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また君と星を見上げて・後編(柊山視点)
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「思っていたよりも遅くなっちゃいましたね」
遥君と館内の温泉を巡り、テラスで休憩したり、旅館の庭を散策しているともう夕食の時間になっていた。
僕達は夕食を摂るために旅館内のレストランに向かっている。別館などもある広い旅館なので移動に多少の時間がかかってしまう。
「大丈夫だよ。予約の時間には間に合うから」
「やっぱり、部屋を出るのが遅かったせいですよね。早く出ていたら敬久さんと温泉でもう少しゆっくり出来たのに」
遥君は部屋でのことを気にしているようだ。シュンとした姿は思わず抱きしめたくなってしまうけれど、往来でそんなことをすれば彼は逃げ出してしまうだろう。抱きしめたい気持ちをグッと押さえた。
「ううん、落ち着くまで部屋を出ちゃダメって僕が言ったからだよ」
「ぅ、でも……」
遥君の上気した顔や熱っぽく潤んだ瞳を誰にも見せたくなかった。正直あのまま部屋にずっといても良かったくらいだ。
――でも、遥君も楽しみにしていた温泉巡りを、僕の独占欲だけで中止にするのはどう考えてもダメだからな
もし温泉巡りに行かなければ、あのまま流されるように体を重ねていたのだろうか。
――恋人と肌を合わせたくなるのは悪いことではないけれど、自制も必要だからな。僕だってこの旅行中にグラグラした理性がいつ吹き飛ぶか分からないし……遥君を家に帰したくなくなってしまったら、どうしようかな……
自分の執着が彼を縛り付けないように慎重にならなければいけない。遥君への薄暗い想いが暴走すれば、このまま彼を物理的に攫って誰にも奪われないように閉じ込めてしまうだろう。
――疲れている時……よくそういう欲望で彼を閉じ込める想像をしては自戒しているからな。僕ってけっこう危ない人間だ……
ふっと自嘲気味に息を吐いた。また遥君に叱ってもらわないといけない。
「ね、遥君。僕は君のエッチな顔を誰にも見せたくなかったんだ」
彼の耳元に顔を近づけて、囁くように言った。
「……エ、エッチって……も、もうっ」
遥君は小声で呻き、僕の顔をグイグイと押しのけた。
「外でそういうこと言うの、ダメですよ」
遥君は慌てて周囲をキョロキョロと見渡した。今歩いている廊下は庭を眺められるようにガラス窓が張り巡らされ、椅子とテーブルが転々と置かれている。
他の宿泊客達は椅子に座って談笑しているので小さな声はかき消されているだろう。遥君は周囲に会話が聞こえていないことにほっとしたようだ。
「うん、分かった。部屋に戻ったら沢山言うから叱って欲しいな」
「な、な……」
「ふふっ、のぼせたみたいに赤くなっているね」
僕は口元に手を当ててクスクスと笑った。遥君はわなわなと震えて赤くなっている。震える彼の頭を撫でかけて、慌てて手を引っ込めた。旅行で気分が開放的になっているので気を抜くと危ない。
――ああ、遥君が可愛いからって、また外でからかってしまった。僕は温泉旅行に浮かれているなあ
彼はモゴモゴと唸っているけれど先程のように後ろめたそうな雰囲気はなくなっている気がする。
「遥君。温泉楽しかったよね」
「ぅ、え? は、はい、それはもう、すごく楽しかったです」
遥君は深呼吸しつつ、困ったように微笑んで返事をしてくれた。レストランへ続く廊下は温かい色味の間接照明に照らされていて雰囲気が良い。遥君の赤い顔も照明の色で隠されている。
「後で部屋のお風呂にも入ろうね」
「は、はい……」
遥君の顔が更に赤くなった気がした。
遥君と館内の温泉を巡り、テラスで休憩したり、旅館の庭を散策しているともう夕食の時間になっていた。
僕達は夕食を摂るために旅館内のレストランに向かっている。別館などもある広い旅館なので移動に多少の時間がかかってしまう。
「大丈夫だよ。予約の時間には間に合うから」
「やっぱり、部屋を出るのが遅かったせいですよね。早く出ていたら敬久さんと温泉でもう少しゆっくり出来たのに」
遥君は部屋でのことを気にしているようだ。シュンとした姿は思わず抱きしめたくなってしまうけれど、往来でそんなことをすれば彼は逃げ出してしまうだろう。抱きしめたい気持ちをグッと押さえた。
「ううん、落ち着くまで部屋を出ちゃダメって僕が言ったからだよ」
「ぅ、でも……」
遥君の上気した顔や熱っぽく潤んだ瞳を誰にも見せたくなかった。正直あのまま部屋にずっといても良かったくらいだ。
――でも、遥君も楽しみにしていた温泉巡りを、僕の独占欲だけで中止にするのはどう考えてもダメだからな
もし温泉巡りに行かなければ、あのまま流されるように体を重ねていたのだろうか。
――恋人と肌を合わせたくなるのは悪いことではないけれど、自制も必要だからな。僕だってこの旅行中にグラグラした理性がいつ吹き飛ぶか分からないし……遥君を家に帰したくなくなってしまったら、どうしようかな……
自分の執着が彼を縛り付けないように慎重にならなければいけない。遥君への薄暗い想いが暴走すれば、このまま彼を物理的に攫って誰にも奪われないように閉じ込めてしまうだろう。
――疲れている時……よくそういう欲望で彼を閉じ込める想像をしては自戒しているからな。僕ってけっこう危ない人間だ……
ふっと自嘲気味に息を吐いた。また遥君に叱ってもらわないといけない。
「ね、遥君。僕は君のエッチな顔を誰にも見せたくなかったんだ」
彼の耳元に顔を近づけて、囁くように言った。
「……エ、エッチって……も、もうっ」
遥君は小声で呻き、僕の顔をグイグイと押しのけた。
「外でそういうこと言うの、ダメですよ」
遥君は慌てて周囲をキョロキョロと見渡した。今歩いている廊下は庭を眺められるようにガラス窓が張り巡らされ、椅子とテーブルが転々と置かれている。
他の宿泊客達は椅子に座って談笑しているので小さな声はかき消されているだろう。遥君は周囲に会話が聞こえていないことにほっとしたようだ。
「うん、分かった。部屋に戻ったら沢山言うから叱って欲しいな」
「な、な……」
「ふふっ、のぼせたみたいに赤くなっているね」
僕は口元に手を当ててクスクスと笑った。遥君はわなわなと震えて赤くなっている。震える彼の頭を撫でかけて、慌てて手を引っ込めた。旅行で気分が開放的になっているので気を抜くと危ない。
――ああ、遥君が可愛いからって、また外でからかってしまった。僕は温泉旅行に浮かれているなあ
彼はモゴモゴと唸っているけれど先程のように後ろめたそうな雰囲気はなくなっている気がする。
「遥君。温泉楽しかったよね」
「ぅ、え? は、はい、それはもう、すごく楽しかったです」
遥君は深呼吸しつつ、困ったように微笑んで返事をしてくれた。レストランへ続く廊下は温かい色味の間接照明に照らされていて雰囲気が良い。遥君の赤い顔も照明の色で隠されている。
「後で部屋のお風呂にも入ろうね」
「は、はい……」
遥君の顔が更に赤くなった気がした。
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