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パーティー募集
しおりを挟むコルカの街に着いたのは四日後のことだった。
アスモデウス以外の誰かと行動を共にするのは初めての経験だったので、正直、疲れたという感想しかない。
これが気疲れというやつなのだろう。
日々発見の連続だ。
「さ、着きましたよ、ジンさん。早速ギルドに向かいましょう。ほら早く早く」
旅を始めて二日経った辺りから、エリザの態度は少し変わった。
あまりにも俺が無知すぎるので、自然と彼女にリードされる場面が増えてきたのだ。
アスモデウスの傍若無人っぷりとは比べるべくもないが、こうして手綱を引いてもらえるのはありがたい。
基本的に面倒くさがりなのだ、俺は。
飯も口まで運んでほしい。
布団とか掛けてほしい。
「……」
「どうしたのですか、ジンさん。ボーっと周りを見て。お馬鹿さんに見えますよ?」
「シンプルに悪口を言うな……いやまあ、まだ人混みに慣れてないからさ。人混みっつうか人間自体。どこから沸いて出てきたんだってくらいたくさんいて面食らってんの」
「そんな虫みたいな言い方しなくても……みなさん、お家から出てきただけですよ」
「お家ねえ……」
こうして大通りを行き来する人間一人一人に人生があり、帰る場所がある。
そしてその大多数が、俺とは全く無関係に成り立っている。
当たり前のことだが、この当たり前を実感するのは初めてだ。
「……」
俺は今、ここにいる大勢の人間と同じように生きている。
そう自覚した瞬間、アスモデウスがいないことを改めて思い知らされた気がして。
少し――奥歯が軋んだ。
「……大丈夫ですか? 怖い顔になっていますよ?」
俺を心配してか、エリザが恐る恐る顔を覗き込んでくる。
「……別に問題ない。早く行こうぜ」
「本当ですか? 心なしか顔色も悪いような……」
「元々血色薄いの。健康優良児に産まれたかったもんだ」
止まってしまっていた足を動かし、目的地であるギルドへ。
数十分後……ハリノアで見たものより数段立派な建造物が顔を出した。
戸の先には案の定酒場が広がり、昼間だというのに多くの冒険者共が酒を煽っている。
「……」
「ジンさん、また面食らっているのです?」
「……人酔い」
「私にはわからない感覚ですね」
「都会出身アピールやめろ。山育ちには利くんだ」
「私も別に人混みが得意なわけではないですよ。お揃いです」
エリザは器用に人波を縫い、受付カウンターまで俺を導いた。
「あら、あんたら見ない顔だね。さてはここらの人間じゃないね?」
カウンターに立っていたのは、果たしてハリノアで出会ったテッサさんとは似ても似つかないおばさんだった。
そりゃ、全てのギルドに可愛い事務員を配置できるわけないか……。
「……なんだいお兄ちゃん、その人を憐れむような顔は」
「何でもねっす……」
キッと睨まれ、慌てて目を逸らす。
「お忙しいところすみません。私たち、パーティーメンバーを募集したいのですけれど……」
「あら、こっちのお嬢ちゃんはべっぴんさんだねぇ……メンバー募集ね、じゃあ冒険証を出してくれるかい?」
「わかりました。よろしくお願いします」
「そっちの目つきの悪いお兄ちゃんもだよ。ほら、早くしな」
受付のおばさんは俺の手から冒険証を引ったくり(横暴)、何やら書類を確認し出した。
「ええっと……おや、お嬢ちゃんはSランクパーティーに所属していたんだね。こりゃ応募が殺到しそうだ……って、お兄ちゃんは初めてのパーティーかい。随分デコボコなコンビだけど、一体どんな手を使ってたぶらかしたんだい?」
「余計なお世話っすよ。いいから早くしてください」
「ルーキーが一丁前に急かすんじゃないよ……ところで、メンバーに求める条件はどうするんだい?」
「別に誰でもいいっす。適当で」
俺のおざなりな返答に眉を潜めながらも、おばさんはテキパキと仕事を進めていく。
実際、三人目のメンバーが強かろうが弱かろうが大した問題ではないのだ……エリザはそこそこ戦えるし、いざとなったら魔術を使えばいい。
あくまでもギルドの規則に則るための形式である。
今更一人増えようがどうしようが関係ない……まあ欲を言えば、エリザほど真面目過ぎなければいいのだが。
「……これでよし、と。そうさね、今の募集状況だと大体二週間くらいは待ってもらうことになるかね。それまでのんびり観光でもしてな」
「もう少し早くなりません? マジで誰でもいいんだけど」
「順番待ちって言葉を知らないのかい? ちょっとは忍耐を覚えな、お兄ちゃん」
「そこをなんとか……あれ、おばさんよく見るとイケてるっすね」
「ごまをするならもっと上手くやりな。さ、用が済んだんなら帰った帰った」
どうやら俺は褒め上手ではないらしい……おばさんは手をしっしと払い、俺たちをカウンターから遠ざけた。
「二週間か……長いな」
「これでもまだ短い方ですよ。詳細な条件を付けてメンバーを探そうと思ったら、二、三カ月待つことなんてザラですから」
「酒場を見る限りじゃ、掃いて捨てるほど人で溢れてるのにな。そこら辺から一人連れてくか」
「やめてください、ジンさん。私たちは人攫いじゃないのですよ」
「そうそう。それに、仲間は無理矢理作るるものじゃないわよ」
「その通りです……って、え?」
突然会話に乱入してきた謎の声に驚き、エリザは目を丸くする。
見れば、エリザの背後に金髪の女の子が立っていた。
謎の少女は赤々とした目を爛々と輝かせ、陽気に口を開く。
「あなたたち、パーティーメンバーを探してるんでしょ? 良ければ少しお話しない?」
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