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楽しいお仕事 001
しおりを挟むブラックマーケットで使用する金を稼ぐため、僕らはクイーンズにあるギルドの支部を目指した。
一応の目標金額は百万……市場自体は二週間開くらしいが、余裕をもって開催日である三日後までに用意したい。
できるだけ迅速に、より大金を稼ぐとなれば、狙うは一つだ。
Cランクのクエスト。
推奨レベル51以上の、中級者向けクエストである。
BランクやAランクの依頼の場合は遠征が必要になる場合がほとどなので、時間的な条件に当てはまらない。
よって、近場で発生しているCランククエストを数回こなして、金を稼ごうという算段だ。
「つっても、Cランクかぁ……」
やることはわかっているが、しかし及び腰になるなという方が無茶である。
僕たちのパーティーの最高レベルは、レヴィの34。
次いで、ミアの30。
そして堂々最下位、イチカ・シリルの1。
平均しても中央値を求めても、推奨レベルの51には遠く届かない。
「なーに弱気になってんのよ、イチカ。私とあなたが組めば最強だって、アルカで証明したでしょ?」
「モルガンをぶっ飛ばした時のことを言ってるなら、あれはほとんど不意打ちみたいなもんだし……魔物相手に上手く立ち回れるかは、わからないじゃないか」
「サリバからここに来る間だって戦闘はあったじゃない。その度に危なげなくやってきたでしょ? それでも不安なわけ?」
ミアの言う通り、旅をしていた一カ月の間に何度か魔物との戦闘はあった。
が、相手はスライムやゴブリンなどの低級の魔物……よくてEランクである。
「イチカの【神様のサイコロ】と、私の【乙女の一撃】があれば、Cランクの魔物だって問題なく倒せるわよ」
「それは……まあ、倒せるとは思うけどさ」
僕のスキルは、対象の生命力を1にし。
ミアのスキルは、相手の防御力に関係なく必ず1のダメージを与えることができる。
まさに完璧、隙がない。
……ように、見えてしまう。
「でも、弱点がないわけじゃない。現に、サリバの墓地での戦闘は危なかっただろ?」
「あれは、私がマナ切れを起こしちゃった所為で……もっと慎重に立ち回れば、回避できると思うわ」
サリバで行われたレヴィとの戦闘。
正確には、レヴィが変異種のゾンビだった時の戦闘か。
圧倒的な物量に押され、ミアがマナ切れを起こしてしまい……結果、僕は殺されることになったのだ。
「そこはミアに任せるとしても、もっと根本的な問題が残ってるんだ」
「根本的?」
ミアが首を捻り、うーんと考えていると、
「防御面の貧弱さ……イチカさんが心配しているのは、そこですよね」
少し後ろを歩くレヴィが、僕の心を見透かしたように言った。
「……ああ、その通りだ。僕らは攻撃に関しちゃ最強に近いけど、防御がからっきし過ぎる」
ミアとレヴィのレベルは30台。
共に、Cランクの魔物の攻撃を防ぎきれる程の防御力を有してはいない。
一発一発が致命傷だ。
それはつまり、敵と僕らとで条件に違いがないということである。
こちらは一撃で相手を殺せるが。
向こうも一撃で、僕らを壊滅に追い込める。
そんな状態で、もし奇襲や連携攻撃をされたら……僕たちは、手も足も出ずにやられてしまうだろう。
「僕とミアのコンボが力を発揮できるのは、相手が格下の時か不意を突けた場合なんだ。実力差がある相手との戦闘は、結局イーブンなんだよ」
「こっちが攻撃を当てられるってことは、向こうも当てられるってことだもんね……私とレヴィの物理防御とスキル防御じゃ、心許ないのは確かだわ」
「だろ? 僕は【不死の王】のスキルがあるから最悪致命傷をもらっても何とかなるけど、ミアたちはそうもいかない」
この問題が解決しないことには、おいそれとCランクの依頼を請けるわけにはいかないのだ。
無理に挑戦すれば、常に死のリスクが隣り合う。
ギルドがわざわざ推奨レベルを設けているのは、冒険者がリスクを避けられるようにするためなのだ。
「……確かに、Cランクの依頼をこなすにはリスクがある、それは認めるわ。でもね、イチカ」
言って。
ミアは、鮮やかな金色の瞳で僕を見据える。
「私は、いつでもリスクを背負ってきた。ギルドに入った四年前から、ずっとね。そりゃ、楽で安全な道もあっただろうけど、私はそれを選ばなかった……だって、それじゃあ遠回りだもの。私は常に近道を行きたい。じゃなきゃ、冒険者である意味がないわ」
「冒険者である意味……」
「もちろん、今はイチカとレヴィとパーティーを組んでるから、自分の我儘を通そうとは思わない……でもね、せっかく自由に生きられるんだから、上手く自由と付き合うべきだって、私は思うの」
リスクを背負うのも。
楽をするのも。
遊ぶのも。
勤勉に働くのも。
全ては自由。
全て――自分の人生。
「何ものにも縛られないから挑戦できる。何ものにも束縛されないから無茶ができる。私はそう考えて、四年間自由に生きてきたわ……まあだからって、死に急ぎたいわけじゃないのよ? 現実的に問題を精査して、リスクとリターンを天秤に掛けて、それでも戦いたいなら戦う。それが、私の生き方なの」
ミアの瞳に吸い込まれた僕は。
自然と、頷いていた。
「……おっけー、まずは依頼を見てみよう。怖気づくのはそれからでも遅くない」
「そうこなくっちゃね! 行くわよ、二人とも!」
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