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それぞれの10年間

17 林 雅司

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 雅司の勤めている法律事務所の所長の娘が司法試験に合格したらしい。所長は機嫌良く、みんなに自慢した。娘はベータで所長の母校である私立C大法科大学院生であった。娘は司法修習後、この事務所に入る予定なのでよろしくね、と言った。
 雅司はRYOの証人保護プログラムの手伝いをしてから官房長官と知り合いになり、政府の案件も声がかかるようになり仕事の幅が増えた。母も弟も夫のアルファに守られて平和に暮らしているので自分はオメガ専門にならなくてもいいのかもしれないと進路の変更を考えていた。

 優秀な弁護士である雅司にはお見合いの声もあったがあまり乗り気になれなかった。
 誘われて婚活パーティに出てみたが、どのオメガもフェロモンが妙に鼻についた。
(りょういち以外のオメガは無理だ。それならフェロモンのないベータの方がマシだ)

 休日には怜太の所に遊びに行くのが唯一の憩いだった。甥の生馬の次に生まれたのは、姪の愛梨であった。愛梨は怜太に似て驚くほど美少女だった。父の拓哉と兄の生馬が奪い合うように溺愛していた。雅司も抱っこさせてもらったが、人形のように可愛らしすぎて壊してしまうのではないかと怖くなった。乱暴に飛びつく生馬の方が安心して抱っこできた。
 怜太は子ども食堂を立ち上げ、地域の子供を救う社会活動も行っていた。商店街の食料品店や飲食店と提携しており、余った食材を寄付してもらう。余った食材を美味しいご飯に作り直すのが怜太の手腕だ。
「きちんと材料揃えて作ると、リュカには全然かなわないんだ。料理人になっても、三流にしかなれないと思う。でも、この余った食材で子供達に美味しいって言わせてみようって思うと、ゲームみたいで色々思いつくんだ」
 怜太は結婚してから、どんどん輝いている。夫はアルファだが、夫の家族が全員ベータなので、他のアルファとオメガのカップルのように囲い込まれず、自由に活動している。子ども食堂には、必要としている子ども達も勿論いるが、近所の若いママ達も子どもを連れてやってきてサロンのようになっていた。子ども食堂では子ども達はみんな仲良く遊び、ママ達はお喋りを楽しみながら、ご飯作りを手伝ってくれる。孤立しがちな育児中の母子の憩いの場所にもなっている。怜太は地域社会に貢献していた。
 弱いオメガを守ってあげる、という発想がアルファである自分の驕りだったのかもしれない。今の怜太には、むしろ自分の方が精神的に寄りかかっている。同じアルファの配偶者の拓哉は怜太を囲い込んで閉じ込めたい欲求はあるだろうが、ベータの拓哉の家族が緩衝材になっている。現在の怜太は番になっているのでフェロモンを巻き散らかすことなく、ベータと変わりない。ベータと積極的に関わり合って日常生活を楽しんでいる。アルファの中にいると能力が低いと思われていた怜太だが、ベータと並ぶと知能面では平均的で、美貌は段違いに優れている。ベータ社会ではオピニオンリーダーになれている。
 今の怜太はむしろ雅司を心配している。1人ぼっちになってしまった雅司を。
(ダメな兄さんだよな)
 怜太に心配させないように私生活もきちんとしなければ、と根が真面目な雅司は思った。
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