94 / 108
第二部
仲良くなりたい
しおりを挟む「そんなに沈んだ顔をしないでくださいよクロスさん。せっかくの旅路が台無しじゃないですか」
役所でニニと合流した僕はウェインさんに先導されるがまま移動し――気がつけば電車に乗り込んでいた。
最悪だ。
まさか二度もこの狂気の箱に乗ることになるなんて……。
「ていうか、まだ動いてすらいないのになんで酔ってるんですか。それはさすがに気にし過ぎでしょう」
「もう条件反射みたいなもんなんだよ……」
僕だって好きでこうしてるんじゃない。
本当なら、みんなと仲睦まじく笑いながら楽しみたいのだ(別にそうでもないけど)。
「クロスさんがそこまで乗り物に弱いとは知らず、すみません」
二対二で向かい合う四人掛けの席で、僕の隣に並んで座るウェインさんが、背中を優しく擦ってくれる。何だこの人、優し過ぎるだろ。
「そうやって甘やかさないであげてください、ウェインさん。彼にとって今は試練なんですから、千尋の谷に突き落とすくらいの気持ちで接してあげないとだめですよ」
「それは失礼しました。クロスさん、頑張ってください」
僕に触れていた手の感触がなくなる……ニニ、覚えてろよ。
「……その、ウェインさん。ちょっと気になってたんですけれど、僕の呼び方変わってませんか?」
気を紛らわすための雑談というのもあるが、普通に気になっていたことを質問する。先程市長室で会った時から何か違和感があったのだが、彼女が僕のことを下の名前で呼ぶようになっていたのだ。
レーバンさんからクロスさんになった。
「馴れ馴れしかったでしょうか? でしたら改めますね」
「あ、いえ、全然そんなことは……どうしてなのかなって、少し疑問に思っただけで」
「特に深い意味があるわけでもないんですが、これから共に行動する以上、親密になるに越したことはないと思いまして」
ウェインさんはハニカミながらそう言った。
うん、やっぱり可愛い人だ。
「クロスさん、顔がきもいです」
「随分ストレートに罵倒してくれるな、ニニ。もっとオブラートに包め」
「にやけ顔が気に食わないのでやめてください」
「お前のオブラート既に溶けてるじゃねえか!」
中身が駄々漏れだ。
「ウェインさんも、こんな男に優しくするもんじゃないですよ。隙を見ては私の胸をどう揉んでやろうか考えている変態なんですから」
「誰がお前の胸なんざ揉むか!」
「ああ、そう言えばあなたはお尻派の代表でしたね」
「男の二大派閥を代表する程尻に興味ねえよ!」
「でも、初めて会った時言ってたじゃないですか。『お前のケツは良い感じに引き締まってて触り心地が最高だな』って」
「まずそんな変態発言をしていないということが一点、そしてそのセリフを言うってことは尻を触ってるじゃねえか! 僕は仲間の尻を撫でて感想なんて言わない!」
「ふふっ」
僕とニニがあわや掴み合いの喧嘩を始めそうなタイミングで(そんなことはしない)、ウェインさんが小さく笑った。
「お二人とも、本当に仲が良いんですね。羨ましい限りです」
「……今のやり取りを羨ましいと感じるのは、それはそれで問題があるのでは?」
「そうでしょうか? とても微笑ましかったと思いますよ」
意外と下ネタに耐性があるらしい。
まあ、彼女も年相応の経験を積んできたはずだし、僕たちみたいなガキの戯言には慣れているんだろう。
……そう言えば、ウェインさんの正確な年齢をまだ知らないな。僕やニニより年上なのは当然として、一体いくつなんだろう。
レディに直接年齢を訊くのは憚られるので、遠回りして確かめることにしよう。
「ウェインさんって、カイさんより年下なんですか?」
「さあ、どっちだと思います?」
素直に答えてくれなかった……意外と意地悪だ。
まあ恐らく年下なんだろうけれど……カイさんは誰に対してもあんな感じだし、ウェインさんも常に敬語だし、確証はない。
「年下、ですかね」
「やっぱりそう見えますか? 実はここだけの話、カイさんより十個年上なんですよ」
「じゅ、十個も⁉」
あの人が確か三一歳だから……四一⁉
美魔女過ぎるっ!
「もちろん嘘ですよ。ふふっ」
驚き慄いている僕を嘲笑うかのように、ウェインさんは可愛らしく微笑んだ。
「……ウェインさん、冗談も言うんですね」
「普段はあまり、得意ではないもので……ですが、お二人と仲良くなりたいので、砕けた方がいいかなと」
僕を下の名前で読んだり冗談を言ったり、仲良くなりたいというのはきっと本心なのだろう。
そう言われて、悪い気がするはずもない。
「できればエリザベスさんとも仲良くしたいのですが、どうやら私は嫌われているみたいですね」
「ああいや、こいつは人を気に入るまで時間が掛かるタイプなんですよ。カイさんとも、やっとこの前和解したばかりなので」
「カイさんと? でしたら、希望はあるかもしれませんね。私、彼女よりは良い人な自信があります」
ニコッと微笑むウェインさんだったが……今のは、冗談なのだろうか?
0
お気に入りに追加
376
あなたにおすすめの小説
俺だけに効くエリクサー。飲んで戦って気が付けば異世界最強に⁉
まるせい
ファンタジー
異世界に召喚された熱海 湊(あたみ みなと)が得たのは(自分だけにしか効果のない)エリクサーを作り出す能力だった。『外れ異世界人』認定された湊は神殿から追放されてしまう。
貰った手切れ金を元手に装備を整え、湊はこの世界で生きることを決意する。
チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい
616號
ファンタジー
不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。
解体の勇者の成り上がり冒険譚
無謀突撃娘
ファンタジー
旧題:異世界から呼ばれた勇者はパーティから追放される
とあるところに勇者6人のパーティがいました
剛剣の勇者
静寂の勇者
城砦の勇者
火炎の勇者
御門の勇者
解体の勇者
最後の解体の勇者は訳の分からない神様に呼ばれてこの世界へと来た者であり取り立てて特徴らしき特徴などありません。ただひたすら倒したモンスターを解体するだけしかしません。料理などをするのも彼だけです。
ある日パーティ全員からパーティへの永久追放を受けてしまい勇者の称号も失い一人ギルドに戻り最初からの出直しをします
本人はまったく気づいていませんでしたが他の勇者などちょっとばかり煽てられている頭馬鹿なだけの非常に残念な類なだけでした
そして彼を追い出したことがいかに愚かであるのかを後になって気が付くことになります
そしてユウキと呼ばれるこの人物はまったく自覚がありませんが様々な方面の超重要人物が自らが頭を下げてまでも、いくら大金を支払っても、いくらでも高待遇を約束してまでも傍におきたいと断言するほどの人物なのです。
そうして彼は自分の力で前を歩きだす。
祝!書籍化!
感無量です。今後とも応援よろしくお願いします。
ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い
平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。
ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。
かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。
食うために軍人になりました。
KBT
ファンタジー
ヴァランタイン帝国の片田舎ダウスター領に最下階位の平民の次男として生まれたリクト。
しかし、両親は悩んだ。次男であるリクトには成人しても継ぐ土地がない。
このままではこの子の未来は暗いものになってしまうだろう。
そう思った両親は幼少の頃よりリクトにを鍛え上げる事にした。
父は家の蔵にあったボロボロの指南書を元に剣術を、母は露店に売っていた怪しげな魔導書を元に魔法を教えた。
それから10年の時が経ち、リクトは成人となる15歳を迎えた。
両親の危惧した通り、継ぐ土地のないリクトは食い扶持を稼ぐために、地元の領軍に入隊試験を受けると、両親譲りの剣術と魔法のおかげで最下階級の二等兵として無事に入隊する事ができた。
軍と言っても、のどかな田舎の軍。
リクトは退役するまで地元でのんびり過ごそうと考えていたが、入隊2日目の朝に隣領との戦争が勃発してしまう。
おまけに上官から剣の腕を妬まれて、単独任務を任されてしまった。
その任務の最中、リクトは平民に対する貴族の専横を目の当たりにする。
生まれながらの体制に甘える貴族社会に嫌気が差したリクトは軍人として出世して貴族の専横に対抗する力を得ようと立身出世の道を歩むのだった。
剣と魔法のファンタジー世界で軍人という異色作品をお楽しみください。
神様との賭けに勝ったので、スキルを沢山貰えた件。
猫丸
ファンタジー
ある日の放課後。突然足元に魔法陣が現れると、気付けば目の前には神を名乗る存在が居た。
そこで神は異世界に送るからスキルを1つ選べと言ってくる。
あれ?これもしかして頑張ったらもっと貰えるパターンでは?
そこで彼は思った――もっと欲しい!
欲をかいた少年は神様に賭けをしないかと提案した。
神様とゲームをすることになった悠斗はその結果――
※過去に投稿していたものを大きく加筆修正したものになります。
俺の召喚獣だけレベルアップする
摂政
ファンタジー
【第10章、始動!!】ダンジョンが現れた、現代社会のお話
主人公の冴島渉は、友人の誘いに乗って、冒険者登録を行った
しかし、彼が神から与えられたのは、一生レベルアップしない召喚獣を用いて戦う【召喚士】という力だった
それでも、渉は召喚獣を使って、見事、ダンジョンのボスを撃破する
そして、彼が得たのは----召喚獣をレベルアップさせる能力だった
この世界で唯一、召喚獣をレベルアップさせられる渉
神から与えられた制約で、人間とパーティーを組めない彼は、誰にも知られることがないまま、どんどん強くなっていく……
※召喚獣や魔物などについて、『おーぷん2ちゃんねる:にゅー速VIP』にて『おーぷん民でまじめにファンタジー世界を作ろう』で作られた世界観……というか、モンスターを一部使用して書きました!!
内容を纏めたwikiもありますので、お暇な時に一読していただければ更に楽しめるかもしれません?
https://www65.atwiki.jp/opfan/pages/1.html
異端の紅赤マギ
みどりのたぬき
ファンタジー
【なろう83000PV超え】
---------------------------------------------
その日、瀧田暖はいつもの様にコンビニへ夕食の調達に出掛けた。
いつもの街並みは、何故か真上から視線を感じて見上げた天上で暖を見る巨大な『眼』と視線を交わした瞬間激変した。
それまで見ていたいた街並みは巨大な『眼』を見た瞬間、全くの別物へと変貌を遂げていた。
「ここは異世界だ!!」
退屈な日常から解き放たれ、悠々自適の冒険者生活を期待した暖に襲いかかる絶望。
「冒険者なんて職業は存在しない!?」
「俺には魔力が無い!?」
これは自身の『能力』を使えばイージーモードなのに何故か超絶ヘルモードへと突き進む一人の人ならざる者の物語・・・
---------------------------------------------------------------------------
「初投稿作品」で色々と至らない点、文章も稚拙だったりするかもしれませんが、一生懸命書いていきます。
また、時間があれば表現等見直しを行っていきたいと思っています。※特に1章辺りは大幅に表現等変更予定です、時間があれば・・・
★次章執筆大幅に遅れています。
★なんやかんやありまして...
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる