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また君と星を見上げて・後編(柊山視点)

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「おかえりなさい」

 部屋の鍵を開けると玄関の近くで待っていてくれたのだろうか、すぐに遥君が現れた。羽織は脱いでおり、浴衣一枚の遥君からはますます色気が漂っている。

「ただいま、遥君」

 僕は部屋の中に入ると遥君を抱きしめた。布一枚にくるまれた彼の熱い体温がこちらにも伝わってくる。

「敬久さん、温泉の良い匂いがします」

 遥君は僕の背中を優しい手付きで撫で、くすぐったい声色で囁いた。

「うん、別館の温泉に行ってみたんだ」
「そうなんですね。別館の温泉はどんな感じでした?」
「君がいなくて寂しかったから温泉からはすぐに出ちゃった」
「そ、そう、ですか……」

 そう伝えると遥君は僕の肩に顔を埋めてギュッと抱きしめ返してくれた。

「寂しくさせてすみません。もう、準備出来ていますから」

 肩に頭を擦りつけ誘うような言葉に僕は心の中の欲望を膨らませた。彼は少しの間そうしてから顔を上げて僕の唇に軽くキスをした。

「ん……」
「……はぁ……このまま一緒に寝室行きますか? ああ、お風呂上がりですし水分補給しないとですね」

 彼は気遣う様に優しく尋ねてくれた。

「飲み物を用意しますよ」
「ううん、外で水分を摂って来たから大丈夫。あー、そうだ……洗面所に行って来て良いかな。顔を洗いたいんだ」
「分かりました」

 遥君は頷いて体を離した。そしてしばらく僕を見つめた後に耳元に顔を近づけて「先にお布団で待っていますから、早く来てくださいね」といたずらっぽく囁き、寝室の襖を開けて中に入って行った。

――遥君がどんどん小悪魔になっていく。ああいう可愛らしい……僕の心をかき乱す言い方はどこで覚えて来るんだろうか?

 しばらく立ち尽くして遥君の甘ったるい言葉を噛み締めた。

――はぁ……顔を洗おう。性急にことを進めないように落ち着かないと

 羽織を脱いで畳むと、はやる気持ちを抑えるために洗面所に向かった。

 洗面所は玄関のすぐ近くにある。磨き込まれた洗面所の鏡を見つめて深呼吸をした。自分で思っているよりは普通の表情をしていたので心底ほっとした。

 蛇口を捻り、冷たい水をすくってパシャパシャと顔を洗った。ひんやりとした水が火照った顔や心を落ち着かせてくれる。

――少しだけ落ち着いて来たな。理性が引きちぎれないようにしないと……遥君に怖がられることだけはしたくないからな

 彼に対する気持ちが暗い方向に盛り上がると「閉じ込めたい」だとか「攫って家に帰したくない」だとか、危ないことばかり考えてしまう。

 僕は頬を軽く叩いて洗面所を後にした。

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