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「ジンにエリザか。改めて、部隊長のドットだ」

 大幅に人員を削減し、任務を続行している最中。
 軍と協力関係を結ぶことになった俺たちは、一応自己紹介を交わしていた。

「これから先、我が部隊は君たちの後方支援にあたる。とりあえず魔力感知は任せてくれ」
「それは助かります。私一人で感知するよりも心強いです」

 さすがはエリザだ、すぐに状況を飲み込んで友好的な笑顔を返す。
 が、不貞腐れている女子が若干一人。

「……」
「……ライズ、だったな。今まで邪険に扱って申し訳なかった、非礼を詫びさせてくれ。それから、負傷兵の元に駆けつけてくれたそうだな。君のお陰で彼は生きている……ありがとう」
「……むー。年上のおじさんに素直に頭を下げられちゃ、許さないわけにいかないじゃないかー。謝罪ハラスメントだよっ」

 全くもう、とため息を吐くライズ。

「じゃあ、許してあげる代わりに条件ねっ」
「条件か。もちろん、俺にできることなら言ってくれ」
「ドットおじさんって呼んでも怒らないことっ」
「……承知した。好きに呼んでくれて構わないよ」
「うん、なら許した! よろしくねっ、ドットおじさん」

 初対面のやり取りからは想像できないくらい打ち解けやがった。
 まあ、ドット隊長も一辺倒の頑固親父ではないのだろう……任務遂行のため、国家のために働いているだけなのだ。

「俺も長いこと軍にいるが、君たちのような冒険者に出会うのは初めてだよ……いや、違うな。法を守る側の人間として、いつの間にか冒険者に偏見を抱いていたのかもしれない」
「いや、マジで反省しないでよっ。だいじょぶだいじょぶ、ドットおじさんは良い人だって! 軍人にも優しい人がいて安心っ」

 若年の女子が大の男の背中をバシバシと叩く図は異様に見えるが、これも偏見だろうか。

「それにほら、おじさんたちが相手にするのは犯罪者ばっかりなんだからしょうがないよっ。そこは私たち冒険者側にも問題があるしねっ」
「いや、だからと言って全体を悪と決めつけたのは俺の落ち度だ。俺を含めて軍内の再教育が必要だと、上官に提言しよう」
「……ドットおじさん、真面目すぎない?」

 若干引いているライズだった。

「エ、エリザの魔法、初めて見たけどすごかったねっ。あれだけ洗練された氷魔法を使えるなんて、さすがは元Sランクパーティーだよ」

 ライズは反省モードに入ってしまったドット隊長から離れ(賢明な判断だ)、エリザに話を振る。

「いえ、私なんてまだまだです……ライズの方こそ、Aランクパーティーのリーダーらしい素晴らしい魔法でした」
「もー、褒めたって何も出ないよーっ!」
「自己強化魔法の中でもかなり上位にくる魔力操作でした。ライズが前線にいてくれたら、とっても頼もしいです」
「えー、そうかなーっ! そんなに褒められるとさすがに照れるよー。よっ、エリザの太鼓持ちっ!」
「太鼓持ちは良い言葉ではないのですが……」
「腰巾着っ!」
「それもあまり良くないですね……」

 困惑するエリザだった。
 ライズさん、言語が苦手なようである。

「ジンさんはまた素手ごろ?」
「街の喧嘩師みたいに言うな。徒手空拳だ」
「無駄にかっこつけちゃって、面倒くさいだけでしょ」
「何で俺には辛辣なんだよ」

 大型のボスを倒したの、一応俺なんだけど。

「リーダーが適当だと私たちの評価も下がっちゃうんだから。気を付けてよねっ」
「別に仕事してればいいだろ。過程より結果さ」
「私はジンさんの燃えるような闘志を見たいんだよっ。熱く燃えるハートがねっ!」
「ダル……」

 中途半端に熱血キャラになろうとするな。
 扱いづらいから。

「ダルいとは何かね! 口を慎みたまえ!」
「口調まで変わってんじゃねえか。戻ってこい」
「……はっ。ここにきて自分のキャラの薄さを憂いて朦朧としていた気がするよ」
「正しい自己分析だな」
「このままじゃ私、ただ炎を出すだけの女子になっちゃうよっ。何とかしないとっ」
「充分個性的だから安心しろ。気になるなら常に燃えとけ」
「それ採用!」
「即時却下しろ」

 ライズが何を焦っているのかは知らないし知りたくもないが、急なキャラ変更は体に毒だ。
 自分にも周りにも。

「ライズはマシな方ですよ。私なんて敬語しか取り柄のない女なのですから……ふふっ、私はいらない子……」
「変なスイッチ入れるな、エリザ。お前までそっち側にいったら収集つかなくなる」
「変人のジンさんに言われるなんて、いよいよ私はダメな女……ふふっ……」
「ついでみたいに俺を傷つけるな」

 ダウナーになるだけならまだしも、俺を巻き込まないでほしい。

「いっそ脱げばいいのでしょうか? 少しは目立てるかもしれませんし」
「取り返しのつかない事態になる前に帰ってこい」
「どうせ男の人なんて裸にしか興味ないのでしょう⁉」
「急に切れないで。普通に怖いから」

 一番キャラ見失ってるって。

「まあ冗談は置いておくとして……ジンさん、いつになったら他の魔術を見せてくれるのですか? ここまで引っ張られると、正直ハードルが上がりまくりですよ」
「もったいぶってるわけじゃないんだけどな……使うべき時がきたら使うよ」
「舐めプってやつですね」
「人聞き悪くまとめないで」

 にしても、使うべき時がきたらか……我ながら曖昧な基準である。
 まあだからと言って、二人を守る時に使うだなんて……口が裂けても言えなかった。
 ……。
 もちろん、冗談である。

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