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二人しか知らない秘密・中編(此木視点)
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三十分程歩くと、柵越しに湖が一望出来る小高い丘のような所に出た。敬久さんが三脚をテキパキと組み立て、二人で写真を撮った。
周りを見ると、オレ達のように写真を撮っている人達が多くなっている。
「ちょっと人が増えて来たね」
敬久さんは三脚をたたみながら言った。
「はい、人気なんですね」
都会から近い紅葉スポットなだけあり、人が増えて来ているようだ。朝早くに出発したけれど、帰りは渋滞にはまってしまうかもしれない。
「連休中ですし、帰りは道が混むかもしれませんね」
「そうだね。もう少し散策したら、予定より早めに切り上げようか」
「そうですね」
敬久さんが三脚をバッグにしまい終わったので、また二人で散策コースを歩き始めた。
「また、僕と一緒に来てくれる?」
「もちろんです!」
オレは緩んだ笑顔で頷いた。敬久さんはカメラを構えて、写真をまたパシャパシャと撮った。
「……オレ、またニヤついた顔を」
「大丈夫、可愛いよ。君の笑顔好きなんだ」
「……ぁ、う」
敬久さんは、いつも唐突に口説き文句を言ってくるので返答に困ってしまう。
「……外で、突然、そういうことを言うのは……ドキドキしちゃうから、やめてくださいよ」
「へえ、ドキドキしているんだ」
少しだけからかうように彼は言った。
「はぁ……もう…………あー、敬久さんはこの辺りはよく来るんですか」
オレがこれ以上何か言うと更にからかわれそうだと思い、話題を無理矢理変えた。
「ふふっ、うん、キャンプ場が近いからね。遥君も、また一緒にキャンプへ行ってみる?」
「……オレは、その……」
敬久さんと初めてキャンプをした時のことを思い出してしまった。あれは、彼と恋人になれた素晴らしい思い出であるはずなのに、オレは始終寒さで丸まっていた。
「初めてキャンプした時は、僕が無理矢理連れ去ったから、寒かったよね」
「ええ……まあ、寒かったですね……」
「僕も、あの時はあまり余裕がなかったから、キャンプが初めての君を真冬に連れ出しちゃって、ごめんね……」
「そんな……謝らないでくださいよ」
――敬久さん、あの時、余裕がなかったんだ……分からなかったな……
彼は年上だからだろうか、いつも落ち着いていて穏やかだ。オレのようにひどく焦ったり、狼狽えたりする姿は、ほとんど見たことがない。
――敬久さんは、溜め込んでしまうタイプだから、あまり顔にも出ないのだろうな……でも、最近は前よりも、オレの胸で寝てくれたり……甘えてくれるようになったからな……!
妙に誇らしい気分になってしまった。
昨日は朝に体を重ねたので、夜は敬久さんを胸に抱いて眠った。二人で穏やかに眠るのは、彼の生活の一部になれたような気がして、とても嬉しい。体を重ねるのとはまた違った喜びだ。
「日帰りのキャンプでしたら、付き合いますから」
敬久さんはデイキャンプも好きだと言っていたので、そちらだったらいつでも付き合いたい。テントで眠るのだけは、夏でも冬でも慣れる気がしない。
「え、本当? すごく嬉しいよ!」
敬久さんは明るい声でそう言うと、オレと手を繋ぐようにギュッと握った。
「あっ、ごめん」
彼はそう言うと素早く手を離した。オレが外で手を繋いだり、イチャイチャするのは得意ではないので気を遣わせてしまったようだ。
「……気を遣わせて……すみません」
「いや、こちらこそ、つい……」
敬久さんは気まずそうに笑いながら、胸元のカメラを触った。
――オレは手を繋ぐのが嫌なわけではないのに……どうしても、人目があると躊躇してしまうな……オレだって、敬久さんに触りたいのに……
オレは数人のグループとすれ違ったのを確認してから、カメラを触っている敬久さんの手をギュッと握った。
「遥君?」
「じゅ、十秒程、オレと手を繋いで頂けますか……?」
敬久さんは目をパチパチさせた後にクスクスと笑って「いくらでも付き合うよ」と言ってくれた。
周りを見ると、オレ達のように写真を撮っている人達が多くなっている。
「ちょっと人が増えて来たね」
敬久さんは三脚をたたみながら言った。
「はい、人気なんですね」
都会から近い紅葉スポットなだけあり、人が増えて来ているようだ。朝早くに出発したけれど、帰りは渋滞にはまってしまうかもしれない。
「連休中ですし、帰りは道が混むかもしれませんね」
「そうだね。もう少し散策したら、予定より早めに切り上げようか」
「そうですね」
敬久さんが三脚をバッグにしまい終わったので、また二人で散策コースを歩き始めた。
「また、僕と一緒に来てくれる?」
「もちろんです!」
オレは緩んだ笑顔で頷いた。敬久さんはカメラを構えて、写真をまたパシャパシャと撮った。
「……オレ、またニヤついた顔を」
「大丈夫、可愛いよ。君の笑顔好きなんだ」
「……ぁ、う」
敬久さんは、いつも唐突に口説き文句を言ってくるので返答に困ってしまう。
「……外で、突然、そういうことを言うのは……ドキドキしちゃうから、やめてくださいよ」
「へえ、ドキドキしているんだ」
少しだけからかうように彼は言った。
「はぁ……もう…………あー、敬久さんはこの辺りはよく来るんですか」
オレがこれ以上何か言うと更にからかわれそうだと思い、話題を無理矢理変えた。
「ふふっ、うん、キャンプ場が近いからね。遥君も、また一緒にキャンプへ行ってみる?」
「……オレは、その……」
敬久さんと初めてキャンプをした時のことを思い出してしまった。あれは、彼と恋人になれた素晴らしい思い出であるはずなのに、オレは始終寒さで丸まっていた。
「初めてキャンプした時は、僕が無理矢理連れ去ったから、寒かったよね」
「ええ……まあ、寒かったですね……」
「僕も、あの時はあまり余裕がなかったから、キャンプが初めての君を真冬に連れ出しちゃって、ごめんね……」
「そんな……謝らないでくださいよ」
――敬久さん、あの時、余裕がなかったんだ……分からなかったな……
彼は年上だからだろうか、いつも落ち着いていて穏やかだ。オレのようにひどく焦ったり、狼狽えたりする姿は、ほとんど見たことがない。
――敬久さんは、溜め込んでしまうタイプだから、あまり顔にも出ないのだろうな……でも、最近は前よりも、オレの胸で寝てくれたり……甘えてくれるようになったからな……!
妙に誇らしい気分になってしまった。
昨日は朝に体を重ねたので、夜は敬久さんを胸に抱いて眠った。二人で穏やかに眠るのは、彼の生活の一部になれたような気がして、とても嬉しい。体を重ねるのとはまた違った喜びだ。
「日帰りのキャンプでしたら、付き合いますから」
敬久さんはデイキャンプも好きだと言っていたので、そちらだったらいつでも付き合いたい。テントで眠るのだけは、夏でも冬でも慣れる気がしない。
「え、本当? すごく嬉しいよ!」
敬久さんは明るい声でそう言うと、オレと手を繋ぐようにギュッと握った。
「あっ、ごめん」
彼はそう言うと素早く手を離した。オレが外で手を繋いだり、イチャイチャするのは得意ではないので気を遣わせてしまったようだ。
「……気を遣わせて……すみません」
「いや、こちらこそ、つい……」
敬久さんは気まずそうに笑いながら、胸元のカメラを触った。
――オレは手を繋ぐのが嫌なわけではないのに……どうしても、人目があると躊躇してしまうな……オレだって、敬久さんに触りたいのに……
オレは数人のグループとすれ違ったのを確認してから、カメラを触っている敬久さんの手をギュッと握った。
「遥君?」
「じゅ、十秒程、オレと手を繋いで頂けますか……?」
敬久さんは目をパチパチさせた後にクスクスと笑って「いくらでも付き合うよ」と言ってくれた。
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