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愛しさと逃げ出したい気持ち・中編

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 しばらくしてカインが待ち合わせ時間より早く到着した。カインはニーナを見つけると嬉しそうに近づいて来た。

「すまない、待たせてしまったな。もう少し早く来れば良かった」
「ううん、オレが早く来ちゃっただけだから……」

 娼館に来る時のカインはシンプルで動きやすそうな服装だったが、今日はネクタイを締めてベストを着け、その上から丈が長い灰色の上着を羽織っている。商家の若旦那といっても通るきっちりとした着こなしにニーナは胸がドキドキした。

「今日の格好、すごく良いね」
「ああ、ありがとう。何を着れば良いか迷ってしまって、国境警備兵の上役に会う時の格好をして来たんだ……」
「え、そんな大事な時用の服、オレのために着て来てくれたの?」
「……ニーナと初めてのデートだからな」

 そう言ってカインは気まずそうに目をそらした。ニーナはカインの健気さに先程までの重苦しい思いが吹き飛んでしまった。

「ニーナもローブが良く似合っている。普段と違う姿が見られて嬉しい」
「ん……ありがとう。着心地が良くて気に入ってるんだ」
「そうなのか。ニーナは儚げな月の妖精の様だから淡い亜麻色がとても似合うな」
「ぅ、ぐ……そ、そうかな? 褒めすぎだよ」

 確かにニーナは儚げな風貌をしていたが、成人をとっくに過ぎた男に「月の妖精」と褒めるのは言い過ぎに思えた。

「そうだろうか? まだ俺は言い足りないくらいなんだが……」
「何だよ、それ……来たばっかりなのに、口説くなよ」

 ニーナは呆れつつも頬を染め、カインの腕をぐっと掴んで引き寄せた。

「ほら、ニーナお兄さんがエスコートするから早く商業区見て回ろう。あんまり遅いとお店が閉まっちゃう」

 カインと腕を組み、ニーナはスタスタと商業区の石畳を歩き始めた。

「待ってくれ、ニーナ。腕はこのままなのか?」

 カインが困った風に尋ねて来た。チラリと顔を見ると照れた顔と目が合った。

「デートといえば腕を組んで歩くものだよ。それとも手を繋ぎたかった?」

 ニーナも聞き及んだ知識しかなかったが、余裕がある風を装って言った。

「手……いや、このままで良い。ニーナと手を繋げば、俺はきっと緊張して手に汗をかいてしまう」

 カインは小さな声でそう言った。ニーナはそれは自分もそうだなと思ったが、カインがあまりにも可愛らしかったので言わずにおいた。

「そっか、じゃあ、このままが良いよね」
「ああ……頼む」

 カインは嬉しさと照れが混じった表情でニーナを見つめ返した。ニーナは普段と違う風に見えたカインが、相変わらず初心なままだったので段々と心が落ち着いていった。

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