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 ピンポーン
 玄関のベルが鳴る。約束した午後1時きっかり。柊里が玄関に行き優斗を迎えた。優斗はスーツ姿だった。
(カッコいい)
 蓮の胸は早鐘のように高鳴った。一瞬の出会いだったので姿形がおぼろげになっていたが、顔もスタイルも自分の好みのど真ん中であることを再確認した。優斗は少し顔が強張っていた。
(どうしよう。僕を見て後悔しているのかな)
 お土産のチーズケーキを受け取りキッチンに行ってお皿に取り分けた。優斗と向き合うのが怖くなり、キッチンでぐずぐずと丁寧に紅茶も入れた。
 柊里が優斗にソファーを勧め、2人座った所に蓮はケーキと紅茶を運んだ。緊張で手が震え、トレイがかたかた鳴った。なんとか零すことなく運び終え、柊里の隣に蓮は座った。
 蓮は不安で顔を上げられず、向かいに座る優斗の顔を見ることができなかった。
 優斗は立ち上がり柊里と蓮に深々とお辞儀した。
「私は息子さんの蓮君が好きです。運命の番だと思ってます」
 蓮の体にびりびりと優斗の言葉が染み込み、蓮は顔を上げて縋るような思いで優斗を見つめた。
「伊集院美月さんとはお別れしました。蓮君とのお付き合い許して下さい」
 優斗はまた頭を下げる。
 柊里は紅茶を一口飲む。
「美月さんから条件が出たんだよね」
 優斗は頭を上げ言葉を続ける。
「まず、私が美月さんに振られたことにして欲しいと。そして、蓮君と出会うのは美月さんとお別れしてからということにして欲しいと。また蓮君と付き合うのは美月さんに恋人ができてからにして欲しいと」
「美月さんの立場からしたら当然だよね」
 柊里は冷ややかに言う。
「蓮は? どうしたいの?」
 突然、話を振られて蓮は慌てる。
 優斗を見ると、優斗は蓮を真剣に見つめていた。
ーーお願い。俺を信じて。
 優斗の声が聞こえたように思った。スーッと平常心になる。
「僕も沢渡さんが好きです。美月さんには幸せになってほしいから素敵な恋人ができたらいいなって思うし。美月さんが幸せになったら、僕も沢渡さんと付き合いたいです」
 優斗が嬉しそうな顔をしたのを見てほっとした。
「ま、沢渡君、座んなよ」
 柊里がくだけた口調で言う。優斗が座る。
「美月さんと別れたんなら、蓮と付き合うのは俺はかまわないよ。若いんだから美月さんが恋人ができるまでお預けっていうのもね。そうだ、沢渡君、バイトしない? 次回作、沢渡君みたいなアルファのT大生を主役にしよっかな。小説のモデルにするための取材ってことで毎週日曜午後1時から5時までの4時間うちにおいでよ。最初の1時間は3人でお昼でも食べて取材させてもらうよ。残りの3時間は蓮の部屋で2人で過ごすといい。日曜は家政婦さんお休みだし、木原さんとの打ち合わせも当面この時間帯に入れないようにするから。うちに毎週バイトに来ているうちに蓮と知り合ったということにしよう」
 柊里はずるい顔をして笑った。
「美月さんの体面があるから、外のデートは禁止。あと番になるのも禁止ね」
(お父さんは僕たちの付き合い、反対してないんだ)
 蓮は安心して幸せな気持ちになる。優斗も緊張していた顔が緩んでほっとしたようだ。
「ところで沢渡君、T大3年だよね。卒業したらどうするの? もう伊集社の就職はなしでしょ。おうちの人は美月さんと結婚しないことになってショック受けてないの?」
「実家は北海道で漁業をしております。父も母もベータで私だけアルファで。ベータの弟が跡を継いで漁師をしてくれてます。親は伊集院家のような家と自分達が釣り合わないのではと考えていたので、美月さんに振られたと言ったら『やっぱりね』とむしろ安心した感じでした。T大に入学して工学部の友人ができて、彼がプログラミングの天才で手ほどきを受けているうちにすっかり嵌ってしまいました。彼は最近、IT系のベンチャー企業したので誘われたんですけど、伊集社に就職する予定になったので断ってたんです。でも、伊集社の就職なくなったのでそちらで働こうと思ってます。私はあまり読書しないので出版社は向いていなかったと思います」
 柊里は笑う。
「そうだよね。俺の作品も読んでないでしょ」
「すみません」
「蓮と結婚するなら稼いでもらわないとね。蓮はお嬢様に育ててるから」
「はい、頑張ります」
 優斗が勢いよく言うので蓮は恥ずかしくなってしまった。
 1時間3人で居間でお話して、柊里は「じゃ、時間だから、2人は蓮の部屋に行ったら。俺は自室で仕事してるから」と行ってしまった。
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