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出会い
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ニーナは美しい獣人の青年だ。幼い頃に故郷を戦火に焼かれ、流れ流れて歓楽街の娼館で働いている。
娼館の主人は金にがめついくせに妙に人情に厚い。生きるために様々な仕事をして来た中でも一番マシだなと思い、ニーナはもう5年程働いていた。
銀色の髪に白い肌、しなやかな長い尻尾、触れたくなるようなふさふさとした耳が頭についており、涼やかな青い瞳のニーナの風貌は儚げだ。獣人なので体力があり、客のどんな要望にも応えるとのことで中々の人気があった。
しかしニーナ自身はそろそろ引退を考えていた。人気があるとはいえ今年で24才になり、年が若い頃よりは指名が減っている。引退して今までの様にどこか知らない町へふらりと放浪してしまおうかと考えていた。
そんな風な計画を練っている時にその青年とは出会った。青年は長身で凛々しい顔立ちをしており、娼館に来なくても相手には苦労しないように見えた。
青年が初めて娼館に来た日、ニーナは応接間のソファに寝転んで客を物色していた。娼館の主人に案内され所在なさげな青年を見つけ、目があったのでニコリと微笑むとハッとした顔をした後に目をそらされた。
(阿婆擦れだと思われたかな? こりゃ指名はなさそうだ)
たまには脂ぎったおじさんではなく、初心そうな男に抱かれたいと思っていたのでニーナは少しだけ残念な気持ちになった。
しかし、何故かニーナは青年に指名された。
(嫌なのかと思ったのに。不思議だな)
そんな風に思いつつ娼館の二階の部屋に入った。部屋には大きなベッドが置かれ、甘い香りの香が焚かれている。魔法で灯された照明はムーディーな薄暗さを演出しており、ここが何をする部屋なのか一目瞭然だ。
青年はベッドに腰掛けてキョロキョロと辺りを見回している。これは本当に初心だなと思いつつニコリと笑って挨拶をした。
「始めまして。オレはニーナって言います。お客さんはもしかして、こういう所は初めてですか?」
「……こういった経験はしておいた方が良いと言われて来たんだが、どうにも勝手が分からないんだ」
ベッドに腰掛けた青年は真面目な顔で言った。
「ああ、そう言ったことですか。分かりました」
ニーナが笑って頷き、青年の隣に腰を下ろした。この年頃の男は特定の相手を作る前に練習がしたいのだろう。そういった客は少なからずいる。そんなことの練習だなんて律儀だとニーナは抱かれる度に思っていた。
「今なら交代は無料で出来ますが、オレのままで大丈夫ですか?」
「ニーナ」と言う名前は女の名前であることが多い。中性的な見た目も相まって、誤って指名したので娼婦と交代しろと言われたこともあった。途中で交代なんてことになればニーナの取り分が減るので事前確認は徹底していた。
「ああ、俺は君が良いと思って……さっき、笑いかけてくれて緊張がいくらかほぐれたんだ」
青年は少しだけ目を細めて言った。
「ふふっ、そうなんですね。笑顔はよく褒められるので嬉しいです」
阿婆擦れだと思われてはいないようだったので、飛び切りの笑顔を見せた。
「……ああ」
青年はフイと目をそらした。
(初心だ……俺には眩しいな)
ニーナは青年の手を握った。
「初めてってことでしたらサービスしますよ。その代わり良かったらまた指名お願いしますね?」
甘ったるい声色で言うと、青年はまた「ああ」と答えた。
「お客さんのこと何て呼んだら良いですか? 名前を呼ばれるのが嫌だったら『ご主人様』とか『先生』とかでも良いですからね」
青年の手をマッサージするように揉みほぐしながら言った。緊張が抜けていないのか手が強張っている。
「いや、そういうのは……カインと呼んでくれ」
「カインさんですね」
「ただのカインで良い。それと敬語でなくても大丈夫だ……注文が多くてすまない。敬語で話されると仕事をしている気分になってしまうんだ」
「ふふっ、分かったよ。カイン」
ニーナはカインみたいな初心な男がどうして娼館なんかに来たんだろうなと内心苦笑した。
娼館の主人は金にがめついくせに妙に人情に厚い。生きるために様々な仕事をして来た中でも一番マシだなと思い、ニーナはもう5年程働いていた。
銀色の髪に白い肌、しなやかな長い尻尾、触れたくなるようなふさふさとした耳が頭についており、涼やかな青い瞳のニーナの風貌は儚げだ。獣人なので体力があり、客のどんな要望にも応えるとのことで中々の人気があった。
しかしニーナ自身はそろそろ引退を考えていた。人気があるとはいえ今年で24才になり、年が若い頃よりは指名が減っている。引退して今までの様にどこか知らない町へふらりと放浪してしまおうかと考えていた。
そんな風な計画を練っている時にその青年とは出会った。青年は長身で凛々しい顔立ちをしており、娼館に来なくても相手には苦労しないように見えた。
青年が初めて娼館に来た日、ニーナは応接間のソファに寝転んで客を物色していた。娼館の主人に案内され所在なさげな青年を見つけ、目があったのでニコリと微笑むとハッとした顔をした後に目をそらされた。
(阿婆擦れだと思われたかな? こりゃ指名はなさそうだ)
たまには脂ぎったおじさんではなく、初心そうな男に抱かれたいと思っていたのでニーナは少しだけ残念な気持ちになった。
しかし、何故かニーナは青年に指名された。
(嫌なのかと思ったのに。不思議だな)
そんな風に思いつつ娼館の二階の部屋に入った。部屋には大きなベッドが置かれ、甘い香りの香が焚かれている。魔法で灯された照明はムーディーな薄暗さを演出しており、ここが何をする部屋なのか一目瞭然だ。
青年はベッドに腰掛けてキョロキョロと辺りを見回している。これは本当に初心だなと思いつつニコリと笑って挨拶をした。
「始めまして。オレはニーナって言います。お客さんはもしかして、こういう所は初めてですか?」
「……こういった経験はしておいた方が良いと言われて来たんだが、どうにも勝手が分からないんだ」
ベッドに腰掛けた青年は真面目な顔で言った。
「ああ、そう言ったことですか。分かりました」
ニーナが笑って頷き、青年の隣に腰を下ろした。この年頃の男は特定の相手を作る前に練習がしたいのだろう。そういった客は少なからずいる。そんなことの練習だなんて律儀だとニーナは抱かれる度に思っていた。
「今なら交代は無料で出来ますが、オレのままで大丈夫ですか?」
「ニーナ」と言う名前は女の名前であることが多い。中性的な見た目も相まって、誤って指名したので娼婦と交代しろと言われたこともあった。途中で交代なんてことになればニーナの取り分が減るので事前確認は徹底していた。
「ああ、俺は君が良いと思って……さっき、笑いかけてくれて緊張がいくらかほぐれたんだ」
青年は少しだけ目を細めて言った。
「ふふっ、そうなんですね。笑顔はよく褒められるので嬉しいです」
阿婆擦れだと思われてはいないようだったので、飛び切りの笑顔を見せた。
「……ああ」
青年はフイと目をそらした。
(初心だ……俺には眩しいな)
ニーナは青年の手を握った。
「初めてってことでしたらサービスしますよ。その代わり良かったらまた指名お願いしますね?」
甘ったるい声色で言うと、青年はまた「ああ」と答えた。
「お客さんのこと何て呼んだら良いですか? 名前を呼ばれるのが嫌だったら『ご主人様』とか『先生』とかでも良いですからね」
青年の手をマッサージするように揉みほぐしながら言った。緊張が抜けていないのか手が強張っている。
「いや、そういうのは……カインと呼んでくれ」
「カインさんですね」
「ただのカインで良い。それと敬語でなくても大丈夫だ……注文が多くてすまない。敬語で話されると仕事をしている気分になってしまうんだ」
「ふふっ、分かったよ。カイン」
ニーナはカインみたいな初心な男がどうして娼館なんかに来たんだろうなと内心苦笑した。
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