17 / 32
ぶっ飛ばす
しおりを挟む「私をぶっ飛ばす? それを有言実行するの?」
システィーは不思議そうに首を傾げ、
「……きゃははははははははっ! それって傑作だわ!」
大いに笑った。
「はーあ……こんなに笑ったのは久しぶりよ、ほんと。しかも嘲笑や皮肉じゃないのよ? 君があまりにも可笑しな冗談を言うから、心の底から笑ったの」
「冗談ね……まあ、いくらでも笑ってりゃいいさ」
俺は一歩ずつ、ゆっくりと歩みを進める。
「えー、何その目。如何にも真剣ですって顔しちゃってさー、今度は全然笑えないわ……って言うより、イラつく。まさかまさか、ほんっとーに私をぶっ飛ばせると思ってるわけないわよね?」
「有言実行するって言ったろ? 言葉の通りさ」
「……うっざ」
カチッと、システィーの表情が変わった。
俺の態度が気に食わないのだろうか……だが生憎、人様の顔色を窺う器量は持ち合わせていない。
「せっかく面白い変人だと思ってたのに、君もそこらの冒険者と同じで自惚れた馬鹿ってことね……あーあ、なんだかショックー」
「勝手に期待して勝手に失望するって、コミュニケーションとしちゃ悪手だろ」
「あー、もういいもういい。君とのお喋りはちょーっとだけ楽しかったけど、もう飽きたわ。終わりにしましょ。これ以上イラつくとお肌に良くないしね」
言って、システィーは右手を銃のように構える。
あのポーズは恐らく、魔法発動の合図……ライズたちを追い詰めた爆破魔法とやらを、早速お披露目してくれるらしい。
「って言うかそもそも、君、ルーキーなんでしょ? 冒険者なりたてほやほやのくせして、どーして私に勝てると思っちゃうのかな?」
「って言うかそもそも、ルーキーが一人でここまで来てるって事実に目を向ければいいんじゃないか?」
「……まあ、それも一理あるわね。赤魔法陣ダンジョン深部なんて、ふつーの冒険者が来るところじゃないもの……何? 君、実は元騎士団とか?」
「そんな立派なもんじゃないさ。むしろ真逆だよ」
「真逆? どういう意味?」
「教えない」
「……あっそ。いいわよ、別に。じゃあ死んで」
俺との会話に飽きたのは本当なのだろう……システィーは特に感慨もなく、右手に魔力を集め始めた。
対する俺は、ただ真っすぐに距離を詰めていく。
「っ! ダメ、ジンさん! あいつの魔法は普通じゃないの! 正面から受け切るなんて不可能だわ!」
「ご忠告どうも。いいから黙ってた方がいい、体力がもったいない」
未だに心配を続けるライズを尻目に、俺はふうっと息を吐いた。
「どうやら潔く死にたいようね! きゃはははっ! お望み通り消し炭にしてあげる! 【サンダー・ボム】!」
躊躇なく放たれる爆弾。
人間の頭部ほどに圧縮された雷が射出され、内に溜まったエネルギーを解放せんと向かってくる。
「……よし」
魔法の発動を確認した俺は、一気に前方へと駆け出した。
そしてそのまま、雷の球を抱きかかえる。
「っ⁉ ジンさん⁉」
「きゃははははっ! 馬鹿すぎるよ、君! ほんっとーに跡形もなく、消し炭になりなよ!」
俺の胸元で、魔力が急激に溢れ出す。
爆発まで3、2、1……。
ドカン。
「……………………は?」
激しい光に包まれること数秒。
無傷の俺を見て最初に驚いたのは、他ならぬシスティーだった。
「ふう……まあ、ちょっと痺れるくらいだったな。マッサージにしちゃあ弱過ぎるぜ」
「……ちょっと、待って。え、マジで言ってる? 君、そりゃいくらなんでも、いくらなんでもじゃない?」
先ほどまで浮かべていた幼稚な笑顔が消え、焦りを露にするシスティー。
絶対の自信を持っている魔法が無力化されたのだ、その気持ちはわかる。
わかるが、関係ないことだ。
「で、これで終わり? だったら有言実行したいんだけど」
「……終わりなわけ、ないでしょ? なるほどね、君の馬鹿みたいな態度はその防御魔法からきてたんだ……きゃははっ! でもねでもね、種さえわかれば、いくらでも対処できるのよ!」
「一々説明するのも怠いから、そういうことでいいよ」
「余裕そうね? まあ、随分と鍛錬を積んだ防御魔法のようだし、並の冒険者なら太刀打ちできないでしょーけど……残念ね」
再び笑顔を取り戻したシスティーは、左手を差し向けた。
「私が使える属性は、一つじゃない……右手では雷、左手では火の魔法を使えるのよ。きゃははっ!」
「……」
だからどうした、とは聞くまい。
自分で考えてみよう……えっと……。
「私の【サンダー・ボム】を完全に防いだってことは、君の防御魔法の属性は氷! なら、左手の火で攻撃すれば……結果は明らかよね?」
わざわざ説明させてしまった。
しかも滅茶苦茶間違っている。
「これで正真正銘の終わりよ! 【エクスプロード】!」
こちらの訂正も待たず、魔法を発動するシスティー。
圧縮された炎の球が撃ち出され、俺の腹部に直撃する。
二度目のカウントダウン……3、2、1、ボンッ。
「ほらほら、弾け飛べ! きゃはははははははっ…………は?」
何度やっても結果は同じだった。
それこそ、火を見るよりも明らかだ。
俺には、どんな属性も通用しない。
それが魔法である限り……悪魔の扱う魔術には、到底敵わないのだ。
「……とりあえず、ぶっ飛べ」
俺は右の拳を固く握る。
男も女も関係ない、正義の右ストレート。
10
お気に入りに追加
178
あなたにおすすめの小説
天職はドロップ率300%の盗賊、錬金術師を騙る。
朱本来未
ファンタジー
魔術師の大家であるレッドグレイヴ家に生を受けたヒイロは、15歳を迎えて受けた成人の儀で盗賊の天職を授けられた。
天職が王家からの心象が悪い盗賊になってしまったヒイロは、廃嫡されてレッドグレイヴ領からの追放されることとなった。
ヒイロは以前から魔術師以外の天職に可能性を感じていたこともあり、追放処分を抵抗することなく受け入れ、レッドグレイヴ領から出奔するのだった。
異世界で生きていく。
モネ
ファンタジー
目が覚めたら異世界。
素敵な女神様と出会い、魔力があったから選ばれた主人公。
魔法と調合スキルを使って成長していく。
小さな可愛い生き物と旅をしながら新しい世界で生きていく。
旅の中で出会う人々、訪れる土地で色々な経験をしていく。
3/8申し訳ありません。
章の編集をしました。
チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい
616號
ファンタジー
不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。
引きこもり転生エルフ、仕方なく旅に出る
Greis
ファンタジー
旧題:引きこもり転生エルフ、強制的に旅に出される
・2021/10/29 第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞 こちらの賞をアルファポリス様から頂く事が出来ました。
実家暮らし、25歳のぽっちゃり会社員の俺は、日ごろの不摂生がたたり、読書中に死亡。転生先は、剣と魔法の世界の一種族、エルフだ。一分一秒も無駄にできない前世に比べると、だいぶのんびりしている今世の生活の方が、自分に合っていた。次第に、兄や姉、友人などが、見分のために外に出ていくのを見送る俺を、心配しだす両親や師匠たち。そしてついに、(強制的に)旅に出ることになりました。
※のんびり進むので、戦闘に関しては、話数が進んでからになりますので、ご注意ください。
クラス転移で神様に?
空見 大
ファンタジー
空想の中で自由を謳歌していた少年、晴人は、ある日突然現実と夢の境界を越えたような事態に巻き込まれる。
目覚めると彼は真っ白な空間にいた。
動揺するクラスメイト達、状況を掴めない彼の前に現れたのは「神」を名乗る怪しげな存在。彼はいままさにこのクラス全員が異世界へと送り込まれていると告げる。
神は異世界で生き抜く力を身に付けるため、自分に合った能力を自らの手で選び取れと告げる。クラスメイトが興奮と恐怖の狭間で動き出す中、自分の能力欄に違和感を覚えた晴人は手が進むままに動かすと他の者にはない力が自分の能力獲得欄にある事に気がついた。
龍神、邪神、魔神、妖精神、鍛治神、盗神。
六つの神の称号を手に入れ有頂天になる晴人だったが、クラスメイト達が続々と異世界に向かう中ただ一人取り残される。
神と二人っきりでなんとも言えない感覚を味わっていると、突如として鳴り響いた警告音と共に異世界に転生するという不穏な言葉を耳にする。
気が付けばクラスメイト達が転移してくる10年前の世界に転生した彼は、名前をエルピスに変え異世界で生きていくことになる──これは、夢見る少年が家族と運命の為に戦う物語。
バイトで冒険者始めたら最強だったっていう話
紅赤
ファンタジー
ここは、地球とはまた別の世界――
田舎町の実家で働きもせずニートをしていたタロー。
暢気に暮らしていたタローであったが、ある日両親から家を追い出されてしまう。
仕方なく。本当に仕方なく、当てもなく歩を進めて辿り着いたのは冒険者の集う街<タイタン>
「冒険者って何の仕事だ?」とよくわからないまま、彼はバイトで冒険者を始めることに。
最初は田舎者だと他の冒険者にバカにされるが、気にせずテキトーに依頼を受けるタロー。
しかし、その依頼は難度Aの高ランククエストであることが判明。
ギルドマスターのドラムスは急いで救出チームを編成し、タローを助けに向かおうと――
――する前に、タローは何事もなく帰ってくるのであった。
しかもその姿は、
血まみれ。
右手には討伐したモンスターの首。
左手にはモンスターのドロップアイテム。
そしてスルメをかじりながら、背中にお爺さんを担いでいた。
「いや、情報量多すぎだろぉがあ゛ぁ!!」
ドラムスの叫びが響く中で、タローの意外な才能が発揮された瞬間だった。
タローの冒険者としての摩訶不思議な人生はこうして幕を開けたのである。
――これは、バイトで冒険者を始めたら最強だった。という話――
集団転移した商社マン ネットスキルでスローライフしたいです!
七転び早起き
ファンタジー
「望む3つのスキルを付与してあげる」
その天使の言葉は善意からなのか?
異世界に転移する人達は何を選び、何を求めるのか?
そして主人公が○○○が欲しくて望んだスキルの1つがネットスキル。
ただし、その扱いが難しいものだった。
転移者の仲間達、そして新たに出会った仲間達と異世界を駆け巡る物語です。
基本は面白くですが、シリアスも顔を覗かせます。猫ミミ、孤児院、幼女など定番物が登場します。
○○○「これは私とのラブストーリーなの!」
主人公「いや、それは違うな」
伯爵家の三男は冒険者を目指す!
おとうふ
ファンタジー
2024年8月、更新再開しました!
佐藤良太はとある高校に通う極普通の高校生である。いつものように彼女の伶奈と一緒に歩いて下校していたところ、信号無視のトラックが猛スピードで突っ込んで来るのが見えた。良太は咄嗟に彼女を突き飛ばしたが、彼は迫り来るトラックを前に為すすべも無く、あっけなくこの世を去った。
彼が最後に見たものは、驚愕した表情で自分を見る彼女と、完全にキメているとしか思えない、トラックの運転手の異常な目だった...
(...伶奈、ごめん...)
異世界に転生した良太は、とりあえず父の勧める通りに冒険者を目指すこととなる。学校での出会いや、地球では体験したことのない様々な出来事が彼を待っている。
初めて投稿する作品ですので、温かい目で見ていただければ幸いです。
誤字・脱字やおかしな表現や展開など、指摘があれば遠慮なくお願い致します。
1話1話はとても短くなっていますので、サクサク読めるかなと思います。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる