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入団試験 002

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 ワイバーン種は小型のドラゴンで、特に飛行性能に優れているモンスターだ。
 複数体で群れを成し、高い崖の上に作った巣を拠点として狩りを行う。

「巣の破壊と成体の駆除が今回の目的だ。もし卵と幼体がいれば、生きたまま確保しろ」
「生きたままって……抱えて持って帰るの? 重くない?」
「帰りの心配をするより、目の前のことに集中したらどうだ?」

 正論を言われた。
 ので、空を飛ぶワイバーンに集中する。

「……ふう」

 ドラゴンの類は文献でしか見たことがなく、実際に倒した経験はない。
 しかも相手はワイバーン……その主戦場は空中、地上にいる僕は攻撃手段がグッと限られる。
 こういう時にユウリ兄さんみたいなスキルがあれば便利なのだろうが、ないものねだりはしていられない。
 僕は僕のやり方でやるしかないのだ。

「……」

 剣を構える。
 目視できる範囲にいるのは三体……近くを飛ぶ一体に的を絞り、全神経を刀身へと集める。
 近いとは言っても、これだけ距離が離れていると一撃で倒すのは難しい。
 ならば、狙う部位は一つ。

「……《飛来衝ひらいしょう》」

 空気を物体と捉え、極限まで薄く斬るイメージ。
 威力は《斬波ざんぱ》に劣るが、その分より遠くまで衝撃波が届く。
 硬い鱗に傷をつけることはできなくとも。
 柔らかい飛膜なら、破ることができるだろう。

「ギィィィィイイイイイイイイイ‼」

 目論見通り、片翼の飛膜を斬り裂くことに成功した。
 文字通り飛行能力の半分を失ったワイバーンは、制御不能のまま地面に落下する。
 頭上に迫る肉塊……ここまで接近すれば、問題ない。

「ふっ」

 何の捻りもない上段振り。
 頭蓋から尻尾の先に掛けて、一刀両断する。

「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアス‼」

 仲間が無残に二分割されたのを見て、残りのワイバーンが雄たけびを上げた。
 奴らは遠距離攻撃のブレスを吐くことができないはず……案の定、地上にいる僕目掛けて突進してくる。
 敵討ちのつもりだろう。
 こちらからすれば、間合いに飛び込んでくる愚行にしか見えないが。

「なんだ、そんなに仲間想いなら、もっと簡単に殺せたのに」

 僕は剣を構え直し、

「《斬波》」

 横に薙ぐ。

「ギイイイイイイィィィィ――――ィィ?」

 迫ってきたワイバーン二体を綺麗に捌いた。
 こうなったら、あとは芋づる式だろう。
 巣に残っていた個体が異変を察知し、一斉に飛び出す……その数が六体だと数え終わった頃には、先陣を切ったワイバーンが眼前まで移動してきていた。
 なるほど、大した高速飛行だ。
 ただし、速く動けば動くほど、何かにぶつかった際の衝撃は大きくなるわけで。

「よっと」

 剣を振るう方からすれば、力を入れずに済んでラッキーである。

「ギャアアアア、アア、ア――」

 次々に突撃してくるワイバーンを、軽く二つに裂いていく。
 結果。
 時間にしてみれば十数秒のうちに、群れは壊滅した。

「……仲間想いってのも考え物だな」

 まあ、守るべき巣がある以上、逃げるわけにもいかないのだろうけれど。
 だがそれは、種として正しい選択ではない。
 こうして全滅してしまうくらいなら、全てをかなぐり捨てても逃げるべきなのだ。
 でも、彼らはそれができなかった。
 自分を縛るしがらみは、少ない方がいい。
 いざという時に――がんじがらめになってしまうのだから。

「……モンスター相手に何を思ってるんだか、僕は」

 苦笑すら出てこない。
 剣に付いた血を振るい、鞘に納める。

「……なるほどな。ドリアードが嘯いたのも納得だ」

 ワイバーンとの戦闘が始まってから身を隠していたナイラが、木の奥から姿を見せた。

「難易度B……ベテランの冒険者パーティーが命を懸けて行うクエストを、こうもあっさりクリアするか。正直、馬鹿げているとしか言えないな」
「それ、誉め言葉として受け取っておくよ。あとは巣を壊すだけだし、試験には合格したってことでいいのかな」
「……まあ、いいだろう」

 ナイラは難しい顔で腕を組み、

「これで『無才』……、な」

 そう呟いた。
 意味深な雰囲気だが、別段追及する気も起きない。
 僕にはまだやることがあるのだ。
 ワイバーンの巣の破壊。
 ……とは言ったものの、巣があるのは遥か崖の上だ。
 これからあそこを登るのかと思うと、普通に面倒臭い。
 まあ、ここまできて文句も言ってられないか。

「じゃ、あの巣を壊しにいくよ」
「いや、いい」

 嫌々ながら動き出そうとした僕を、ナイラが止める。

「お前の実力がわかった以上、無駄に時間を掛ける意味もない……私が壊す」

 言って。
 ナイラは、両腕を水平に開いた。

「【怪力無双アギト】」

 銀色に輝くオーラが、彼女の腕を伝って左右に伸びていく。
 無形だったオーラは形を変え、巨大な肉食獣の顎を思わせる形態に変貌した。
 右は上顎、左は下顎といった具合である。

「《銀獅子齧咬シシノアギト》!」

 威勢のいい掛け声とともに、ナイラは両腕を振るう。
 顎を模したオーラが勢いよく伸展し、さながら捕食でもするかのように岸壁を砕いていく。
 そして数秒もかからず。
 土台である崖ごと、ワイバーンの巣を粉砕した。
 粉々になって散っていく岩石、土、木、エトセトラエトセトラ。

「……」
「これで時短になったな」

 時短ね……地形を丸ごと変えるレベルの破壊をしておいて、便利な裏ワザ感覚とは恐れ入る。
 これが二つ名持ちの力と言われれば、こちらも納得せざるを得ない。

「試験は以上だ。お前の実力が確かなのはわかったが、入団できるかはマスター次第だ……まあ一応、使える奴だと口添えはしておこう」
「そいつはどうも……それより、巣には卵があったかもしれないんじゃないの?」
「ふん。元々いけ好かない貴族からの依頼だ。あいつらにくれてやるものなどない」

 思いっきり私情で仕事をしていた。

「さて、では帰るとしよう」

 ナイラは美しい銀髪を翻し、何事もなかったかのように歩き出す。

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