7 / 30
7
しおりを挟む
「遥君、来月の懇親会の日は予定空きそう?」
「ええ、大丈夫です。午後休を使って必ず行きます」
敬久さんは嬉しそうに「良かった」と微笑んだ。今日は仕事帰りに敬久さんと待ち合わせをして、個室の居酒屋に来ていた。
今は食事もあらかた終わり、そろそろ帰ろうかなんて話をしながら、グラスの底に残っている烏龍茶をちびちびと飲んでいる所だ。
「あなたと一緒に行けるなんて、楽しみです。本当に楽しみで……」
オレはグラスを離すと、向かいに座る敬久さんに手を伸ばして彼の指先にそっと触れた。
「遥君、酔った?」
オレはアルコールに弱いので烏龍茶を啜っていたのだが、敬久さんが注文した日本酒が美味しそうだったので少しだけ飲ませてもらった。アルコールには弱いがお酒が嫌いなわけではない。
「懇親会、楽しみなんです」
一口、二口ほど飲んだ日本酒は口当たりが爽やかでキリリとした辛口の味わいだった。飲んでからしばらく経つが、体がポカポカと熱くなって気分が良い。
「そんなに楽しみなんだ」
「だって、オレ、あなたと出会ったのが懇親会ですし」
「そっかあ……懐かしいな」
オレが触れている指先を掴んで彼はスリスリと撫でてくれる。個室とはいえ、隣の席と衝立一枚挟んだだけの場所で何をイチャついているんだと頭の中のまだまだ冷静な部分が考えてはいたが、今はその思考を無視した。
「何だか、幸せだなって……」
「遥君、お酒飲んで眠くなって来たんじゃない? 目がトロンとしてるよ」
「ふふ……今日は、敬久さんがオレの家に来るし、まだ眠くないですよ……少しだけしか、眠くないです」
「酔っているなあ 。タクシー呼んどこうか」
敬久さんは苦笑して、片手で器用に携帯電話を操作しはじめた。もう片方の手はオレの指先を撫でたままでいてくれる。
(敬久さんは本当に優しいな)
敬久さんが傍にいると気を抜いて酔えると言うか、もしもオレがいつかのように酔って足元がおぼつかなくなり情けなく転んでも、彼なら手を差し伸べて並んで歩いてくれる信頼があるというか――とにかく敬久さんの傍は居心地が良くて安心する。
(これが……年上の包容力という物なのか?)
確かに敬久さんはオレの11才上だが、仕事の関係者でもあったせいか年齢をそこまで意識したことはない。
(敬久さんは自分のことよく「おじさん」って言うけど、全然おじさんじゃないしなあ)
包容力は年齢云々ではなく元々彼の気質なのだろう。
(たまに年が離れているのを気にしているけど、オレだって同い年くらいに生まれて、早くに出会いたかったし……とにかく敬久さんは優しくて可愛いし……かっこ良くて、好きだ……)
言葉選びから確実に思考力が落ちている。ふぅっと深呼吸をして敬久さんの手をキュッと握った。
「大通りの方にタクシー呼んだから、そろそろ出ようか」
「はい……ありがとうございます」
「手を繋いだまま外に出ても良いんだよ?」
オレが名残惜しさを感じながら指を離そうとしている姿を見て、彼はいたずらっぽくそう言った。
「ぅ……それは、二人だけの時なら全然良いんですけど」
「冗談だよ。離すの寂しそうだったから」
敬久さんはクスクスと笑って立ち上がり、まだ座ったままのオレの頭をポンポンと撫でた。
「ええ、大丈夫です。午後休を使って必ず行きます」
敬久さんは嬉しそうに「良かった」と微笑んだ。今日は仕事帰りに敬久さんと待ち合わせをして、個室の居酒屋に来ていた。
今は食事もあらかた終わり、そろそろ帰ろうかなんて話をしながら、グラスの底に残っている烏龍茶をちびちびと飲んでいる所だ。
「あなたと一緒に行けるなんて、楽しみです。本当に楽しみで……」
オレはグラスを離すと、向かいに座る敬久さんに手を伸ばして彼の指先にそっと触れた。
「遥君、酔った?」
オレはアルコールに弱いので烏龍茶を啜っていたのだが、敬久さんが注文した日本酒が美味しそうだったので少しだけ飲ませてもらった。アルコールには弱いがお酒が嫌いなわけではない。
「懇親会、楽しみなんです」
一口、二口ほど飲んだ日本酒は口当たりが爽やかでキリリとした辛口の味わいだった。飲んでからしばらく経つが、体がポカポカと熱くなって気分が良い。
「そんなに楽しみなんだ」
「だって、オレ、あなたと出会ったのが懇親会ですし」
「そっかあ……懐かしいな」
オレが触れている指先を掴んで彼はスリスリと撫でてくれる。個室とはいえ、隣の席と衝立一枚挟んだだけの場所で何をイチャついているんだと頭の中のまだまだ冷静な部分が考えてはいたが、今はその思考を無視した。
「何だか、幸せだなって……」
「遥君、お酒飲んで眠くなって来たんじゃない? 目がトロンとしてるよ」
「ふふ……今日は、敬久さんがオレの家に来るし、まだ眠くないですよ……少しだけしか、眠くないです」
「酔っているなあ 。タクシー呼んどこうか」
敬久さんは苦笑して、片手で器用に携帯電話を操作しはじめた。もう片方の手はオレの指先を撫でたままでいてくれる。
(敬久さんは本当に優しいな)
敬久さんが傍にいると気を抜いて酔えると言うか、もしもオレがいつかのように酔って足元がおぼつかなくなり情けなく転んでも、彼なら手を差し伸べて並んで歩いてくれる信頼があるというか――とにかく敬久さんの傍は居心地が良くて安心する。
(これが……年上の包容力という物なのか?)
確かに敬久さんはオレの11才上だが、仕事の関係者でもあったせいか年齢をそこまで意識したことはない。
(敬久さんは自分のことよく「おじさん」って言うけど、全然おじさんじゃないしなあ)
包容力は年齢云々ではなく元々彼の気質なのだろう。
(たまに年が離れているのを気にしているけど、オレだって同い年くらいに生まれて、早くに出会いたかったし……とにかく敬久さんは優しくて可愛いし……かっこ良くて、好きだ……)
言葉選びから確実に思考力が落ちている。ふぅっと深呼吸をして敬久さんの手をキュッと握った。
「大通りの方にタクシー呼んだから、そろそろ出ようか」
「はい……ありがとうございます」
「手を繋いだまま外に出ても良いんだよ?」
オレが名残惜しさを感じながら指を離そうとしている姿を見て、彼はいたずらっぽくそう言った。
「ぅ……それは、二人だけの時なら全然良いんですけど」
「冗談だよ。離すの寂しそうだったから」
敬久さんはクスクスと笑って立ち上がり、まだ座ったままのオレの頭をポンポンと撫でた。
0
お気に入りに追加
24
あなたにおすすめの小説
闇を照らす愛
モカ
BL
いつも満たされていなかった。僕の中身は空っぽだ。
与えられていないから、与えることもできなくて。結局いつまで経っても満たされないまま。
どれほど渇望しても手に入らないから、手に入れることを諦めた。
抜け殻のままでも生きていけてしまう。…こんな意味のない人生は、早く終わらないかなぁ。
僕は本当に幸せでした〜刹那の向こう 君と過ごした日々〜
エル
BL
(2024.6.19 完結)
両親と離れ一人孤独だった慶太。
容姿もよく社交的で常に人気者だった玲人。
高校で出会った彼等は惹かれあう。
「君と出会えて良かった。」「…そんなわけねぇだろ。」
甘くて苦い、辛く苦しくそれでも幸せだと。
そんな恋物語。
浮気×健気。2人にとっての『ハッピーエンド』を目指してます。
*1ページ当たりの文字数少なめですが毎日更新を心がけています。
例え何度戻ろうとも僕は悪役だ…
東間
BL
ゲームの世界に転生した留木原 夜は悪役の役目を全うした…愛した者の手によって殺害される事で……
だが、次目が覚めて鏡を見るとそこには悪役の幼い姿が…?!
ゲームの世界で再び悪役を演じる夜は最後に何を手に?
攻略者したいNO1の悪魔系王子と無自覚天使系悪役公爵のすれ違い小説!
君が好き過ぎてレイプした
眠りん
BL
ぼくは大柄で力は強いけれど、かなりの小心者です。好きな人に告白なんて絶対出来ません。
放課後の教室で……ぼくの好きな湊也君が一人、席に座って眠っていました。
これはチャンスです。
目隠しをして、体を押え付ければ小柄な湊也君は抵抗出来ません。
どうせ恋人同士になんてなれません。
この先の長い人生、君の隣にいられないのなら、たった一度少しの時間でいい。君とセックスがしたいのです。
それで君への恋心は忘れます。
でも、翌日湊也君がぼくを呼び出しました。犯人がぼくだとバレてしまったのでしょうか?
不安に思いましたが、そんな事はありませんでした。
「犯人が誰か分からないんだ。ねぇ、柚月。しばらく俺と一緒にいて。俺の事守ってよ」
ぼくはガタイが良いだけで弱い人間です。小心者だし、人を守るなんて出来ません。
その時、湊也君が衝撃発言をしました。
「柚月の事……本当はずっと好きだったから」
なんと告白されたのです。
ぼくと湊也君は両思いだったのです。
このままレイプ事件の事はなかった事にしたいと思います。
※誤字脱字があったらすみません
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる