上 下
14 / 22

14

しおりを挟む
 怜太は何も手につかず、ずっと細川葵のことを考えていた。運命の番は勝手に年上の頼りがいのあるアルファのように思っていたが、自分より年下の女子高生とは思わなかった。
 さやかが春から通い始めた予備校に葵も通っていた。さやかが理系トップで文系トップの葵と自然に親しくなったそうだ。T大模試が終わって、レストランはやしでご馳走しようと誘ったらしい。

 翌日、予備校の授業終わりにさやかは葵に声をかけた。
「うちの兄、葵が運命の番かもって言ってた」
 葵は頷く。
「そうだと思う。昨日はびっくりしちゃって。突然帰ってごめんなさい」
 2人連れだって歩く。
 葵がさやかと怜太に話をしたいと言い、さやかは自宅に電話をかけ、怜太に葵を連れていくと伝えた。

 レストランはやしはCLOSEDの看板をかけていた。拓哉は今日は来ないだろう。
 怜太とさやかと葵の3人でテーブルに座る。みどりは3人分お茶を出して引っ込んだ。
「細川葵です。初めまして。昨日はびっくりしちゃってご挨拶もせず帰っちゃってすみませんでした」
「林怜太です。さやかの兄です。僕もびっくりしたので分かります」
 2人はまた沈黙する。さやかは和ませるために雑談する。
「運命の番って分かるものなの?」
 葵が言う。
「びりびりして電気っていう表現が近いかも。後、怜太さんが光って見えます。そして花のようないい香がします」
 怜太も恐る恐る言う。
「僕も葵さんと同じように感じます」
 さやかが2人を見て「お付き合い……する?」と聞く。
 怜太は顔を赤らめるが、葵は「私、まだ高校生なので」と言い、怜太も「そうだよね」と頷く。
「じゃ、葵が大学生になったら?」とさやかが確認する。
 葵が下を向いてしまう。怜太はおろおろする。
 葵が顔を上げ、怜太を見つめた。
「怜太さんは素敵な人だし、運命の番というのも分かってるんですが、私、怜太さんとは付き合えないです」
 怜太に冷やりとした感情が襲う。青ざめた怜太を見てさやかがとりなす。
「葵、理由聞いていい?」
 葵は「今日、私の気持ちを怜太さんに伝えたくて来ました」と語りだした。
「私の夢は女性初の総理大臣になることなんです」
 唐突な葵の発言にさやかが驚く。
「これは野望なので、今まで誰にも言ってません。でも、怜太さんにはきちんと分かって欲しくて、包み隠さずお話しします。細川家は細川電機を経営しております。おじが社長です。私の父は子会社を任されています。番の子なのでおじとは異母兄弟です。直系ではないので、私は跡継ぎには関係ありません。自由に進路を選べるので、T大に入って官僚になり国会議員になろうと考えていました。細川家は政界との繋がりがないので、私は政界と繋がることができる人、できれば大物議員の二世か三世のアルファ男性と結婚したいと考えております。アルファが正妻以外にオメガを番にすることが容認されている社会が私は嫌で男女もバースも平等な社会を作りたいと思ってます。だから、アルファ男性と結婚して、怜太さんと番になることは信条としてできません」
 葵が断言し下を向く。怜太も青ざめたままだ。気まずい沈黙が続くのでさやかがとりなす。
「うーん。私は少し分かるかも。葵は人生の順位で1位は仕事で、恋愛の順位はかなり低いんでしょ。怜兄をそれに付き合わせるわけにはいかないってことだよね」
 さやかも葵と同じアルファなので仕事を優先する葵の気持ちが理解できた。
「その通りです。私の野望を叶えるためには結婚もその手段として使おうと思ってます。怜太さんと愛のある家庭生活を送るより、女性初の総理大臣になる野望を叶える方が私には大切なのです」
 葵は言い切った。
 怜太は無理に微笑んで言う。
「葵さんのお気持ちはわかりました。女性初の総理大臣になれるよう僕も応援しています」
 葵はさやかと怜太に深々と頭を下げ立ち上がった。
 さやかが「そこまで送っていくよ」と葵の後を追い、2人は出て行った。

 怜太は呆然としていた。
 いつか運命の番が現れて怜太を大事にしてくれるとずっと思ってた。勝手なイメージだが、自分より年上の頼りがいのあるスパダリのアルファ男性をイメージしていた。
 リュカだって美月はアルファ女性だ。女性が相手という可能性もあったのに何故か男性と思い込んでいた。
 葵はきりっとした美人であることは認めるが、さやかに対するような感情しか持てない。でも、運命の番だから性的に引き付けられる気持ちはある。
 しかし、今、自分は運命の番に振られた。運命の番に出会えば幸せになれると信じていたのに。
 この先、どう生きていけばいいのか分からない。
 この震える体をしっかり抱きしめて欲しい。
 震えが止まるまで。
 怜太は自分で自分を抱きしめる。
 番にして欲しい。誰かの番になり葵のフェロモンを感じなくなるようにして欲しい。
 怜太は震える指でスマホを操作して電話をかけた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

人気俳優と恋に落ちたら

山吹レイ
BL
 男性アイドルグループ『ムーンシュガー』のメンバーである冬木行理(ふゆき あんり)は、夜のクラブで人気俳優の柏原為純(かしわばら ためずみ)と出会う。  そこで為純からキスをされ、写真を撮られてしまった。  翌日、写真はネットニュースに取り上げられ、為純もなぜか交際を認める発言をしたことから、二人は付き合うふりをすることになり……。  完結しました。  ※誤字脱字の加筆修正が入る場合があります。

真柴さんちの野菜は美味い

晦リリ
BL
運命のつがいを探しながら、相手を渡り歩くような夜を繰り返している実業家、阿賀野(α)は野菜を食べない主義。 そんななか、彼が見つけた運命のつがいは人里離れた山奥でひっそりと野菜農家を営む真柴(Ω)だった。 オメガなのだからすぐにアルファに屈すると思うも、人嫌いで会話にすら応じてくれない真柴を落とすべく山奥に通い詰めるが、やがて阿賀野は彼が人嫌いになった理由を知るようになる。 ※一話目のみ、攻めと女性の関係をにおわせる描写があります。 ※2019年に前後編が完結した創作同人誌からの再録です。

たしかなこと

大波小波
BL
 白洲 沙穂(しらす さほ)は、カフェでアルバイトをする平凡なオメガだ。  ある日カフェに現れたアルファ男性・源 真輝(みなもと まさき)が体調不良を訴えた。  彼を介抱し見送った沙穂だったが、再び現れた真輝が大富豪だと知る。  そんな彼が言うことには。 「すでに私たちは、恋人同士なのだから」  僕なんかすぐに飽きるよね、と考えていた沙穂だったが、やがて二人は深い愛情で結ばれてゆく……。

ナッツに恋するナツの虫

珈琲きの子
BL
究極の一般人ベータである辻井那月は、美術品のような一流のアルファである栗栖東弥に夢中だった。 那月は彼を眺める毎日をそれなりに楽しく過ごしていたが、ある日の飲み会で家に来るように誘われ……。 オメガ嫌いなアルファとそんなアルファに流されるちょっとおバカなベータのお話。 *オメガバースの設定をお借りしていますが、独自の設定も盛り込んでいます。 *予告なく性描写が入ります。 *モブとの絡みあり(保険) *他サイトでも投稿

恋してみよう愛してみよう

大波小波
BL
 北條 真(ほうじょう まこと)は、半グレのアルファ男性だ。  極道から、雇われ店長として、ボーイズ・バー『キャンドル』を任されている。  ある日、求人面接に来たオメガの少年・津川 杏(つがわ きょう)と出会う。  愛くるしい杏を、真は自分の家政夫として囲うことにしたが、この少年は想像以上にピュアでウブだった……。

すれ違い夫夫は発情期にしか素直になれない

和泉臨音
BL
とある事件をきっかけに大好きなユーグリッドと結婚したレオンだったが、番になった日以来、発情期ですらベッドを共にすることはなかった。ユーグリッドに避けられるのは寂しいが不満はなく、これ以上重荷にならないよう、レオンは受けた恩を返すべく日々の仕事に邁進する。一方、レオンに軽蔑され嫌われていると思っているユーグリッドはなるべくレオンの視界に、記憶に残らないようにレオンを避け続けているのだった。 お互いに嫌われていると誤解して、すれ違う番の話。 =================== 美形侯爵長男α×平凡平民Ω。本編24話完結。それ以降は番外編です。 オメガバース設定ですが独自設定もあるのでこの世界のオメガバースはそうなんだな、と思っていただければ。

【完結】恋愛経験ゼロ、モテ要素もないので恋愛はあきらめていたオメガ男性が運命の番に出会う話

十海 碧
BL
桐生蓮、オメガ男性は桜華学園というオメガのみの中高一貫に通っていたので恋愛経験ゼロ。好きなのは男性なのだけど、周囲のオメガ美少女には勝てないのはわかってる。高校卒業して、漫画家になり自立しようと頑張っている。蓮の父、桐生柊里、ベータ男性はイケメン恋愛小説家として活躍している。母はいないが、何か理由があるらしい。蓮が20歳になったら母のことを教えてくれる約束になっている。 ある日、沢渡優斗というアルファ男性に出会い、お互い運命の番ということに気付く。しかし、優斗は既に伊集院美月という恋人がいた。美月はIQ200の天才で美人なアルファ女性、大手出版社である伊集社の跡取り娘。かなわない恋なのかとあきらめたが……ハッピーエンドになります。 失恋した美月も運命の番に出会って幸せになります。 蓮の母は誰なのか、20歳の誕生日に柊里が説明します。柊里の過去の話をします。 初めての小説です。オメガバース、運命の番が好きで作品を書きました。業界話は取材せず空想で書いておりますので、現実とは異なることが多いと思います。空想の世界の話と許して下さい。

後発オメガの幸せな初恋 You're gonna be fine.

大島Q太
BL
永田透は高校の入学時検診でオメガと判定された。オメガの学校に初めてのヒート。同じ男性オメガと育む友情。そして、初恋。戸惑う透が自分のオメガ性と向き合いながら受け入れ。運命に出会う話。穏やかに淡々と溺愛。

処理中です...