上 下
10 / 108
第一部

未踏ダンジョン

しおりを挟む

 ダンジョンの入り口は大体こんな感じの洞穴になっており、奥へ進むと魔法陣が設置してある。設置……とは言うものの、これは誰かが意図的に作ったものではない。

 強いて言うなら、ダンジョンコア。

 あの謎の魔力物体が、ダンジョンにまつわる全ての事象を生成している。


「えっと、一階層目は森林、と」


 入り口の魔法陣を発動した僕は、無事に一階層目へと移動した。

 ここもその他多くのダンジョンと同様に、エリア内は木々で覆われた森のようである。

 一階層目から火山口や氷河なんていう過酷な地形の可能性もあったので、一応幸先いいスタートだ。


「……」


 僕はいつでも腰の剣を引き抜けるように気を張りながら、森の中を進む。
 地形的な難易度は低いが……問題は出現するモンスターの等級だ。

 それこそ、未だ発見されていない未評価モンスターアンノウンが生成されている可能性もある……そんな万が一を考えなければならないくらいには、今の僕は緊張していた。

 なにせ、一人でダンジョン内を移動するなんて初めての経験だ。

 冒険者は通常五人パーティーで行動する。難易度が低い場合や、既に攻略済みの場所に潜る場合はその限りではないが、それでも最低一人は仲間を連れていくものだ。

 こうして単独行動すること自体、異常なのである。


「……」


 周囲を警戒しながら、次の階層へ続く魔法陣を探す。
 これも通常、探知系の魔法を使える後衛職がやることなのだが、今の僕は自分でやるしかない。


「……」


 無理だ。

 そもそも、僕は攻略済みのダンジョンで資源を回収するのが専門だったんだ……シリーと冒険するようになって、ようやく普通のダンジョンを攻略するようになったのである。

 ノウハウも何もあったもんじゃない。
 だから愚直に、自分の目と耳を信じるしかない。


「……――っ」


 無理だ無理だと思っていた矢先、茂みの奥が揺れ動くのに気づいた。

 それが何なのか特定する前に――何かが飛び出してくる。


「くっ!」


 僕は剣を引き抜き、向かってきた物体を切りつけた……直後、緑色の液体が四方に飛散する。

 ……グリーンスライム!

 飛び散った液体はうねうねと弾力を生み、ずるずると地面を張って一つに纏まった。


「……」


 僕は剣を構え直し、グリーンスライムと一定の距離を取る。

 大丈夫、こいつなら倒せる。

 魔法以外の物理攻撃を受けると、その身を分裂させて再生する厄介なモンスターだが……ランクはC級だ。

 僕の魔法でも、充分討伐できる……はず!


「【火炎斬り】!」


 炎を纏った刀身が、スライムの柔らかい体を真っ二つに切り裂いた。

 分裂は起きず、再生する気配はない。

 数秒後、緑の液体が蒸発し――アイテムだけが残った。


「これは……『グリーンスライムの体液』か」


 僕は腰に下げていた資源回収用の瓶で、その体液を掬う。

 うん、我ながら上手くいった。

 モンスターは討伐後、こうしてアイテムを残して消滅する……冒険者の仕事の一つは、その貴重な資源を回収することなのだ。


「報告用の分だけ拾って、後は放置するんだったよな……勿体ない」


 探索係の任務は、あくまで未踏ダンジョンの難易度認定である。そこに資源の回収は含まれていない。

 ……少しだけちょろまかしたい衝動に駆られたが、カイさんの顔が浮かんできたのでやめておこう。


「さて、いきますか」


 僕は再び森の中を歩き出す。

 二階層目へ下りるための魔法陣を探して。

 ……それとまあ、心細いので誰でもいいから見つけたい。



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

俺だけに効くエリクサー。飲んで戦って気が付けば異世界最強に⁉

まるせい
ファンタジー
異世界に召喚された熱海 湊(あたみ みなと)が得たのは(自分だけにしか効果のない)エリクサーを作り出す能力だった。『外れ異世界人』認定された湊は神殿から追放されてしまう。 貰った手切れ金を元手に装備を整え、湊はこの世界で生きることを決意する。

チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい

616號
ファンタジー
 不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。

解体の勇者の成り上がり冒険譚

無謀突撃娘
ファンタジー
旧題:異世界から呼ばれた勇者はパーティから追放される とあるところに勇者6人のパーティがいました 剛剣の勇者 静寂の勇者 城砦の勇者 火炎の勇者 御門の勇者 解体の勇者 最後の解体の勇者は訳の分からない神様に呼ばれてこの世界へと来た者であり取り立てて特徴らしき特徴などありません。ただひたすら倒したモンスターを解体するだけしかしません。料理などをするのも彼だけです。 ある日パーティ全員からパーティへの永久追放を受けてしまい勇者の称号も失い一人ギルドに戻り最初からの出直しをします 本人はまったく気づいていませんでしたが他の勇者などちょっとばかり煽てられている頭馬鹿なだけの非常に残念な類なだけでした そして彼を追い出したことがいかに愚かであるのかを後になって気が付くことになります そしてユウキと呼ばれるこの人物はまったく自覚がありませんが様々な方面の超重要人物が自らが頭を下げてまでも、いくら大金を支払っても、いくらでも高待遇を約束してまでも傍におきたいと断言するほどの人物なのです。 そうして彼は自分の力で前を歩きだす。 祝!書籍化! 感無量です。今後とも応援よろしくお願いします。

ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い

平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。 かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。

食うために軍人になりました。

KBT
ファンタジー
 ヴァランタイン帝国の片田舎ダウスター領に最下階位の平民の次男として生まれたリクト。  しかし、両親は悩んだ。次男であるリクトには成人しても継ぐ土地がない。  このままではこの子の未来は暗いものになってしまうだろう。  そう思った両親は幼少の頃よりリクトにを鍛え上げる事にした。  父は家の蔵にあったボロボロの指南書を元に剣術を、母は露店に売っていた怪しげな魔導書を元に魔法を教えた。    それから10年の時が経ち、リクトは成人となる15歳を迎えた。  両親の危惧した通り、継ぐ土地のないリクトは食い扶持を稼ぐために、地元の領軍に入隊試験を受けると、両親譲りの剣術と魔法のおかげで最下階級の二等兵として無事に入隊する事ができた。  軍と言っても、のどかな田舎の軍。  リクトは退役するまで地元でのんびり過ごそうと考えていたが、入隊2日目の朝に隣領との戦争が勃発してしまう。  おまけに上官から剣の腕を妬まれて、単独任務を任されてしまった。  その任務の最中、リクトは平民に対する貴族の専横を目の当たりにする。  生まれながらの体制に甘える貴族社会に嫌気が差したリクトは軍人として出世して貴族の専横に対抗する力を得ようと立身出世の道を歩むのだった。    剣と魔法のファンタジー世界で軍人という異色作品をお楽しみください。

神様との賭けに勝ったので、スキルを沢山貰えた件。

猫丸
ファンタジー
ある日の放課後。突然足元に魔法陣が現れると、気付けば目の前には神を名乗る存在が居た。 そこで神は異世界に送るからスキルを1つ選べと言ってくる。 あれ?これもしかして頑張ったらもっと貰えるパターンでは? そこで彼は思った――もっと欲しい! 欲をかいた少年は神様に賭けをしないかと提案した。 神様とゲームをすることになった悠斗はその結果―― ※過去に投稿していたものを大きく加筆修正したものになります。

俺の召喚獣だけレベルアップする

摂政
ファンタジー
【第10章、始動!!】ダンジョンが現れた、現代社会のお話 主人公の冴島渉は、友人の誘いに乗って、冒険者登録を行った しかし、彼が神から与えられたのは、一生レベルアップしない召喚獣を用いて戦う【召喚士】という力だった それでも、渉は召喚獣を使って、見事、ダンジョンのボスを撃破する そして、彼が得たのは----召喚獣をレベルアップさせる能力だった この世界で唯一、召喚獣をレベルアップさせられる渉 神から与えられた制約で、人間とパーティーを組めない彼は、誰にも知られることがないまま、どんどん強くなっていく…… ※召喚獣や魔物などについて、『おーぷん2ちゃんねる:にゅー速VIP』にて『おーぷん民でまじめにファンタジー世界を作ろう』で作られた世界観……というか、モンスターを一部使用して書きました!! 内容を纏めたwikiもありますので、お暇な時に一読していただければ更に楽しめるかもしれません? https://www65.atwiki.jp/opfan/pages/1.html

異端の紅赤マギ

みどりのたぬき
ファンタジー
【なろう83000PV超え】 --------------------------------------------- その日、瀧田暖はいつもの様にコンビニへ夕食の調達に出掛けた。 いつもの街並みは、何故か真上から視線を感じて見上げた天上で暖を見る巨大な『眼』と視線を交わした瞬間激変した。 それまで見ていたいた街並みは巨大な『眼』を見た瞬間、全くの別物へと変貌を遂げていた。 「ここは異世界だ!!」 退屈な日常から解き放たれ、悠々自適の冒険者生活を期待した暖に襲いかかる絶望。 「冒険者なんて職業は存在しない!?」 「俺には魔力が無い!?」 これは自身の『能力』を使えばイージーモードなのに何故か超絶ヘルモードへと突き進む一人の人ならざる者の物語・・・ --------------------------------------------------------------------------- 「初投稿作品」で色々と至らない点、文章も稚拙だったりするかもしれませんが、一生懸命書いていきます。 また、時間があれば表現等見直しを行っていきたいと思っています。※特に1章辺りは大幅に表現等変更予定です、時間があれば・・・ ★次章執筆大幅に遅れています。 ★なんやかんやありまして...

処理中です...