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アデルの運命
35 カリム王太子との面会日
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アデルが王立病院にお見舞いに行った日からカリムは食事を取り出し、リハビリを始め、1か月で退院した。
アデルとの面会日に間に合わせたのだ。カリムは薔薇の花束持参で聖マリアンナ学園に来た。
王家のリムジンが校門に停まり、カリム王太子が薔薇の花束を持って登場すると、窓から盗み見ていた生徒達は大興奮した。
「あー、素敵よね。アデルがうらやましいわ」
当のアデルは校長室の隣にある応接室の椅子に座って待っていた。会うのはお見舞い以来である。喉に何かが詰まったような重苦しさを感じていた。
廊下にバタバタと大きな足音がした。
ガバっとドアが急に開く。薔薇の花束を抱えたカリムが入ってきた。遅れて校長が中に入ってくる。アデルは立ち上がった。
「アデル! 会いたかった」
急にカリムがハグしてくるのでアデルは驚く。どうしていいか分からず、固まってしまった。ふわっと、いい香がカリムから漂った。
「カリム様、いけません」
慌てた校長が2人を引き離す。校長は男性だが、オメガなので、それほど力がない。しかし、カリムは素直に引き離された。
「そうだね、これ以上くっついていたら、私はラットになりそうだ」
2人向かい合って座る。
カリムがアデルに薔薇の花束を渡す。アデルは有難く受け取った。薔薇の花束はむせ返るような濃い香りがした。
「私が入院中、毎日のお手紙ありがとう。これは、その感謝の気持ちです」
カリムはにっこりと笑う。アデルもつられて微笑み返した。カリムはアデルの笑顔を見て悶絶する。
「なんて、可愛い人なんだろう。私の婚約者は」
カリムがアデルにベタ惚れなのは校長も分かったので、カリムの破天荒な行動も多めに見ることにした。
「月に1回しか面会できないなんて、辛いよね。もっと会えたらいいのに。私の大学でもカップルがいるけれど、一緒に授業を受けたり、デートしたりして楽しそうで羨ましいよ。その時だけは、ベータが羨ましくなるな。……でも、私がベータだったら、オメガのアデルと結婚できないから、やっぱりアルファで良かったかな」
カリムが楽しそうにお喋りを始めた。
「ベータだと、オメガと結婚できないんですか?」
アデルがつい、質問する。
「そうだよね。私がベータでもアデルと結婚したいよ。法律上は可能だろうけど、ベータと結婚するとオメガが可哀想だよね」
「オメガが可哀想?」
「だって、オメガのヒート鎮めてあげられるのは、アルファでしょ。それにオメガは番にしてあげないと、フェロモンをばら撒き続けちゃうから、安心して外出もできないじゃない」
ヒートは抑制剤もあるから大丈夫なように思う。番は、確かにそうかもしれないけど、番にしてあげないと、という言葉が少しひっかかった。
「アデルは私と番になるのだから、何の心配もいらないよ。王太子妃には護衛がつくから、安全面も心配いらないよ」
カリムはアデルの引っ掛かりを気に留めず、にこにこ説明する。
確かに、王太子妃は守られるのだろう。
カリムはずっと上機嫌で話し続けたが、アデルは気が重くなってしまった。
カリムが悪いわけではないのだろうが、カリムとの会話が苦痛になり、時間が過ぎるのがもどかしい位であった。
「カリム様、そろそろお時間です」
校長が声をかけてくれる。
「え、もう?!」
カリムが口をとがらせる。アデルは立ち上がりお辞儀をする。
「カリム様、本日はいらしていただいてありがとうございました。また来月もお待ち申し上げております」
カリムがまたアデルに手を伸ばしたので、校長は制止する。
「カリム様、卒業までハグはいけません。清い交際をお願いします」
カリムが校長に怒る。
「だって、婚約しているんだよ。大聖堂で結婚式を挙げるから、アデルは処女でいなければならないのは知っているけど、ハグ位はいいでしょ」
「手をつなぐことと、キスも手の甲までです」
ちぇ、とカリムは不貞腐れるが、気を取り直し、アデルに両手を出させる。カリムはその手を指をからめて両手でつないだ。そして両方の手を引き寄せて甲にキスを落とす。
キスをする際に確信犯的にカリムは自分のフェロモンをアデルにぶつけた。
アデルの顔は赤らみ、フェロモンが出る。そのフェロモンをカリムは嗅いだ。
「なんて、清純な香だ。今から初夜の床が楽しみだ」
カリムが欲望を隠さずアデルを見る。アデルは恥ずかしくて真っ赤になってしまった。
「カリム様、お戯れを。うちの学生は真面目な子ばかりで、そういう免疫がないのです。お許しを」
校長がカリムとアデルの間に入る。アデルはさっとカリムから離れた。
「野暮だな」
カリムは不満そうに校長を睨んだが、あきらめて退室した。
カリムと校長が出て行って、応接室はアデル1人となり、ほっと一息つく。プレゼントの薔薇の花束を抱え、自室に戻った。花束の濃密な香はカリムのアルファのフェロモンを思わせた。なんだか、ムラムラする香。それを嗅いでいると、体が火照って熱くて服を脱いでしまいたくなるような。そしてお腹がじくじくする。痛いのではないけど切なくて、何か足りないのを補ってほしい気持ちになった。
アデルとの面会日に間に合わせたのだ。カリムは薔薇の花束持参で聖マリアンナ学園に来た。
王家のリムジンが校門に停まり、カリム王太子が薔薇の花束を持って登場すると、窓から盗み見ていた生徒達は大興奮した。
「あー、素敵よね。アデルがうらやましいわ」
当のアデルは校長室の隣にある応接室の椅子に座って待っていた。会うのはお見舞い以来である。喉に何かが詰まったような重苦しさを感じていた。
廊下にバタバタと大きな足音がした。
ガバっとドアが急に開く。薔薇の花束を抱えたカリムが入ってきた。遅れて校長が中に入ってくる。アデルは立ち上がった。
「アデル! 会いたかった」
急にカリムがハグしてくるのでアデルは驚く。どうしていいか分からず、固まってしまった。ふわっと、いい香がカリムから漂った。
「カリム様、いけません」
慌てた校長が2人を引き離す。校長は男性だが、オメガなので、それほど力がない。しかし、カリムは素直に引き離された。
「そうだね、これ以上くっついていたら、私はラットになりそうだ」
2人向かい合って座る。
カリムがアデルに薔薇の花束を渡す。アデルは有難く受け取った。薔薇の花束はむせ返るような濃い香りがした。
「私が入院中、毎日のお手紙ありがとう。これは、その感謝の気持ちです」
カリムはにっこりと笑う。アデルもつられて微笑み返した。カリムはアデルの笑顔を見て悶絶する。
「なんて、可愛い人なんだろう。私の婚約者は」
カリムがアデルにベタ惚れなのは校長も分かったので、カリムの破天荒な行動も多めに見ることにした。
「月に1回しか面会できないなんて、辛いよね。もっと会えたらいいのに。私の大学でもカップルがいるけれど、一緒に授業を受けたり、デートしたりして楽しそうで羨ましいよ。その時だけは、ベータが羨ましくなるな。……でも、私がベータだったら、オメガのアデルと結婚できないから、やっぱりアルファで良かったかな」
カリムが楽しそうにお喋りを始めた。
「ベータだと、オメガと結婚できないんですか?」
アデルがつい、質問する。
「そうだよね。私がベータでもアデルと結婚したいよ。法律上は可能だろうけど、ベータと結婚するとオメガが可哀想だよね」
「オメガが可哀想?」
「だって、オメガのヒート鎮めてあげられるのは、アルファでしょ。それにオメガは番にしてあげないと、フェロモンをばら撒き続けちゃうから、安心して外出もできないじゃない」
ヒートは抑制剤もあるから大丈夫なように思う。番は、確かにそうかもしれないけど、番にしてあげないと、という言葉が少しひっかかった。
「アデルは私と番になるのだから、何の心配もいらないよ。王太子妃には護衛がつくから、安全面も心配いらないよ」
カリムはアデルの引っ掛かりを気に留めず、にこにこ説明する。
確かに、王太子妃は守られるのだろう。
カリムはずっと上機嫌で話し続けたが、アデルは気が重くなってしまった。
カリムが悪いわけではないのだろうが、カリムとの会話が苦痛になり、時間が過ぎるのがもどかしい位であった。
「カリム様、そろそろお時間です」
校長が声をかけてくれる。
「え、もう?!」
カリムが口をとがらせる。アデルは立ち上がりお辞儀をする。
「カリム様、本日はいらしていただいてありがとうございました。また来月もお待ち申し上げております」
カリムがまたアデルに手を伸ばしたので、校長は制止する。
「カリム様、卒業までハグはいけません。清い交際をお願いします」
カリムが校長に怒る。
「だって、婚約しているんだよ。大聖堂で結婚式を挙げるから、アデルは処女でいなければならないのは知っているけど、ハグ位はいいでしょ」
「手をつなぐことと、キスも手の甲までです」
ちぇ、とカリムは不貞腐れるが、気を取り直し、アデルに両手を出させる。カリムはその手を指をからめて両手でつないだ。そして両方の手を引き寄せて甲にキスを落とす。
キスをする際に確信犯的にカリムは自分のフェロモンをアデルにぶつけた。
アデルの顔は赤らみ、フェロモンが出る。そのフェロモンをカリムは嗅いだ。
「なんて、清純な香だ。今から初夜の床が楽しみだ」
カリムが欲望を隠さずアデルを見る。アデルは恥ずかしくて真っ赤になってしまった。
「カリム様、お戯れを。うちの学生は真面目な子ばかりで、そういう免疫がないのです。お許しを」
校長がカリムとアデルの間に入る。アデルはさっとカリムから離れた。
「野暮だな」
カリムは不満そうに校長を睨んだが、あきらめて退室した。
カリムと校長が出て行って、応接室はアデル1人となり、ほっと一息つく。プレゼントの薔薇の花束を抱え、自室に戻った。花束の濃密な香はカリムのアルファのフェロモンを思わせた。なんだか、ムラムラする香。それを嗅いでいると、体が火照って熱くて服を脱いでしまいたくなるような。そしてお腹がじくじくする。痛いのではないけど切なくて、何か足りないのを補ってほしい気持ちになった。
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