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エイタナ国
71 エーリクの気持ち
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「俺、お腹すいちゃった。何、作ってるの? いい匂い」
エーリクはアデルが調理していた鍋を覗く。
「チキンのトマト煮。もうできてるから食べようか」
アデルは鍋から皿によそう。エーリクも手を洗って配膳を手伝った。
「おいしい」
エーリクが一口チキンを食べ、微笑む。アデルは夢のようでぼーっとする。
「俺、たぶん、アデルが5歳の時から好きだったんだと思う」
エーリクが語り出す。
「最初は、もちろんリリアナの忘れ形見だからっていう理由があったんだ。でも、頑張り屋のアデルと一緒にいるのが楽しかった。その時は兄弟として好きと思ってたけど」
ポロトコ村での生活を思い出す。アデルにとっても大切な思い出だ。
「アデルが顔が変わった時、異性として意識した。でも、オメガのアデルは自分の手に負えないと思った。アデルが好きって言ってくれるのは嬉しい反面、憂鬱でもあった。アデルが早くアルファと番になって自分の目の前からいなくなって欲しいと思った。でも、いなくなれば、きっと自分が傷つくのも分かっていた。どうしようもない感情をもてあまして旅に出たんだ」
アデルはエーリクの告白をどきどきしながら聞いた。
「そんな俺の前にベータに戻ったアデルが現れた。また一緒にいられると思って嬉しかった。その時はアストラ国の常識が俺の中に根強くあったから、ベータ男性同士が結婚できるという概念がなかった。アデルは女性と結婚すると思ってたんだ。でも、俺は兄弟として一緒にいられればそれでいいと思ってた」
エーリクが自分と女性が結婚すると思ってたことに驚いた。
「僕は、産まれてからずっと男の人が好きで。それはオメガだからと思ってたけど、ベータになっても同じだった」
エーリクがうんと頷く。
「うちのカフェの店長だってベータ男性同士で付き合っているし、お客さんでも同性カップルは多い。アデルは別に珍しくない」
アデルは肯定されてほっとした。
「じゃあ、自分はどうなんだろうということなんだ。今まで、深く考えてこなかった。今も自分の性嗜好は分からない。おそらく、男性とか女性とかではなくて好きな人が好きなんだと思う。それが男性であろうと、女性であろうと」
エーリクが誰を好きになるのか、ずっと疑問だった。アデルはエーリクの告白に耳を傾ける。
「アデルを弟として愛してきた歴史があるから、急に恋愛として見るのは抵抗があった。でも、ニコラさんに取られてしまうと思うと、強い嫉妬の心が湧いてくる。本当の弟だったら、『いい人が見つかってよかった。幸せになれよ』と思うはずなのに」
アデルの頬が朱に染まる。
「ごめんよ。こんな訳の分かんない人間で。正直、アデルがオメガの時に、手放すのが辛かった」
アデルは、はっとする。
「僕、あの前の顔だったら良かったよね」
エーリクは首を横に振る。
「今の顔も、昔の顔もアデルに変わりないよ。どっちも好き。でも、前の顔だと、人目を惹きすぎるから、うかうかと外の散歩すらできない。今の顔の方が、周りの目を気にせず、色々行動できて楽しい」
アデルは嬉しくなる。
「僕も、実は、今の顔の方が気に入ってるんだ。あの顔の時は、みんな、顔しか見てなかったから」
今の顔は正直、醜いと思う。でも、見かけに囚われずに、アデルの本質を好いてくれる人がいる。アデルはそのことに満足だった。
エーリクはアデルが調理していた鍋を覗く。
「チキンのトマト煮。もうできてるから食べようか」
アデルは鍋から皿によそう。エーリクも手を洗って配膳を手伝った。
「おいしい」
エーリクが一口チキンを食べ、微笑む。アデルは夢のようでぼーっとする。
「俺、たぶん、アデルが5歳の時から好きだったんだと思う」
エーリクが語り出す。
「最初は、もちろんリリアナの忘れ形見だからっていう理由があったんだ。でも、頑張り屋のアデルと一緒にいるのが楽しかった。その時は兄弟として好きと思ってたけど」
ポロトコ村での生活を思い出す。アデルにとっても大切な思い出だ。
「アデルが顔が変わった時、異性として意識した。でも、オメガのアデルは自分の手に負えないと思った。アデルが好きって言ってくれるのは嬉しい反面、憂鬱でもあった。アデルが早くアルファと番になって自分の目の前からいなくなって欲しいと思った。でも、いなくなれば、きっと自分が傷つくのも分かっていた。どうしようもない感情をもてあまして旅に出たんだ」
アデルはエーリクの告白をどきどきしながら聞いた。
「そんな俺の前にベータに戻ったアデルが現れた。また一緒にいられると思って嬉しかった。その時はアストラ国の常識が俺の中に根強くあったから、ベータ男性同士が結婚できるという概念がなかった。アデルは女性と結婚すると思ってたんだ。でも、俺は兄弟として一緒にいられればそれでいいと思ってた」
エーリクが自分と女性が結婚すると思ってたことに驚いた。
「僕は、産まれてからずっと男の人が好きで。それはオメガだからと思ってたけど、ベータになっても同じだった」
エーリクがうんと頷く。
「うちのカフェの店長だってベータ男性同士で付き合っているし、お客さんでも同性カップルは多い。アデルは別に珍しくない」
アデルは肯定されてほっとした。
「じゃあ、自分はどうなんだろうということなんだ。今まで、深く考えてこなかった。今も自分の性嗜好は分からない。おそらく、男性とか女性とかではなくて好きな人が好きなんだと思う。それが男性であろうと、女性であろうと」
エーリクが誰を好きになるのか、ずっと疑問だった。アデルはエーリクの告白に耳を傾ける。
「アデルを弟として愛してきた歴史があるから、急に恋愛として見るのは抵抗があった。でも、ニコラさんに取られてしまうと思うと、強い嫉妬の心が湧いてくる。本当の弟だったら、『いい人が見つかってよかった。幸せになれよ』と思うはずなのに」
アデルの頬が朱に染まる。
「ごめんよ。こんな訳の分かんない人間で。正直、アデルがオメガの時に、手放すのが辛かった」
アデルは、はっとする。
「僕、あの前の顔だったら良かったよね」
エーリクは首を横に振る。
「今の顔も、昔の顔もアデルに変わりないよ。どっちも好き。でも、前の顔だと、人目を惹きすぎるから、うかうかと外の散歩すらできない。今の顔の方が、周りの目を気にせず、色々行動できて楽しい」
アデルは嬉しくなる。
「僕も、実は、今の顔の方が気に入ってるんだ。あの顔の時は、みんな、顔しか見てなかったから」
今の顔は正直、醜いと思う。でも、見かけに囚われずに、アデルの本質を好いてくれる人がいる。アデルはそのことに満足だった。
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