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もう一人の不死身
しおりを挟む「モモくん……どうして……」
クオンさんの放った弾丸は確実に彼の急所を貫き、息の根を止めていたはずだ。
それなのに、彼はこうして立ち上がり。
ビックリする程鮮やかな手口で――一人の人間の命を奪ったのだ。
「どうしてって……まずは無事だったことを喜べよ」
モモくんは肩をすくめ、ナイフを腰に仕舞う。
「もちろん、喜んでるし嬉しいけど……でも、モモくん死んでたはずだよね? 実は驚異的な生命力で生きてたとか?」
「人をゴキブリみたいに言ってんじゃねえ」
彼はいつもの調子で答えながら、クオンさんの死体をまさぐり始めた。人を殺してからの手際の良さも極まっていて、さすがに殺し屋をやっているだけのことはある。
「……こいつが俺のスキルの内容をぺらぺらと話してたと思うが、それは理解できたか?」
「……時間を消せるんだよね? ちょっとスケールが大きすぎて、頭はついていかないけど」
「まあ、だろうな」
一通り死体の見聞を終えたらしいモモくんは、いくつかの所持品に目を付け、自分の懐に仕舞った。
「時間ってのは、瞬間の連続なんだ。今この瞬間、一枚の写真が世界には生まれて、そいつが果てしなく連続して続いていく……それが時間だ」
「きゅ、急に難しいね……。私たちがこうして話しているのも、瞬間の連続なの?」
「そうだ。あんたが何かを話そうとした瞬間、息を吸い込んだ瞬間、発音しようと口の形を変えた瞬間。流れるような映像に見えて、実は無数の場面が繋がってるんだよ」
うーん……何となくわかったようなわからないような、絶妙な気分にさせられる。
そんな私の煮え切らない態度を察してか、モモくんは申し訳なさそうに頭を掻いた。
「あー……今言ったのは、俺がそう捉えてるってだけの話な。より正確に言うなら、俺にスキルを与えた奴らが、時間をそう定義したってことだ。世界の法則ってわけでも世の中の真理ってわけでもない、能力を使うための定義なんだよ」
「……つまり、モモくんが時間を消すって能力を使うために、時間の定義を『瞬間の連続』ってことにした、みたいな話?」
自分で言っていて余計頭がこんがらがってきた。まあここら辺の具体的な部分を理解しようとしたら、魔法やなんやらの知識が必要になるのだろう。
生憎、私にはそれが皆無だった。勉強は嫌いなのだ。
「魔法もスキルも、どっちも根本は似ている……大事なのは『想い』と『思い込み』だ。自分が何を為したいのか、そのために何が必要なのか、必死で考えるんだとよ。マナカの受け売りだけどな」
「ふーん……」
「何だその返事、興味なしかよ」
「あ、ごめん。頭がパンクしそうで、上の空だった」
彼らのことをもっと知るために、隠れ家に帰ったらマナカさんに魔法のことを訊いてみよう。今は正直、何も理解できる気がしない。
「要は、俺のスキルは瞬間の一つを消すって感覚なわけだ……だがな、実はもう一つ能力がある」
「もう一つ?」
「ああ。あらかじめ消したい瞬間を決めておくことができるっていう能力だ。俺は、自分が死ぬ瞬間を事前に消しておくことができる」
「死ぬ瞬間を、消す……」
えっと……それってつまり。
不死身ってこと?
「あんたみたいに完全な不死身じゃないがな。一度死ぬ瞬間を消したら、次に消すまでには三秒のラグがある。その間にもう一回殺されりゃ、お終いだ」
「……じゃあもし、クオンさんが倒れたモモくんにさらに銃弾を撃ち込んでたら、死んでたってこと?」
「三秒以内ならな。まああいつには油断癖があるから、そんなことはしてこないとわかってた……散々、注意してやったんだけどな」
モモくんは少しだけ。
ほんの少しだけ、昔を懐かしむような目をした。
「……」
クオンさんやヤジさん……今は仲違いしているアッパーの彼らとも、良好な関係を築けていた時期もあったのだろうか。
過酷で残酷なナンバーズ計画を乗り越える中で、友情のような感覚も芽生えていたのだろうか。
そんなことを尋ねても、モモくんは教えてくれないだろうし……私みたいな部外者が、訊けるわけもなかった。
今殺したクオンさんと、昔は友達だったの、なんて。
口が裂けても、訊くべきじゃない。
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