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婚約破棄されたら死にたくなるよね
しおりを挟む「レイ。君との婚約を破棄する」
突然の話で脈絡もなく大変申し訳ないけれど、どうやら私は婚約破棄されてしまったようだ。
落ち着くために状況を整理すると……私――レイ・スカーレットは、婚約者――デニス・ワグナーさんに呼び出され、ロエリアの街の外れにあるワグナー家の別宅に単身足を運び、冒頭のセリフを切り出されたのだった。
「……ちょ、ちょっと待ってください、デニスさん。一体どうして……」
「元々君の親が強引に持ち込んだ縁談だ、俺は全く乗り気じゃなかった」
そんなことは、知り合ってからすぐにわかっていた。彼は婚約が決まった三週間前から一度も私に会ってくれず、連絡は素気ない手紙のやり取りだけ……自分が愛されていないことは、重々承知している。
でも、だからと言っていきなり婚約破棄の申し出なんて……。
「俺には真に愛する人ができてしまった。だから君と一緒にはなれない」
「そんな……」
他の女性を愛してしまったから婚約破棄か……理由は単純明快だけど、到底素直に受け入れられるものではない。
「君だって、愛のない結婚をするのは本意じゃないだろう」
「確かにあなたは私を好きではないでしょうけど、私はデニスさんを愛そうと努力していました。手紙は日に二度書き、領主様のご子息に見合う作法を身につけようと勉強もしました」
そう、彼はここロエリアを治めるワグナー家の次男なのだ。一方私は、父が一代で築いた商家の娘である。多少お金はあれど、地位も名声も遠く及ばない庶民なのだ。
「君の努力は知っている、手紙に書いてあったからね……だからこうして、直接伝えるのが礼儀だと思ったんだ。本当なら、書面だけで婚約破棄することもできたんだぞ」
「……」
デニスさんの身勝手な言い分に対し、しかし私は反論することなど許されない。元々身分の差がある婚約だ、下の者が何を言っても無駄である。
それでも。
それでも私は――この人を愛そうと頑張っていたのに。
「話は終わりだ、レイ……早く家に帰りなさい」
彼は邪魔者を追い払うようにしっしと手を振り、私を別宅から追い出す。
「夜道には気を付けるんだぞ」
去り際、彼に似つかわしくない優しい言葉をかけたのは。
せめてもの罪滅ぼしなのだろうか。
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