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ピンポーン
玄関のベルが鳴る。柊里は確認して鍵をはずす。
伊集院美月が来た。美月は華やかなオーラを放ちながらそこにいた。
仕立てのいいグレーのスーツに白いブラウス。首にはシンプルな一粒ダイヤのネックレス。清楚なスタイルなのにアルファならではの迫力に満ちていた。
蓮は淡いブルーのシャツに紺のズボンを穿いていた。髪は少し伸びていたが床屋に行く暇もなかった。高校を卒業してずっと在宅で仕事をしてたので服を買い足しておらず、手持ちの中で比較的マシと思われる格好をしたのだが、高校生のようである。
美月とは幼い頃に会ったことがあるそうだが、蓮は覚えていなかった。
「こんにちは。本日は無理言いまして申し訳ございません」
「いえ、どうぞ」
柊里が美月を居間に連れてくる。蓮は居間のソファーに座っていたが、堪りかねて立ち上がった。
ガチャ
居間のドアが開く。美月と蓮の目が合った。
(なんだろう。この感じ)
美月は蓮を見つめた。蓮は同い年と思えないような華奢な男の子だった。オメガ特有の愛くるしい小動物のような顔をしていた。優斗を誑かす位だから小悪魔のような色気を持っているオメガを想像していたが違った。頭を撫ぜたくなるような保護心をくすぐるような外見だった。
蓮は美月を見つめた。美月はハリウッド女優のような美しさだった。自信が内面から溢れている。服従したくなるようなアルファのオーラを放っていた。胸は大きくウェストは引き締まり、シンプルなスーツが返ってスタイルの良さや美しさを引き立てていた。
2人はお互いに無言で見つめあった。柊里は心配そうに2人を見守った。
「2人とも座ったら?」と立ち尽くす2人に声をかけ、お茶を取りにキッチンへ行った。
「私は伊集院美月と申します。今日は突然こんな不躾なお願いしてすみませんでした。会っていただいてありがとうございます」
美月は挨拶して蓮をじっと見つめる。
「桐生蓮です。初めまして」
喉がカラカラで掠れた声で蓮は挨拶した。そして2人は見つめ合い、また黙り込む。
柊里が冷たい麦茶を持ってきて2人の前に置く。
「どうぞ」
蓮が真っ青なのに気付き「飲んだら?」と声を掛ける。蓮は冷たい麦茶を口に含む。水分が体に滲み渡り少し元気が出てきた。
美月を眺める。綺麗で素敵な人だ。優斗が好きになったのも分かる。不思議と嫉妬心なく、すんなりと納得いく。もし、優斗のことが無かったら、蓮もそばに近寄りたくなる。ずっと眺めていたい。キラキラしていて目が離せない。
ふぁっとした感覚が蓮の心を包む。優斗に感じた電気のような運命ではなく、ほわほわとした陽だまりの中にいるような温かいものを美月から感じる。
(一緒にいたら心地いい。別れたら寂しい。不思議な感覚)
「この感覚、何なのかしら?」
美月が呟き、ほわほわしていた蓮ははっとする。
「私、優斗に別れたいって言われて。優斗とはアルファ同士だったけど、お互いのことをすごく共感できて運命のように感じてたの。そんなの感じたことなかったから、本当の恋だと思ってた。そうしたら優斗に運命の番と会ったと言われて。そんなはずないと思ったわ。どんなオメガのビッチかと思って今日会いに来たのよ。でも、私、あなたにも何か感じるの。優斗と会っていなかったら、あなたが運命の人なのかと思う感じ。厳密に言うと優斗とは違うかな。恋愛というより、もう少し穏やかな感情」
蓮は美月の言いたいことが分かった。
「ごめんなさい。嫌かもしれないけど僕も伊集院さんを大切にしたい人だと思います。沢渡さんに会っていなかったら伊集院さんが運命の番と勘違いしそうになる感覚です。でも、僕も伊集院さんに恋愛感情はないです。伊集院さんを大事に包んで宝物にしたい気分です。こんな気持ち初めてです」
美月は辛そうな顔をした。
「あなたがビッチだったらどんなに良かったか。私のアルファオーラで徹底的に叩きのめしてやろうと思ったのに。でも、あなたに会って優斗があなたを選んだ理由が分かってしまった。私と優斗は似たもの同士だけど、あなたは違って、私や優斗の欠けている所を優しく埋めてくれる存在なのね」
美月はソファーから立った。
「桐生先生、今日は突然訪問してすみませんでした。私、帰ります」
「タクシー呼びますか?」
「お願いします」
短い訪問だったが美月は帰った。柊里は何も言わなかった。蓮も何も言えなかった。
2人とも自室に戻り仕事を始めた。
蓮は優斗と別の意味で美月が好きだと思った。優斗とはくっつきたいし、美月は昔くっついていたけど別れ別れになってしまって懐かしい感じ。美月とは前世で運命の番だったのかもしれない。
柊里は静に電話し報告した。
「修羅場も覚悟していたのですが、2人とも何故かお互いに認め合ってしまいました」
「分かりました。私達は親子二代、好きな人を運命の番に取られちゃうのね。美月は強い子だから大丈夫とは思うけど私が注意するようにします。蓮は運命の番であれば問題ないかと思うけど、オメガは1人のアルファとしか番えないから、間違いがないように柊里が見守ってあげてね」
「分かりました」
玄関のベルが鳴る。柊里は確認して鍵をはずす。
伊集院美月が来た。美月は華やかなオーラを放ちながらそこにいた。
仕立てのいいグレーのスーツに白いブラウス。首にはシンプルな一粒ダイヤのネックレス。清楚なスタイルなのにアルファならではの迫力に満ちていた。
蓮は淡いブルーのシャツに紺のズボンを穿いていた。髪は少し伸びていたが床屋に行く暇もなかった。高校を卒業してずっと在宅で仕事をしてたので服を買い足しておらず、手持ちの中で比較的マシと思われる格好をしたのだが、高校生のようである。
美月とは幼い頃に会ったことがあるそうだが、蓮は覚えていなかった。
「こんにちは。本日は無理言いまして申し訳ございません」
「いえ、どうぞ」
柊里が美月を居間に連れてくる。蓮は居間のソファーに座っていたが、堪りかねて立ち上がった。
ガチャ
居間のドアが開く。美月と蓮の目が合った。
(なんだろう。この感じ)
美月は蓮を見つめた。蓮は同い年と思えないような華奢な男の子だった。オメガ特有の愛くるしい小動物のような顔をしていた。優斗を誑かす位だから小悪魔のような色気を持っているオメガを想像していたが違った。頭を撫ぜたくなるような保護心をくすぐるような外見だった。
蓮は美月を見つめた。美月はハリウッド女優のような美しさだった。自信が内面から溢れている。服従したくなるようなアルファのオーラを放っていた。胸は大きくウェストは引き締まり、シンプルなスーツが返ってスタイルの良さや美しさを引き立てていた。
2人はお互いに無言で見つめあった。柊里は心配そうに2人を見守った。
「2人とも座ったら?」と立ち尽くす2人に声をかけ、お茶を取りにキッチンへ行った。
「私は伊集院美月と申します。今日は突然こんな不躾なお願いしてすみませんでした。会っていただいてありがとうございます」
美月は挨拶して蓮をじっと見つめる。
「桐生蓮です。初めまして」
喉がカラカラで掠れた声で蓮は挨拶した。そして2人は見つめ合い、また黙り込む。
柊里が冷たい麦茶を持ってきて2人の前に置く。
「どうぞ」
蓮が真っ青なのに気付き「飲んだら?」と声を掛ける。蓮は冷たい麦茶を口に含む。水分が体に滲み渡り少し元気が出てきた。
美月を眺める。綺麗で素敵な人だ。優斗が好きになったのも分かる。不思議と嫉妬心なく、すんなりと納得いく。もし、優斗のことが無かったら、蓮もそばに近寄りたくなる。ずっと眺めていたい。キラキラしていて目が離せない。
ふぁっとした感覚が蓮の心を包む。優斗に感じた電気のような運命ではなく、ほわほわとした陽だまりの中にいるような温かいものを美月から感じる。
(一緒にいたら心地いい。別れたら寂しい。不思議な感覚)
「この感覚、何なのかしら?」
美月が呟き、ほわほわしていた蓮ははっとする。
「私、優斗に別れたいって言われて。優斗とはアルファ同士だったけど、お互いのことをすごく共感できて運命のように感じてたの。そんなの感じたことなかったから、本当の恋だと思ってた。そうしたら優斗に運命の番と会ったと言われて。そんなはずないと思ったわ。どんなオメガのビッチかと思って今日会いに来たのよ。でも、私、あなたにも何か感じるの。優斗と会っていなかったら、あなたが運命の人なのかと思う感じ。厳密に言うと優斗とは違うかな。恋愛というより、もう少し穏やかな感情」
蓮は美月の言いたいことが分かった。
「ごめんなさい。嫌かもしれないけど僕も伊集院さんを大切にしたい人だと思います。沢渡さんに会っていなかったら伊集院さんが運命の番と勘違いしそうになる感覚です。でも、僕も伊集院さんに恋愛感情はないです。伊集院さんを大事に包んで宝物にしたい気分です。こんな気持ち初めてです」
美月は辛そうな顔をした。
「あなたがビッチだったらどんなに良かったか。私のアルファオーラで徹底的に叩きのめしてやろうと思ったのに。でも、あなたに会って優斗があなたを選んだ理由が分かってしまった。私と優斗は似たもの同士だけど、あなたは違って、私や優斗の欠けている所を優しく埋めてくれる存在なのね」
美月はソファーから立った。
「桐生先生、今日は突然訪問してすみませんでした。私、帰ります」
「タクシー呼びますか?」
「お願いします」
短い訪問だったが美月は帰った。柊里は何も言わなかった。蓮も何も言えなかった。
2人とも自室に戻り仕事を始めた。
蓮は優斗と別の意味で美月が好きだと思った。優斗とはくっつきたいし、美月は昔くっついていたけど別れ別れになってしまって懐かしい感じ。美月とは前世で運命の番だったのかもしれない。
柊里は静に電話し報告した。
「修羅場も覚悟していたのですが、2人とも何故かお互いに認め合ってしまいました」
「分かりました。私達は親子二代、好きな人を運命の番に取られちゃうのね。美月は強い子だから大丈夫とは思うけど私が注意するようにします。蓮は運命の番であれば問題ないかと思うけど、オメガは1人のアルファとしか番えないから、間違いがないように柊里が見守ってあげてね」
「分かりました」
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