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八二番目 002

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 互いに手を重ね合ったニトイくんとマナカさんの前方に巨大な魔力の塊が出現し、ヤジさんに向かって撃ち出された。

 離れた位置にいるのに、爆風に巻き込まれて身体が持っていかれてしまう……凄い威力だ。

 マナカさんのスキル――【マジック】は、魔力を大幅に上昇させる能力だと言っていたけれど、それが単純計算で二倍になっているのだから、それはもう筆舌に尽くし難い破壊力である。

 不死身でない人間が、あれを食らって無事でいられるわけがない――なのに。


「はははっ! 相変わらずのコンビ技じゃねえか!」


 魔法に直撃したはずのヤジさんは――笑っていた。


「けど、そんなんじゃ全然足りねえぞ!」


 彼は正拳付きを繰り出す。

 本来その攻撃に全く意味なんてない……拳は虚しく空を切るだけで、さながら武術の型を披露しているような、そんな無意味な行動。

 そのはずなのに。

 彼の拳は、無数に生じたが二人目掛けて突き進んでいく。


「っ! 『アイスウォール』!」


 マナカさんは両手を地面について魔法を発動し、氷の壁を作り出した……が、その分厚い氷壁は衝撃を受けてひび割れ、いとも簡単に壊されてしまった。

 崩壊した壁の向こうで、今度はマナカさんに化けたニトイくんが魔法を使う。


「『ファイアランス』‼」


 右の掌から生み出された炎が槍のように鋭く尖り、一直線に飛んでいく。


「【罅割れクラック】‼」


 しかしその炎すら、ヤジさんの拳によってひび割れ、砕け散った。


「……っ」


 あれが、スキルの力。
 地面を砕き、空間を叩き割り、魔法を破壊する……そんな相手に、勝てる人なんているの?

 けれど、こっちだって【マジック】というスキルで魔力を限界以上に高めているはずなのに、どうしてここまでの差が……。


「女、不思議そうな顔だな。どうしてあの二人が手も足も出ないのって面だぜ」


 私の訝し気な視線に気づいたヤジさんが、高圧的な笑みを浮かべてくる。


「俺とあいつらじゃできが違うのさ……ま、お前にゃわからん話だがな」


「……スキル、ですよね。あなたの使っている力」


 スキルという単語を聞いたヤジさんの眉が、ピクッと動いた。そして、ニトイくんたちを睨みつける。


「まさかお前ら、ナンバーズ計画のことを話したのか?」


「だったら何だよ。ヤジには関係ないだろ」


「関係はねえが、しかし解せねえな……そもそも確認なんだが、お前らはどうしてその女と一緒にいる」


「それこそもっとヤジには関係ないよ」


 ニトイくんは敵意剥き出しの目で睨み返した……顔はマナカさんのままなので、正直あんまりすごみはない。


「相変わらず可愛くねえ野郎だ、こっちは丁寧に訊いてやったのによ」


「丁寧の意味を辞書で引き直せば? いいからもう、死ぬか消えるかどっちか選んでよ」


「はっ。言うことだけは立派だが、本気で俺を殺せるなんて思っちゃいねえよな? ダウナー風情がよ」


「……」


 言い返すことなく、ニトイくんは押し黙る。それはまるで、相手に言われたことが図星であるかのような態度だった。

 本気で殺せるなんて思っちゃいない……やっぱり、ヤジさんと彼らとの間には相当な実力差があるというのだろうか。


「スキルのことを知ってんなら、教えてやるよ、女。そいつらがどうして俺に勝てねえのか」


 私を女と呼び続ける彼は、心底人を見下した表情で言う。


「百人のガキにスキルを宿すナンバーズ計画……その前半の五十人、つまり五〇番目までの実験体は、


「し、試作品……?」


「そうだ。五〇番目までの下位番号ダウナーは、俺たち五一番目以降の上位番号アッパーを生み出すためだけの存在……いわば実験体の実験体ってわけだ。当然、試作品は本物の作品にゃ敵わねえ。八二番目の俺にはな」


「……」


 ダウナーはアッパーのための試作品……その言葉が本当だとしたら、腑に落ちることが一つあった。

 なぜ五〇番目であるマナカさんのスキルが、【マジック】という魔法を強化する能力なのか。

 彼はきっと、五一番目以降のアッパーたちが越えるべき壁として作られたんだ。

 スキルは魔法を越える力……その定義を確かなものにするために、マナカさんは魔法を限界以上に扱える能力を与えられ。

 アッパーたちは、それを越える力を与えられている――


「まあそれでも、軽く運動くらいにはなるからこうして相手してやってんだが……もう飽きたな」


 言って。

 ヤジさんは、拳を握る。


「お前らがなんでその女を匿ってるのかは知らねえが、大人しく渡す気がないなら仕方ねえ……死んだ後も二人仲良く遊んでな! 【罅割れ】‼」


 森が――ひび割れていく。

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