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忙しない季節とキスの痕(此木視点)

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 十二月二十九日の朝、敬久さんもオレもアラームより早く起きた。二人して深夜に一度起きたけれど、その後はすぐに眠れたので目覚めは悪くない。

「ね、枕と入れ替わるのやってみてよ」

 敬久さんはベッドに寝転び、オレの腰の辺りを抱きしめて楽しそうに言った。

「こんな抱きしめられていたら……無理です……」
「そっかあ、残念だなあ」

 先日のクリスマスの朝、敬久さんを起こさないように枕を身代わりにして彼の腕から抜け出た。それを敬久さんは見たかったようだ。

「腕を緩めてくれたら出来ますよ」
「そうだよね。でも、せっかく君を捕まえているしなあ」
「ふ……何ですか、それ」

 オレは胸がキュンとしてしまったので、腰を掴む腕を撫でた。最近、敬久さんとの関係がどんどん深まっている気がする。

――やっぱり、お互いに……あ、愛してるって言うようになったからかな。来年で恋人になって一年経つし……これからもずっと、こんな甘やかな日々を過ごしたい……欲張りだろうか……

「遥君のパジャマのズボン、探さないとね」

 剥き出しになっているオレの太腿を敬久さんが布団の中で撫でた。オレのパジャマの前は開いており、下半身は下着一枚というだいぶ乱れた格好をしている。パジャマの上は敬久さんを胸に抱いていたからだが、下は寝ている時に熱くなって脱いでしまった。

「乱れた格好ですみません……」
「朝なんだから、そんなの気にしなくて良いよ」

 敬久さんは抱きしめる腕を離してパジャマのボタンを留めてくれた。

「ありがとうございます」
「遥君、本当にパジャマが似合うよねえ」

 全てのボタンを留め終わると、また腰を抱きしめられた。

「今日はゆっくり過ごそうね」
「はい……」
「体は辛くない?」
「大丈夫です」

 昨日はじっくりと時間をかけてお互いの体の形を確かめ合うように体を重ねた。思い出すだけで顔が熱い。

「…………き、昨日みたいなの……また、したいです」
「うん……もちろん」

 敬久さんの足に自分の足を絡めると、彼はオレの頬に唇を落としてくれた。

「あ! でも……毎回だと……オレがいっぱいいっぱいで記憶が曖昧になるので……た、たまにで……お願いします……」
「ふふ……分かった」

 敬久さんは愛しそうな顔で目を細めた。

――胸のときめきで爆発しそうだ……この時間がずっと続けば良い……それなのに、明日からまた会えなくなるのか。世間の恋人達は会えない時間をどうやって乗り越えているんだ……? オレは経験がほぼないから、こういった時、どうすれば良いのか分からない……

 オレが悶々と考え込んでいると敬久さんが顔を覗き込んで来た。

「どうかしたの?」
「あ、いや、明日が来たら……しばらくは会えないんだなって……寂しくなってしまって……」
「……うん」

 敬久さんはオレをギュッと抱きしめた。

「また僕の所に帰って来てよ」
「はい……」

 オレも敬久さんの家の玄関で、また「お帰り」と言って迎え入れてもらいたい。「ただいま」と返すのは照れてしまうけれど、敬久さんの生活する場所で一緒に過ごしたい。

「遥君。僕達、来年の二月で、恋人になって一年経つよね」
「そうですね。キャンプした日からですから……」

 敬久さんは何か言いたげにオレを見つめた。

「それで…………えーと……あれって初デートになるのかなあ」

 一瞬考えるような間があったが、敬久さんは何でもない風に言った。

――敬久さん、何か他のことを言いかけたように見えたけれど、オレの気のせいだろうか……?

 彼は相変わらず穏やかな表情だ。オレは内心首を傾げながらも、問いかけられた内容について考えた。

「……初デートですか……あれは……デートだったんでしょうか……?」

 酔った勢いで告白し、築き上げた関係が崩れることを恐れたオレを敬久さんは半ば強引にキャンプに連れて行った。

「……オレは震えながら寝袋にくるまっていましたよね」
「……その節はすみませんでした、此木さん」

 敬久さんは気まずそうにオレを「此木さん」と呼んだ。彼のそんな姿が可笑しくて笑ってしまった。

「ふふっ……でも、あなたに返事を貰えたことや星を見たこと……朝、キスされたこと……すごく嬉しかったです」
「それなら良かった……」
「……ただ、もう真冬にテントは懲り懲りです」
「そっかぁ……また、君とキャンプに行きたいなって思っていたんだけれどなあ」

 心底残念そうに言われた。

「……デイキャンプなら、付き合いますから」
「うん、分かった」

 敬久さんはにこやかに笑うとオレの瞼に唇を落とした。

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