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アストラシティ
27 王とお見合い
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少し休憩していると、ドアに大き目のノック音がした。ぐったりとしていたが、またきちんと体勢を立て直す。
校長が王様を連れてやってきた。
サルート王は巨漢であった。胸板は厚く、四肢は太くたくましかった。褐色の髪はふさふさとしており、とび色の瞳は生き生きと輝いていた。王様の威厳もあったが、若々しさもあった。二回り以上も年上の40歳だが、生気に満ち溢れており、おじさんという感じはしなかった。また、サルート王もいい香がした。
アデルは立ち上がり深々とお辞儀する。
校長はお見合いを仕切り始めた。
「サルート王、こちらがアデルと申します12歳のオメガ男性です。先日ヒートを迎えました」
アデルが顔を上げる。サルート王と目が合う。王の瞳はきらきらといたずらっ子のように輝いた。
「アデル、こちらがサルート王だ」
「アデルと申します。よろしくお願いいたします」
アデルは頭をまた下げた。
2人は椅子に座った。
サルート王はアデルを見てふふっと笑う。
「これは美しい。うちのカリムがお前の写真を見てのぼせていたのも分かるな。シルフの一族の末裔という噂も信ぴょう性があるな」
アデルは何と答えていいのか分からず、校長を見る。戸惑っているアデルを見て、サルート王は話し出す。
「アデルにはカリムとの結婚を断って欲しいのだ」
校長とアリサ先生に緊張が走る。
「それは、どういった事でしょう」
校長がおずおずと質問する。サルート王は事情を話し出した。
「アデルには気を悪くしないでほしいのだが……」
一呼吸おいて、サルート王はアデルを見つめた。アデルがそれほど傷ついていないのを見て、安心して語り出した。
「私の1番目の妻、マリア王妃はオメガ女性なのだが、一応貴族の出なんだ」
校長はうんうんと頷く。
「存じ上げております。我が学園の優秀な卒業生です。ブルボン家の一流の血筋でいらっしゃいました。在学中は生徒会長も勤められました」
サルート王は、ふうとため息をついて続ける。
「マリアは自分の可愛いカリム王子の妃には、やはり貴族の娘がいいと考えているんだ。ユリヤというイーストン家の娘が王家にゆかりもあり、血筋的に気に入っているんだ」
ユリヤが自分が王太子妃にほぼ決まっていると言っていたのは本当だったんだとアデルは思った。
「カリムもマリアの希望に従うつもりだったのだが、アデル、お前を見てしまった」
聖マリアンナ学園はオメガしか敷地内に入れない。しかし、年2回の合唱会と演奏会は例外で、その時に優秀なアルファは招待された。それは、公式のオメガの品定めだった。アデルは仲間外れだったので、端っこの目立たない所に立って、小さな声で歌ったり、小さな音で演奏したり、とにかく目立たないようにしていたつもりだったが。
「お前の美しさは、アルファ中の話題になった。お前は平民だったので、貴族でないアルファまでお前を目当てにするようになった。カリムは恋の病に落ちてしまい、お前を目当てにしたアルファ達を牽制し出した。カリムがお前を結婚相手に選んだと噂を流させた。その噂は半ば公然の秘密のようになって、他のアルファ達はお前の事をあきらめた。王位継承権1位のカリムに勝てるアルファはいない。アルファ達の中では、お前とカリムの結婚はほぼ決まったような物なんだよ」
アデルは呆然とする。そこまで王太子に望まれたら、平民のアデルに拒否権はないだろう。
「マリアは説得したが、カリムはお前との結婚をあきらめなかったんだ。マリアを無視して、お前とのお見合いを申し込んでしまった。仕方なくマリアは私に泣きついたのさ。私もアデルとお見合いしてほしいと。カリムに望まれれば、お前は結婚を承諾するしかないが、唯一、私と結婚するのであれば、カリムとのことを断れる」
なるほど、カリムより身分が上なのはサルート王のみだ。
「でも、王妃様は自分以外のオメガが王様と番うのは嫌なんじゃないですか?」
アデルはもう一度確認する。
ふむ、とサルート王は頷く。
「普通のオメガならそうだろう。でも、マリアは、オメガの前に王妃なんだ。私の事も大事にしてくれているが、それは私が王だからなんだ。それに、自分以外の3人の妻を持つように勧めたのは、マリアなんだ。それぞれ、政治的に、経済的に、産業の発展のためにアストラ国に必要な女性ばかりだった。マリアは決して嫉妬せず、3人の妻とも上手くやっている。お前との結婚もマリアに頼まれたことだから、マリアは怒らないよ。むしろ、カリムと結婚した方が怒るかも」
アルファとオメガの番にも色々あるんだと、アデルは驚いた。
サルート王は艶やかな笑みをこぼす。
「マリアに頼まれて、お見合いをしたが、これは思わぬ拾い物だ。こんな美しいオメガと結婚できるなんて、私も気持ちが若返るな。マリアのヒートだけは付き合わなければいけないけれど、それ以外はアデルを優先していいとマリアに言われている。カリムに跡継ぎのアルファが産まれて、カリムが王位を継ぐまでは、お前との間に子供を作ることは禁じられているが、お前はまだ12歳で、焦る年齢ではないから問題ないな。子供を早く欲しいと思うか?」
「……僕はまだ、子供のことは何にも考えてません」
「カリムに王位を譲って隠居したら、お前が欲しければ子供を作れる。いらなければ2人でずっと過ごせば良い」
サルート王の褐色の瞳が優しくアデルを見つめた。アデルは自分の父である、今は亡きユーラシア国王も、こんな人だったのではないかと、サルート王に親しみを感じた。
「私に他に妻が4人いることに抵抗があるとは思うが、カリムだって、王位についたらお前以外の妻を持つ。私はお前と結婚したら、もう妻は持たないよ」
サルート王はアデルに最後にそう言って、お見合いを終了した。
校長がサルート王とともに連れだって部屋を出た。
アリサ先生が冷たい水をまた持ってきてくれた。アデルは唾を飲み込みすぎて、口の中がカラカラだったので有難くいただいた。
アリサ先生はアデルが話し出すのを待っていたが、アデルは何を言っていいか分からなかった。
エーリク……。
「先生、僕、部屋に帰って、ゆっくり考えてみていいですか?」
アリサ先生は大きく頷く。
「もちろんよ。今日は疲れたでしょ。ゆっくり休んで。また明日、お話しましょ」
アリサ先生は、アデルを部屋まで送ってくれた。アリサ先生が立ち去る足音が小さくなるのを待つ。本体はベッドに横たわり、分身が抜けだした。
校長が王様を連れてやってきた。
サルート王は巨漢であった。胸板は厚く、四肢は太くたくましかった。褐色の髪はふさふさとしており、とび色の瞳は生き生きと輝いていた。王様の威厳もあったが、若々しさもあった。二回り以上も年上の40歳だが、生気に満ち溢れており、おじさんという感じはしなかった。また、サルート王もいい香がした。
アデルは立ち上がり深々とお辞儀する。
校長はお見合いを仕切り始めた。
「サルート王、こちらがアデルと申します12歳のオメガ男性です。先日ヒートを迎えました」
アデルが顔を上げる。サルート王と目が合う。王の瞳はきらきらといたずらっ子のように輝いた。
「アデル、こちらがサルート王だ」
「アデルと申します。よろしくお願いいたします」
アデルは頭をまた下げた。
2人は椅子に座った。
サルート王はアデルを見てふふっと笑う。
「これは美しい。うちのカリムがお前の写真を見てのぼせていたのも分かるな。シルフの一族の末裔という噂も信ぴょう性があるな」
アデルは何と答えていいのか分からず、校長を見る。戸惑っているアデルを見て、サルート王は話し出す。
「アデルにはカリムとの結婚を断って欲しいのだ」
校長とアリサ先生に緊張が走る。
「それは、どういった事でしょう」
校長がおずおずと質問する。サルート王は事情を話し出した。
「アデルには気を悪くしないでほしいのだが……」
一呼吸おいて、サルート王はアデルを見つめた。アデルがそれほど傷ついていないのを見て、安心して語り出した。
「私の1番目の妻、マリア王妃はオメガ女性なのだが、一応貴族の出なんだ」
校長はうんうんと頷く。
「存じ上げております。我が学園の優秀な卒業生です。ブルボン家の一流の血筋でいらっしゃいました。在学中は生徒会長も勤められました」
サルート王は、ふうとため息をついて続ける。
「マリアは自分の可愛いカリム王子の妃には、やはり貴族の娘がいいと考えているんだ。ユリヤというイーストン家の娘が王家にゆかりもあり、血筋的に気に入っているんだ」
ユリヤが自分が王太子妃にほぼ決まっていると言っていたのは本当だったんだとアデルは思った。
「カリムもマリアの希望に従うつもりだったのだが、アデル、お前を見てしまった」
聖マリアンナ学園はオメガしか敷地内に入れない。しかし、年2回の合唱会と演奏会は例外で、その時に優秀なアルファは招待された。それは、公式のオメガの品定めだった。アデルは仲間外れだったので、端っこの目立たない所に立って、小さな声で歌ったり、小さな音で演奏したり、とにかく目立たないようにしていたつもりだったが。
「お前の美しさは、アルファ中の話題になった。お前は平民だったので、貴族でないアルファまでお前を目当てにするようになった。カリムは恋の病に落ちてしまい、お前を目当てにしたアルファ達を牽制し出した。カリムがお前を結婚相手に選んだと噂を流させた。その噂は半ば公然の秘密のようになって、他のアルファ達はお前の事をあきらめた。王位継承権1位のカリムに勝てるアルファはいない。アルファ達の中では、お前とカリムの結婚はほぼ決まったような物なんだよ」
アデルは呆然とする。そこまで王太子に望まれたら、平民のアデルに拒否権はないだろう。
「マリアは説得したが、カリムはお前との結婚をあきらめなかったんだ。マリアを無視して、お前とのお見合いを申し込んでしまった。仕方なくマリアは私に泣きついたのさ。私もアデルとお見合いしてほしいと。カリムに望まれれば、お前は結婚を承諾するしかないが、唯一、私と結婚するのであれば、カリムとのことを断れる」
なるほど、カリムより身分が上なのはサルート王のみだ。
「でも、王妃様は自分以外のオメガが王様と番うのは嫌なんじゃないですか?」
アデルはもう一度確認する。
ふむ、とサルート王は頷く。
「普通のオメガならそうだろう。でも、マリアは、オメガの前に王妃なんだ。私の事も大事にしてくれているが、それは私が王だからなんだ。それに、自分以外の3人の妻を持つように勧めたのは、マリアなんだ。それぞれ、政治的に、経済的に、産業の発展のためにアストラ国に必要な女性ばかりだった。マリアは決して嫉妬せず、3人の妻とも上手くやっている。お前との結婚もマリアに頼まれたことだから、マリアは怒らないよ。むしろ、カリムと結婚した方が怒るかも」
アルファとオメガの番にも色々あるんだと、アデルは驚いた。
サルート王は艶やかな笑みをこぼす。
「マリアに頼まれて、お見合いをしたが、これは思わぬ拾い物だ。こんな美しいオメガと結婚できるなんて、私も気持ちが若返るな。マリアのヒートだけは付き合わなければいけないけれど、それ以外はアデルを優先していいとマリアに言われている。カリムに跡継ぎのアルファが産まれて、カリムが王位を継ぐまでは、お前との間に子供を作ることは禁じられているが、お前はまだ12歳で、焦る年齢ではないから問題ないな。子供を早く欲しいと思うか?」
「……僕はまだ、子供のことは何にも考えてません」
「カリムに王位を譲って隠居したら、お前が欲しければ子供を作れる。いらなければ2人でずっと過ごせば良い」
サルート王の褐色の瞳が優しくアデルを見つめた。アデルは自分の父である、今は亡きユーラシア国王も、こんな人だったのではないかと、サルート王に親しみを感じた。
「私に他に妻が4人いることに抵抗があるとは思うが、カリムだって、王位についたらお前以外の妻を持つ。私はお前と結婚したら、もう妻は持たないよ」
サルート王はアデルに最後にそう言って、お見合いを終了した。
校長がサルート王とともに連れだって部屋を出た。
アリサ先生が冷たい水をまた持ってきてくれた。アデルは唾を飲み込みすぎて、口の中がカラカラだったので有難くいただいた。
アリサ先生はアデルが話し出すのを待っていたが、アデルは何を言っていいか分からなかった。
エーリク……。
「先生、僕、部屋に帰って、ゆっくり考えてみていいですか?」
アリサ先生は大きく頷く。
「もちろんよ。今日は疲れたでしょ。ゆっくり休んで。また明日、お話しましょ」
アリサ先生は、アデルを部屋まで送ってくれた。アリサ先生が立ち去る足音が小さくなるのを待つ。本体はベッドに横たわり、分身が抜けだした。
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