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鬼角

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「お疲れ様でした。初めてのクエストはどうでしたか?」


「ああまあ、上々ですかね……」


 イオを背負って山道を進むこと数時間、すっかり夜が明けてしまったが。

 俺たちは無事に、デリアの街に辿り着くことができた。


「あの、魔薬草、採ってこれなかったんですけど……また後日ってことでいいですかね」


「あら、そうでしたか。最初はみんなそんなものですよ。元気出していきましょう!」


 気を失ったままのイオをホテルのベッドに寝かしつけ、俺は一人デリアルークへと足を運んでいた。

 一応、依頼が失敗したことを伝えなければという判断だ。

 それと、もう一つ。


「あの、セリナさん……モンスターから取れた素材って、ギルドで買い取ってもらえたりします?」


「はい、もちろん。上級モンスターから入手できる素材は貴重ですから、もし手に入れることができたら高値で買い取らせて頂きますよ」


 よかった、きちんと売れるらしい。
 少しは宿泊費や身銭の足しになるだろう。


「じゃあ、これ。お願いします」


 俺は袋から例の角を取り出す。

 意外と大きくてかさばるから、早くどうにかしたかったというのが本音だ。

 それになんか、脈動してるし。

 普通に気持ち悪い。


「……」


 カウンターに置かれた角を見て、セリナさんは固まってしまう。

 目を丸くして驚いている様子だが……買取不可だったらどうしよう。


「あ、あの……セリナさん? 買取できないくらいのものだったら、処分してくれるとありがたいんですけど。ほら、なんかでかくて動いて邪魔なんで……」


 処分するのに料金が発生したら本末転倒だが。

 そしたら道端に捨てるだけだ(ポイ捨て、駄目絶対)。


「……シキさん、これをどこで?」


 セリナさんは若干震え交じりの声で言う。


「え? えっと、その角が生えてるゴブリンを倒したら、手に入ったというか……」


 それ以外に言いようがなかった。

 俺の返答を聞いて、セリナさんは深い溜息をつきながらその場にしゃがみ込んでしまう。

 説明が下手すぎて呆れられたんだろうか。いや、それは意図を汲み取れない方にも問題があるだろ(他人の所為)。


「シキさん、落ち着いて聞いてください……この角は、Aランクモンスター『オーガゴブリン』のものです」


「はぁ……Aランクってことは、高く売れるもんですか」


「高く売れるなんて話じゃありません!」


 バン! と勢いよく机を叩き、セリナさんは身を乗り出してくる。


「Aランクですよ、Aランク! うちのギルドで誰も討伐したことがないんですよ!」


「はあ……」


 セリナさんは依頼書が張ってある掲示板まで走っていき、一枚の紙を引っぺがしてきた。


「このクエスト! ずっとどこのギルドも達成できずにいた依頼の討伐対象が、オーガゴブリンです!」


 興奮冷めやらぬといった感じで力説する彼女から差し出された紙を見れば、『Aランククエスト』と赤字で書かれていた。

 内容は、オーガゴブリンの討伐。


「あれ、ってことはその依頼を達成したってことでいいんですか?」


「もちろんです!」


 ついにうちからAランククエスト達成者が! と言いながら、狂喜乱舞しているセリナさんだった。

 やったやったと騒ぐ彼女の声に反応し、酒場にいたギルドメンバーらしき人たちが集まってくる。


「嘘だろ、Aランク⁉」


「一体どうやったんだ!」


「こんなガキが……」


「これでヘオーネの奴らに一泡吹かせられるぜ!」


 どうやらかなりの大事らしい。

 みな口々に騒ぎ立てて、軽くお祭り状態だ。

 ……と言うか、その喧騒の渦中にいるのが、俺なのだけど。


「あ、あの……みなさん落ち着いて……」


 一度動き出した大衆は簡単には止められない。このままでは揉みくちゃにされて成型されて美味しいパンになってしまう。

 俺はできるだけ息を殺し、群衆の中心から這い出るように輪から出た。

 見れば、セリナさんが酒樽を持ち出して乱痴気騒ぎを始めている。


「……」


 彼女も、意外と楽しくギルドライフを満喫しているようだった。


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