もう無い場所のいない人のことを思い出すのは辛かったけれど、今はそんな話もカインに聞いてもらいたいと思えるようになっていた。

(ああ、カインに会いたくなっちゃった)

 探知魔法がかかったニーナの手の平が少しだけ熱くなった気がした。

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