30 / 33
もう一人の不死身
しおりを挟む「モモくん……どうして……」
クオンさんの放った弾丸は確実に彼の急所を貫き、息の根を止めていたはずだ。
それなのに、彼はこうして立ち上がり。
ビックリする程鮮やかな手口で――一人の人間の命を奪ったのだ。
「どうしてって……まずは無事だったことを喜べよ」
モモくんは肩をすくめ、ナイフを腰に仕舞う。
「もちろん、喜んでるし嬉しいけど……でも、モモくん死んでたはずだよね? 実は驚異的な生命力で生きてたとか?」
「人をゴキブリみたいに言ってんじゃねえ」
彼はいつもの調子で答えながら、クオンさんの死体をまさぐり始めた。人を殺してからの手際の良さも極まっていて、さすがに殺し屋をやっているだけのことはある。
「……こいつが俺のスキルの内容をぺらぺらと話してたと思うが、それは理解できたか?」
「……時間を消せるんだよね? ちょっとスケールが大きすぎて、頭はついていかないけど」
「まあ、だろうな」
一通り死体の見聞を終えたらしいモモくんは、いくつかの所持品に目を付け、自分の懐に仕舞った。
「時間ってのは、瞬間の連続なんだ。今この瞬間、一枚の写真が世界には生まれて、そいつが果てしなく連続して続いていく……それが時間だ」
「きゅ、急に難しいね……。私たちがこうして話しているのも、瞬間の連続なの?」
「そうだ。あんたが何かを話そうとした瞬間、息を吸い込んだ瞬間、発音しようと口の形を変えた瞬間。流れるような映像に見えて、実は無数の場面が繋がってるんだよ」
うーん……何となくわかったようなわからないような、絶妙な気分にさせられる。
そんな私の煮え切らない態度を察してか、モモくんは申し訳なさそうに頭を掻いた。
「あー……今言ったのは、俺がそう捉えてるってだけの話な。より正確に言うなら、俺にスキルを与えた奴らが、時間をそう定義したってことだ。世界の法則ってわけでも世の中の真理ってわけでもない、能力を使うための定義なんだよ」
「……つまり、モモくんが時間を消すって能力を使うために、時間の定義を『瞬間の連続』ってことにした、みたいな話?」
自分で言っていて余計頭がこんがらがってきた。まあここら辺の具体的な部分を理解しようとしたら、魔法やなんやらの知識が必要になるのだろう。
生憎、私にはそれが皆無だった。勉強は嫌いなのだ。
「魔法もスキルも、どっちも根本は似ている……大事なのは『想い』と『思い込み』だ。自分が何を為したいのか、そのために何が必要なのか、必死で考えるんだとよ。マナカの受け売りだけどな」
「ふーん……」
「何だその返事、興味なしかよ」
「あ、ごめん。頭がパンクしそうで、上の空だった」
彼らのことをもっと知るために、隠れ家に帰ったらマナカさんに魔法のことを訊いてみよう。今は正直、何も理解できる気がしない。
「要は、俺のスキルは瞬間の一つを消すって感覚なわけだ……だがな、実はもう一つ能力がある」
「もう一つ?」
「ああ。あらかじめ消したい瞬間を決めておくことができるっていう能力だ。俺は、自分が死ぬ瞬間を事前に消しておくことができる」
「死ぬ瞬間を、消す……」
えっと……それってつまり。
不死身ってこと?
「あんたみたいに完全な不死身じゃないがな。一度死ぬ瞬間を消したら、次に消すまでには三秒のラグがある。その間にもう一回殺されりゃ、お終いだ」
「……じゃあもし、クオンさんが倒れたモモくんにさらに銃弾を撃ち込んでたら、死んでたってこと?」
「三秒以内ならな。まああいつには油断癖があるから、そんなことはしてこないとわかってた……散々、注意してやったんだけどな」
モモくんは少しだけ。
ほんの少しだけ、昔を懐かしむような目をした。
「……」
クオンさんやヤジさん……今は仲違いしているアッパーの彼らとも、良好な関係を築けていた時期もあったのだろうか。
過酷で残酷なナンバーズ計画を乗り越える中で、友情のような感覚も芽生えていたのだろうか。
そんなことを尋ねても、モモくんは教えてくれないだろうし……私みたいな部外者が、訊けるわけもなかった。
今殺したクオンさんと、昔は友達だったの、なんて。
口が裂けても、訊くべきじゃない。
0
お気に入りに追加
47
あなたにおすすめの小説
婚約破棄を言い渡された私は、元婚約者の弟に溺愛されています
天宮有
恋愛
「魔法が使えない無能より貴様の妹ミレナと婚約する」と伯爵令息ラドンに言われ、私ルーナは婚約破棄を言い渡されてしまう。
家族には勘当を言い渡されて国外追放となった私の元に、家を捨てたラドンの弟ニコラスが現れる。
ニコラスは魔法の力が低く、蔑まれている者同士仲がよかった。
一緒に隣国で生活することを決めて、ニコラスは今まで力を隠していたこと、そして私の本来の力について話してくれる。
私の本来の力は凄いけど、それを知ればラドンが酷使するから今まで黙っていてくれた。
ニコラスは私を守る為の準備をしていたようで、婚約破棄は予想外だったから家を捨てたと教えてくれる。
その後――私は本来の力を扱えるようになり、隣国でニコラスと幸せな日々を送る。
無意識に使っていた私の力によって繁栄していたラドン達は、真実を知り破滅することとなっていた。
天の神子
ジャックヲ・タンラン
ファンタジー
ある農村に、雨と共に生きる女がいた。
恵みを求めて害を成す存在、魔物の出現によって世界が混乱を始める中、
彼女は竜人から、『天の神子』の使命を告げられる。
世界に等しく雨の恵みを与えるため、神子は往く。
できれば王子を泣かせたい!
真辺わ人
恋愛
泣かせたい
泣かせたい
あー泣かせたい!
悪役令嬢で転生者の公爵令嬢が、ツンデレでヘタレな王子様にあれこれイタズラをしかけて泣かせようとするお話です。(第1話)
第1話 王子をいじめて泣かせようとする話です。完結済。
第2話 隣国の王子様登場でなんちゃって三角関係になります。主人公のBL妄想ありなので、苦手な方はご注意を。本編完結。
番外編 侍女視点の番外編。本編とは異なり、少し暗い話になります。同性愛やその他性的な事柄に関する記述あり。完結済。
*転生チートとかはほぼありません。
*ざまぁ要素とかもほぼありません。
*王子視点は今のところありませんが、代わりに王子愛強めの護衛視点の番外編で察して頂けるかも?
*他サイトにも掲載しています。
目覚めたら、婚約破棄をされた公爵令嬢になっていた
ねむ太朗
恋愛
刺殺された杏奈は黄泉で目覚め、悪魔に出会った。
悪魔は杏奈を別の世界の少女として、生きさせてくれると言う。
杏奈は悪魔と契約をし、16歳で亡くなった少女ローサフェミリア・オルブライト公爵令嬢として、続きの人生を生きる事となった。
ローサフェミリアの記憶を見てみると、婚約破棄をされて自殺をした事が分かり……
私を手放して良いのですか? 我が魔法がなければ貴方の商売は終わりますよ? ……ま、好きにすれば良いですが。
四季
恋愛
私を手放して良いのですか? 我が魔法がなければ貴方の商売は終わりますよ? ……ま、好きにすれば良いですが。
(完結)やりなおし人生~錬金術師になって生き抜いてみせます~
紗南
恋愛
王立学園の卒業パーティーで婚約者の第2王子から婚約破棄される。
更に冤罪を被らされ四肢裂きの刑になった。
だが、10年前に戻った。
今度は殺されないように生きて行こう。
ご都合主義なのでご了承ください
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる