8 / 60
初めての仲間 001
しおりを挟む無事にスライム討伐の依頼を終えた僕だが、その足取りは軽いものではなかった。
そりゃ、自分一人で魔物を倒せたのは喜ばしいことではある。
けれど、今回はたまたま運と相手が良かっただけだ。
例えば、討伐対象が防御力の高い魔物だった場合――レベル1の僕では、ダメージを与えることができない。
スキルで相手の生命力を1にできたとしても、最後の最後で倒しきれないという事態が発生してしまうのだ。
それに、防御方面のステータスもスカスカな僕にとって、魔物との戦闘は常に命懸けである。
スライムから不意打ちでも食らってしまえば、一発で気絶してしまうくらいには貧弱だ。
最強のスキルを手に入れたからと言って、慢心はできない。
故に、今の僕に一番必要なのは仲間なのである。
互いに守り合う……とまで言ってしまうと、些か自意識過剰が過ぎるだろうか。
ただ少なくとも、背中くらいは預け合えるような、そんな仲間。
……果たしてレベル1の僕とパーティーを組んでくれる人物はいるのか、心配は尽きないが。
いやマジで、そんな人がいたとしたら、割と変人じゃないか?
それか、目も潰れてしまう程の聖人か。
どちらにしろ、容易に出会うことができないのは想像に難くなかった。
「……」
僕はアルカの街中をフラフラと観光しながら、ゆっくり時間を掛けてギルドへ向かう。
募集に気づく人が増えればいいなという、せめてもの抵抗である。
陽は傾き、街は夕焼けに染まっていた。
……まあ、今日や明日で結果が出るとは思っていないし、気楽に構えることにしよう。
ギルドの冒険者になった今、支部がある都市ならどこでもパーティーメンバーの募集はできるので、焦ることもない。
僕の旅は、また始まったばかりなのだし。
「……」
と、内心落ち着こうと思ってはいても、しかし気になってしまうのが人間の性である。
僕はギルドへ戻り、昼間よりも一層盛り上がりを見せる酒場を抜け、早足で受付カウンターを目指した。
「あのー、すみません。パーティーメンバーの募集に応募があったか確認したいんですけれど」
「はい。冒険証はお持ちですか?」
「あ、まだ頂いていなくて……名前はイチカ・シリルです」
「かしこまりました。少々お待ちください」
昼に話した受付のお姉さんとは別の女性に応対してもらいながら、僕はできるだけ平静を保つよう心掛ける。
どれだけ心配をしていても、どこか期待してしまうものなのだ、正直。
低レベルな冒険者に対して優しい誰かが、僕の募集に気づいてくれたんじゃないかとか……ちょっとくらいは考えてしまう。
「お待たせしました、シリル様」
カウンターの奥から戻ってきたお姉さんは、例に漏れずニコニコな営業スマイルを浮かべていた。
その表情だけを見ると応募はあったように見えるが、それは物事を楽観的に捉え過ぎだろう。
高野一夏が生きていた世界では、ファストフード店の店員が無償のスマイルを提供してくれたものだし。
彼女の笑顔に特別な意味を見出すのは、都合が良すぎである。
「パーティーメンバーの募集に関してですが、一件の応募がありますね」
「……マジですか?」
当たり前のように言われたので聞き逃しかけたが、今確かに、応募が一件あったと言っていた。
お姉さんは微笑みながら、一枚の紙を手渡してくる。
「こちらが、応募者の冒険証の写しになります……つい数分前に受理されたようなので、まだギルド内にいらっしゃるかもしれません。もしパーティーを組むことになったら、また受付までお越しくださいね。では、よい冒険者ライフを」
「はあ……」
お決まりの文句を右から左に聞き流してしまい申し訳ないが、僕は受け取った紙をじっと見つめる。
そこには、冒険者の氏名と現在のレベル・ランク、それから顔写真が写されていた。
「ミア・アインズベル……」
それが、レベル1の僕を見つけてくれた、女の子の名前だった。
10
お気に入りに追加
752
あなたにおすすめの小説
異世界転生~チート魔法でスローライフ
リョンコ
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。
43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。
その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」
大型連休を利用して、
穴場スポットへやってきた!
テントを建て、BBQコンロに
テーブル等用意して……。
近くの川まで散歩しに来たら、
何やら動物か?の気配が……
木の影からこっそり覗くとそこには……
キラキラと光注ぐように発光した
「え!オオカミ!」
3メートルはありそうな巨大なオオカミが!!
急いでテントまで戻ってくると
「え!ここどこだ??」
都会の生活に疲れた主人公が、
異世界へ転生して 冒険者になって
魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。
恋愛は多分ありません。
基本スローライフを目指してます(笑)
※挿絵有りますが、自作です。
無断転載はしてません。
イラストは、あくまで私のイメージです
※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが
少し趣向を変えて、
若干ですが恋愛有りになります。
※カクヨム、なろうでも公開しています
大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです
飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。
だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。
勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し!
そんなお話です。
【完結】悪役に転生したのにメインヒロインにガチ恋されている件
エース皇命
ファンタジー
前世で大好きだったファンタジー大作『ロード・オブ・ザ・ヒーロー』の悪役、レッド・モルドロスに転生してしまった桐生英介。もっと努力して意義のある人生を送っておけばよかった、という後悔から、学院で他を圧倒する努力を積み重ねる。
しかし、その一生懸命な姿に、メインヒロインであるシャロットは惚れ、卒業式の日に告白してきて……。
悪役というより、むしろ真っ当に生きようと、ファンタジーの世界で生き抜いていく。
ヒロインとの恋、仲間との友情──あれ? 全然悪役じゃないんだけど! 気づけば主人公になっていた、悪役レッドの物語!
※小説家になろう、エブリスタにも投稿しています。
転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。
克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります!
辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。
【完結】神様と呼ばれた医師の異世界転生物語 ~胸を張って彼女と再会するために自分磨きの旅へ!~
川原源明
ファンタジー
秋津直人、85歳。
50年前に彼女の進藤茜を亡くして以来ずっと独身を貫いてきた。彼の傍らには彼女がなくなった日に出会った白い小さな子犬?の、ちび助がいた。
嘗ては、救命救急センターや外科で医師として活動し、多くの命を救って来た直人、人々に神様と呼ばれるようになっていたが、定年を迎えると同時に山を買いプライベートキャンプ場をつくり余生はほとんどここで過ごしていた。
彼女がなくなって50年目の命日の夜ちび助とキャンプを楽しんでいると意識が遠のき、気づけば辺りが真っ白な空間にいた。
白い空間では、創造神を名乗るネアという女性と、今までずっとそばに居たちび助が人の子の姿で土下座していた。ちび助の不注意で茜君が命を落とし、謝罪の意味を込めて、創造神ネアの創る世界に、茜君がすでに転移していることを教えてくれた。そして自分もその世界に転生させてもらえることになった。
胸を張って彼女と再会できるようにと、彼女が降り立つより30年前に転生するように創造神ネアに願った。
そして転生した直人は、新しい家庭でナットという名前を与えられ、ネア様と、阿修羅様から貰った加護と学生時代からやっていた格闘技や、仕事にしていた医術、そして趣味の物作りやサバイバル技術を活かし冒険者兼医師として旅にでるのであった。
まずは最強の称号を得よう!
地球では神様と呼ばれた医師の異世界転生物語
※元ヤンナース異世界生活 ヒロイン茜ちゃんの彼氏編
※医療現場の恋物語 馴れ初め編
異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた
りゅう
ファンタジー
異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。
いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。
その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。
異世界着ぐるみ転生
こまちゃも
ファンタジー
旧題:着ぐるみ転生
どこにでもいる、普通のOLだった。
会社と部屋を往復する毎日。趣味と言えば、十年以上続けているRPGオンラインゲーム。
ある日気が付くと、森の中だった。
誘拐?ちょっと待て、何この全身モフモフ!
自分の姿が、ゲームで使っていたアバター・・・二足歩行の巨大猫になっていた。
幸い、ゲームで培ったスキルや能力はそのまま。使っていたアイテムバッグも中身入り!
冒険者?そんな怖い事はしません!
目指せ、自給自足!
*小説家になろう様でも掲載中です
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる