17 / 43
それぞれの10年間
17 林 雅司
しおりを挟む
雅司の勤めている法律事務所の所長の娘が司法試験に合格したらしい。所長は機嫌良く、みんなに自慢した。娘はベータで所長の母校である私立C大法科大学院生であった。娘は司法修習後、この事務所に入る予定なのでよろしくね、と言った。
雅司はRYOの証人保護プログラムの手伝いをしてから官房長官と知り合いになり、政府の案件も声がかかるようになり仕事の幅が増えた。母も弟も夫のアルファに守られて平和に暮らしているので自分はオメガ専門にならなくてもいいのかもしれないと進路の変更を考えていた。
優秀な弁護士である雅司にはお見合いの声もあったがあまり乗り気になれなかった。
誘われて婚活パーティに出てみたが、どのオメガもフェロモンが妙に鼻についた。
(りょういち以外のオメガは無理だ。それならフェロモンのないベータの方がマシだ)
休日には怜太の所に遊びに行くのが唯一の憩いだった。甥の生馬の次に生まれたのは、姪の愛梨であった。愛梨は怜太に似て驚くほど美少女だった。父の拓哉と兄の生馬が奪い合うように溺愛していた。雅司も抱っこさせてもらったが、人形のように可愛らしすぎて壊してしまうのではないかと怖くなった。乱暴に飛びつく生馬の方が安心して抱っこできた。
怜太は子ども食堂を立ち上げ、地域の子供を救う社会活動も行っていた。商店街の食料品店や飲食店と提携しており、余った食材を寄付してもらう。余った食材を美味しいご飯に作り直すのが怜太の手腕だ。
「きちんと材料揃えて作ると、リュカには全然かなわないんだ。料理人になっても、三流にしかなれないと思う。でも、この余った食材で子供達に美味しいって言わせてみようって思うと、ゲームみたいで色々思いつくんだ」
怜太は結婚してから、どんどん輝いている。夫はアルファだが、夫の家族が全員ベータなので、他のアルファとオメガのカップルのように囲い込まれず、自由に活動している。子ども食堂には、必要としている子ども達も勿論いるが、近所の若いママ達も子どもを連れてやってきてサロンのようになっていた。子ども食堂では子ども達はみんな仲良く遊び、ママ達はお喋りを楽しみながら、ご飯作りを手伝ってくれる。孤立しがちな育児中の母子の憩いの場所にもなっている。怜太は地域社会に貢献していた。
弱いオメガを守ってあげる、という発想がアルファである自分の驕りだったのかもしれない。今の怜太には、むしろ自分の方が精神的に寄りかかっている。同じアルファの配偶者の拓哉は怜太を囲い込んで閉じ込めたい欲求はあるだろうが、ベータの拓哉の家族が緩衝材になっている。現在の怜太は番になっているのでフェロモンを巻き散らかすことなく、ベータと変わりない。ベータと積極的に関わり合って日常生活を楽しんでいる。アルファの中にいると能力が低いと思われていた怜太だが、ベータと並ぶと知能面では平均的で、美貌は段違いに優れている。ベータ社会ではオピニオンリーダーになれている。
今の怜太はむしろ雅司を心配している。1人ぼっちになってしまった雅司を。
(ダメな兄さんだよな)
怜太に心配させないように私生活もきちんとしなければ、と根が真面目な雅司は思った。
雅司はRYOの証人保護プログラムの手伝いをしてから官房長官と知り合いになり、政府の案件も声がかかるようになり仕事の幅が増えた。母も弟も夫のアルファに守られて平和に暮らしているので自分はオメガ専門にならなくてもいいのかもしれないと進路の変更を考えていた。
優秀な弁護士である雅司にはお見合いの声もあったがあまり乗り気になれなかった。
誘われて婚活パーティに出てみたが、どのオメガもフェロモンが妙に鼻についた。
(りょういち以外のオメガは無理だ。それならフェロモンのないベータの方がマシだ)
休日には怜太の所に遊びに行くのが唯一の憩いだった。甥の生馬の次に生まれたのは、姪の愛梨であった。愛梨は怜太に似て驚くほど美少女だった。父の拓哉と兄の生馬が奪い合うように溺愛していた。雅司も抱っこさせてもらったが、人形のように可愛らしすぎて壊してしまうのではないかと怖くなった。乱暴に飛びつく生馬の方が安心して抱っこできた。
怜太は子ども食堂を立ち上げ、地域の子供を救う社会活動も行っていた。商店街の食料品店や飲食店と提携しており、余った食材を寄付してもらう。余った食材を美味しいご飯に作り直すのが怜太の手腕だ。
「きちんと材料揃えて作ると、リュカには全然かなわないんだ。料理人になっても、三流にしかなれないと思う。でも、この余った食材で子供達に美味しいって言わせてみようって思うと、ゲームみたいで色々思いつくんだ」
怜太は結婚してから、どんどん輝いている。夫はアルファだが、夫の家族が全員ベータなので、他のアルファとオメガのカップルのように囲い込まれず、自由に活動している。子ども食堂には、必要としている子ども達も勿論いるが、近所の若いママ達も子どもを連れてやってきてサロンのようになっていた。子ども食堂では子ども達はみんな仲良く遊び、ママ達はお喋りを楽しみながら、ご飯作りを手伝ってくれる。孤立しがちな育児中の母子の憩いの場所にもなっている。怜太は地域社会に貢献していた。
弱いオメガを守ってあげる、という発想がアルファである自分の驕りだったのかもしれない。今の怜太には、むしろ自分の方が精神的に寄りかかっている。同じアルファの配偶者の拓哉は怜太を囲い込んで閉じ込めたい欲求はあるだろうが、ベータの拓哉の家族が緩衝材になっている。現在の怜太は番になっているのでフェロモンを巻き散らかすことなく、ベータと変わりない。ベータと積極的に関わり合って日常生活を楽しんでいる。アルファの中にいると能力が低いと思われていた怜太だが、ベータと並ぶと知能面では平均的で、美貌は段違いに優れている。ベータ社会ではオピニオンリーダーになれている。
今の怜太はむしろ雅司を心配している。1人ぼっちになってしまった雅司を。
(ダメな兄さんだよな)
怜太に心配させないように私生活もきちんとしなければ、と根が真面目な雅司は思った。
10
お気に入りに追加
120
あなたにおすすめの小説
完結・虐げられオメガ側妃なので敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン溺愛王が甘やかしてくれました
美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!
僕の番
結城れい
BL
白石湊(しらいし みなと)は、大学生のΩだ。αの番がいて同棲までしている。最近湊は、番である森颯真(もり そうま)の衣服を集めることがやめられない。気づかれないように少しずつ集めていくが――
※他サイトにも掲載
Ωの不幸は蜜の味
grotta
BL
俺はΩだけどαとつがいになることが出来ない。うなじに火傷を負ってフェロモン受容機能が損なわれたから噛まれてもつがいになれないのだ――。
Ωの川西望はこれまで不幸な恋ばかりしてきた。
そんな自分でも良いと言ってくれた相手と結婚することになるも、直前で婚約は破棄される。
何もかも諦めかけた時、望に同居を持ちかけてきたのはマンションのオーナーである北条雪哉だった。
6千文字程度のショートショート。
思いついてダダっと書いたので設定ゆるいです。
それが運命というのなら
藤美りゅう
BL
元不良執着α×元不良プライド高いΩ
元不良同士のオメガバース。
『オメガは弱い』
そんな言葉を覆す為に、天音理月は自分を鍛え上げた。オメガの性は絶対だ、変わる事は決してない。ならば自身が強くなり、番など作らずとも生きていける事を自身で証明してみせる。番を解消され、自ら命を絶った叔父のようにはならない──そう理月は強く決心する。
それを証明するように、理月はオメガでありながら不良の吹き溜まりと言われる「行徳学園」のトップになる。そして理月にはライバル視している男がいた。バイクチーム「ケルベロス」のリーダーであるアルファの宝来将星だ。
昔からの決まりで、行徳学園とケルベロスは決して交わる事はなかったが、それでも理月は将星を意識していた。
そんなある日、相談事があると言う将星が突然自分の前に現れる。そして、将星を前にした理月の体に突然異変が起きる。今までなった事のないヒートが理月を襲ったのだ。理性を失いオメガの本能だけが理月を支配していき、将星に体を求める。
オメガは強くなれる、そう信じて鍛え上げてきた理月だったが、オメガのヒートを目の当たりにし、今まで培ってきたものは結局は何の役にも立たないのだと絶望する。将星に抱かれた理月だったが、将星に二度と関わらないでくれ、と懇願する。理月の左手首には、その時将星に噛まれた歯型がくっきりと残った。それ以来、理月が激しくヒートを起こす事はなかった。
そして三年の月日が流れ、理月と将星は偶然にも再会を果たす。しかし、将星の隣には既に美しい恋人がいた──。
アイコンの二人がモデルです。この二人で想像して読んでみて下さい!
※「仮の番」というオリジナルの設定が有ります。
※運命と書いて『さだめ』と読みます。
※pixivの「ビーボーイ創作BL大賞」応募作品になります。
風俗店で働いていたら運命の番が来ちゃいました!
白井由紀
BL
【BL作品】(20時毎日投稿)
絶対に自分のものにしたい社長α×1度も行為をしたことない風俗店のΩ
アルファ専用風俗店で働くオメガの優。
働いているが1度も客と夜の行為をしたことが無い。そのため店長や従業員から使えない認定されていた。日々の従業員からのいじめで仕事を辞めようとしていた最中、客として来てしまった運命の番に溺愛されるが、身分差が大きいのと自分はアルファに不釣り合いだと番ことを諦めてしまう。
それでも、アルファは番たいらしい
なぜ、ここまでアルファは番たいのか……
★ハッピーエンド作品です
※この作品は、BL作品です。苦手な方はそっと回れ右してください🙏
※これは創作物です、都合がいいように解釈させていただくことがありますのでご了承くださいm(_ _)m
※フィクション作品です
※誤字脱字は見つけ次第訂正しますが、脳内変換、受け流してくれると幸いです
※長編になるか短編になるかは未定です
獣人王と番の寵妃
沖田弥子
BL
オメガの天は舞手として、獣人王の後宮に参内する。だがそれは妃になるためではなく、幼い頃に翡翠の欠片を授けてくれた獣人を捜すためだった。宴で粗相をした天を、エドと名乗るアルファの獣人が庇ってくれた。彼に不埒な真似をされて戸惑うが、後日川辺でふたりは再会を果たす。以来、王以外の獣人と会うことは罪と知りながらも逢瀬を重ねる。エドに灯籠流しの夜に会おうと告げられ、それを最後にしようと決めるが、逢引きが告発されてしまう。天は懲罰として刑務庭送りになり――
夢見がちオメガ姫の理想のアルファ王子
葉薊【ハアザミ】
BL
四方木 聖(よもぎ ひじり)はちょっぴり夢見がちな乙女男子。
幼少の頃は父母のような理想の家庭を築くのが夢だったが、自分が理想のオメガから程遠いと知って断念する。
一方で、かつてはオメガだと信じて疑わなかった幼馴染の嘉瀬 冬治(かせ とうじ)は聖理想のアルファへと成長を遂げていた。
やがて冬治への恋心を自覚する聖だが、理想のオメガからは程遠い自分ではふさわしくないという思い込みに苛まれる。
※ちょっぴりサブカプあり。全てアルファ×オメガです。
【完結】運命の番じゃないけど大好きなので頑張りました
十海 碧
BL
拙作『恋愛経験ゼロ、モテ要素もないので恋愛はあきらめていたオメガ男性が運命の番に出会う話』のスピンオフです。
東拓哉23歳アルファ男性が出会ったのは林怜太19歳オメガ男性。
運命の番ではないのですが一目惚れしてしまいました。アタックしますが林怜太は運命の番に憧れています。ところが、出会えた運命の番は妹のさやかの友人の女子高生、細川葵でした。葵は自分の将来のためアルファと結婚することを望んでおり、怜太とは付き合えないと言います。ショックを受けた怜太は拓哉の元に行くのでした。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる