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 蓮は高階総合病院を退院して自宅に戻った。主治医の一条綾先生は体調に変化があったら早めに受診するようにと言った。
 一条綾先生は旧姓高階綾といい、高階総合病院前院長の娘だ。腹違いのアルファの兄が現院長である。一条綾先生は番のオメガとの娘、現院長の兄は正妻のアルファとの息子である。
 一条綾先生はオメガで桜華学園の卒業生である。一条製薬のアルファの息子と結婚して番になってから医学部に入学して医師になった。
 番のいないフリーのオメガだと予期せぬヒートで知らないアルファに襲われる危険があるが、番がいればフェロモンは番にしか効かないので安全である。
 オメガは学業を続けるのが難しく医師は少ない。オメガが通院するバース科はアルファの医師が担当できないのでベータ女性かオメガが担当する。オメガの患者の気持ちに寄り添えるオメガの医師は人気が高い。
 一条綾先生は桜華学園の学校医も勤めている。ヒートさえコントロールできればオメガだって社会進出できると抑制剤について専門的に研究している。蓮たち桜華学園の生徒は一条綾先生の診察で自分に合う抑制剤を処方されている。中1から診察してもらっているのでヒートになる前からの付き合いだ。
 運命の番に出会えた矢先に失恋決定で落ち込んでいる蓮を心配してくれている。精神状態が不安定だとヒートの周期やフェロモンの出方に影響が出るらしい。

 蓮は自宅に戻ると仕事を始めた。絵を描いていると無心になってきた。趣味が高じて仕事にもできる自分は幸運だと思う。父の柊里が自分の作品のコミカライズの権利を全て蓮にくれたのも幸運だ。
 オメガに生まれた自分を大切にしてくれる父。オメガのみが入学できる全寮制の中高一貫桜華学園に入れてくれた。入学金や授業料も高額なため、いい所の子供ばかりで蓮のようなベータ家庭の子は珍しかった。柊里はベータだけど有名な作家で高収入だから入学できたのだろう。
 オメガしかいないので安心して学生生活を楽しめた。いつ最初のヒートを起こすかわからないし、3か月周期にきちんとなるまで不規則にヒートを起こしたりする不安定な中高生の体。普通の社会だったら不意のヒートにびくつかなければならないのに桜華学園はオメガのみだから安心だ。
 突発的にヒートを起こしても「○○ちゃん、ヒート起こしました」と保健委員が保健室に連れて行ってくれる。保健室はいつも看護師さんがいて抑制剤を飲ませて休ませてくれた。一条綾先生も学校医として定期的に診察し、きちんとカルテも作ってくれて、それぞれに合う抑制剤の処方してくれた。

 絵を描くのが好きで得意だったので小学生までは絵画教室に通っていた。美大受験するような子ばかりが通ってる本格的な所で蓮も美大に行こうと思ってた。
 桜華学園に入学して、漫画家として商業デビューしているあず先輩に出会った。勧誘されて美術部ではなく漫画研究会に入った。柊里の作品の二次創作の存在を知り、桜華学園の漫研の内部で勝手に活動している非公認の同人サークルCherry flowerでBLのイラストを描き始めた。男性を好きな蓮の存在が認められる世界だった。
 柊里の作品の二次創作で有名な海苔巻先生の小説が好きだった。フォローしてファンアートを描いたら、フォロバしてもらえて嬉しかった。
 その海苔巻先生が柊里の担当の木原真希だったとは。
 嬉しくて盛り上がっていたら、真希が蓮のイラストを仕事に繋げてくれた。
 オメガなのに本当についている。これ以上望んだらばちが当たる。
 涙がポタっと机に落ちた。蓮の両目から涙が流れていた。柊里に気付かれないよう声も出さずにひたすら涙を流した。
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