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アデルの運命
49 グレアムの決断
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日が暮れたので、アデルはまた分身の術をつかい、グレアムの元へ急いだ。
窓をコンコンとノックすると、待ち構えていたグレアムが、すぐに窓を開けてアデルを中に入れてくれた。
「ごめん」
アデルが入るなり、グレアムは謝った。アデルはグレアムが何を言おうとしているのか理解した。
「運命の番って分かった時、全てを捨てても、お前を連れて逃げようと思ったんだ。でも、分身のフェロモンのないお前と話していたら、何もかも捨てて逃げる気力がなくなってしまった。多分、また本物に会ってフェロモン吸えば、連れて逃げたくなると思うけど。そうならないように本物のお前にはカリムと番になるまで会わないよ」
うん、とアデルは頷く。
「お前がもっと不細工だったら良かった。そしたら、俺がお前と運命の番って分かったら、きっとみんな祝福してくれたよ。俺は今まで通り出世を目指して、今の仕事続けられるし、幸せな家族になれたと思う」
うん、とアデルはまた頷く。
「お前と駆け落ちしたら、カリムは俺を許さないだろう。アストラ国から出ていかなければならない。他の国に行っても、きちんとした仕事には就けないだろう」
アデルは下を向いた。逃亡生活を想像した。王宮の籠の鳥の生活もぞっとしたが、それ以上に悲惨な生活かもしれない。
「運命の番って不思議だよね。僕もフェロモン吸った時に、とにかくグレアムに会わなければ、と必死になったけど、このフェロモンがない分身の体で会うと、その感情が全くなくなるんだね」
アデルも分身の体でグレアムと会っていると、一緒に逃げたいほどの強い衝動はなくなっていた。
2人、無言で見つめ合った。
「グレアムはカリム様の護衛だから、誰と結婚するか分かるね」
アデルがふっと呟く。
「平民のベータ女性と結婚すると思うから、王太子夫婦に出席していただけるような結婚式はできないよ。それに、多分、不細工だよ。……でも、気立てが優しくて、俺の親を大事にしてくれる人を選ぶと思う」
「……そっか……」
寂しげに微笑むアデルを見つめて、グレアムが口を開く。
「もしかして……お前、好きな人、いるのか?」
「!!」
不意打ちにアデルの顔は紅潮した。エーリクの顔が頭に思い浮かぶ。
顔を赤らめたアデルを見て、グレアムは口を尖らせる。
「なんだ、それなら、そう言えよな。俺、マジでお前を連れて国外逃亡することを一生懸命考えたんだから。ちなみに誰よ。聞く権利あると思うけど」
「権利って……。内緒にしてくれるなら言ってもいいけど……」
「んなこと、カリムに言ったら、そいつ、抹殺されるわ。言うわけないだろ。運命の番であるお前への自分の気持ちに決着をつけたいだけだから、誰にも言わないから教えて」
グレアムの真剣な瞳を見つめた。アデルも誰かにこの恋について話したかった。
「自分を育ててくれたお兄さん、なんだ。お兄さんっていっても血は繋がってないんだけど」
「そうなんだ。血が繋がってないんだったら大丈夫じゃん。聖マリアンナ学園になんか入学しないで番っちゃえば良かったのに」
「ベータ、なんだ」
「……べータか……番えないけど、結婚はできるんじゃない?」
「僕もそう言ったんだ。『でも、番になれない。番になれないと、フェロモンをばらまき続けて、常に危険な状態になる。ヒートもベータはアルファほど対応できない。俺はアデルと結婚する自信がない。アデルはアルファと結婚して番になって幸せになって欲しい』って言われちゃった。フラれちゃったんだ」
聖マリアンナ学園への入学を決めた日を思い出す。思い切って、エーリクに結婚したいとお願いしたけれど、エーリクを困らせただけだった。エーリクを困らせたくなくて、聖マリアンナ学園行きを決めたのだ。
「……フラれたのかな?」
グレアムが聞き返す。
「え?」
「お前なんか嫌いだよ、結婚なんてしたくないよ、って言われたわけじゃないんだろ? 自信がないと言われただけだろ」
「……嫌いだよとは言われたことない……」
「お前みたいな美人のオメガと結婚するのは、アルファの俺だって平民だから自信がないのに、ベータなら尚の事かもな。そいつの気持ち、俺、分かるような気がする」
「エーリクは僕を好きだったってこと?」
アデルはグレアムに食い気味に迫った。
「そんなこと、わっかんねーよ。……でも、酷な話だけど、その時でも自信なければ、王太子の婚約者になった今では、さらに無理だと思うよ」
グレアムの言葉に冷水を浴びせかけられたようになる。
無言になったアデルをグレアムはしばらく見つめた。そして、そっと頭を撫でた。
「カリムは、そんなに悪いやつじゃないし、子供ができたら可愛いだろうし。王太子妃の仕事もやりがいがあるだろうし。お前は全オメガが憧れる立場になるんだよ。それが、幸せっていうことじゃない?」
世間で言う幸せな結婚を自分はする。玉の輿とみんなは言うだろう。
でも、それが自分の本当にしたいことなのか。
グレアムと再び見つめ合う。
運命の番。エーリクやカリムと出会ってなければ、普通にこの人と番って結婚して、普通に幸せになれたようにも思う。
でも、お互いに別の道を行くことに決めた。
「ありがとう。グレアムも幸せになってね」
「カリムと番になったら、俺がカリムとお前をしっかり護衛してやるから安心して王宮に来い」
アデルはぺこんとお辞儀をして窓から出て行った。
窓をコンコンとノックすると、待ち構えていたグレアムが、すぐに窓を開けてアデルを中に入れてくれた。
「ごめん」
アデルが入るなり、グレアムは謝った。アデルはグレアムが何を言おうとしているのか理解した。
「運命の番って分かった時、全てを捨てても、お前を連れて逃げようと思ったんだ。でも、分身のフェロモンのないお前と話していたら、何もかも捨てて逃げる気力がなくなってしまった。多分、また本物に会ってフェロモン吸えば、連れて逃げたくなると思うけど。そうならないように本物のお前にはカリムと番になるまで会わないよ」
うん、とアデルは頷く。
「お前がもっと不細工だったら良かった。そしたら、俺がお前と運命の番って分かったら、きっとみんな祝福してくれたよ。俺は今まで通り出世を目指して、今の仕事続けられるし、幸せな家族になれたと思う」
うん、とアデルはまた頷く。
「お前と駆け落ちしたら、カリムは俺を許さないだろう。アストラ国から出ていかなければならない。他の国に行っても、きちんとした仕事には就けないだろう」
アデルは下を向いた。逃亡生活を想像した。王宮の籠の鳥の生活もぞっとしたが、それ以上に悲惨な生活かもしれない。
「運命の番って不思議だよね。僕もフェロモン吸った時に、とにかくグレアムに会わなければ、と必死になったけど、このフェロモンがない分身の体で会うと、その感情が全くなくなるんだね」
アデルも分身の体でグレアムと会っていると、一緒に逃げたいほどの強い衝動はなくなっていた。
2人、無言で見つめ合った。
「グレアムはカリム様の護衛だから、誰と結婚するか分かるね」
アデルがふっと呟く。
「平民のベータ女性と結婚すると思うから、王太子夫婦に出席していただけるような結婚式はできないよ。それに、多分、不細工だよ。……でも、気立てが優しくて、俺の親を大事にしてくれる人を選ぶと思う」
「……そっか……」
寂しげに微笑むアデルを見つめて、グレアムが口を開く。
「もしかして……お前、好きな人、いるのか?」
「!!」
不意打ちにアデルの顔は紅潮した。エーリクの顔が頭に思い浮かぶ。
顔を赤らめたアデルを見て、グレアムは口を尖らせる。
「なんだ、それなら、そう言えよな。俺、マジでお前を連れて国外逃亡することを一生懸命考えたんだから。ちなみに誰よ。聞く権利あると思うけど」
「権利って……。内緒にしてくれるなら言ってもいいけど……」
「んなこと、カリムに言ったら、そいつ、抹殺されるわ。言うわけないだろ。運命の番であるお前への自分の気持ちに決着をつけたいだけだから、誰にも言わないから教えて」
グレアムの真剣な瞳を見つめた。アデルも誰かにこの恋について話したかった。
「自分を育ててくれたお兄さん、なんだ。お兄さんっていっても血は繋がってないんだけど」
「そうなんだ。血が繋がってないんだったら大丈夫じゃん。聖マリアンナ学園になんか入学しないで番っちゃえば良かったのに」
「ベータ、なんだ」
「……べータか……番えないけど、結婚はできるんじゃない?」
「僕もそう言ったんだ。『でも、番になれない。番になれないと、フェロモンをばらまき続けて、常に危険な状態になる。ヒートもベータはアルファほど対応できない。俺はアデルと結婚する自信がない。アデルはアルファと結婚して番になって幸せになって欲しい』って言われちゃった。フラれちゃったんだ」
聖マリアンナ学園への入学を決めた日を思い出す。思い切って、エーリクに結婚したいとお願いしたけれど、エーリクを困らせただけだった。エーリクを困らせたくなくて、聖マリアンナ学園行きを決めたのだ。
「……フラれたのかな?」
グレアムが聞き返す。
「え?」
「お前なんか嫌いだよ、結婚なんてしたくないよ、って言われたわけじゃないんだろ? 自信がないと言われただけだろ」
「……嫌いだよとは言われたことない……」
「お前みたいな美人のオメガと結婚するのは、アルファの俺だって平民だから自信がないのに、ベータなら尚の事かもな。そいつの気持ち、俺、分かるような気がする」
「エーリクは僕を好きだったってこと?」
アデルはグレアムに食い気味に迫った。
「そんなこと、わっかんねーよ。……でも、酷な話だけど、その時でも自信なければ、王太子の婚約者になった今では、さらに無理だと思うよ」
グレアムの言葉に冷水を浴びせかけられたようになる。
無言になったアデルをグレアムはしばらく見つめた。そして、そっと頭を撫でた。
「カリムは、そんなに悪いやつじゃないし、子供ができたら可愛いだろうし。王太子妃の仕事もやりがいがあるだろうし。お前は全オメガが憧れる立場になるんだよ。それが、幸せっていうことじゃない?」
世間で言う幸せな結婚を自分はする。玉の輿とみんなは言うだろう。
でも、それが自分の本当にしたいことなのか。
グレアムと再び見つめ合う。
運命の番。エーリクやカリムと出会ってなければ、普通にこの人と番って結婚して、普通に幸せになれたようにも思う。
でも、お互いに別の道を行くことに決めた。
「ありがとう。グレアムも幸せになってね」
「カリムと番になったら、俺がカリムとお前をしっかり護衛してやるから安心して王宮に来い」
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