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ドロティア国との戦争
5 平和
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ドロティア国王がヒトとしての生命を終え、魔界に運ばれた途端、この世にかけられた闇魔術は減弱した。
アスティア国にいたチカット国の巫女が闇魔術の減弱を感じ、ヒルダに報告した。アスティア国の勝利が確信された。それは喜ばしいことであったが、ヒルダはアイザック達の安否が気になっていた。第3陣の報告が待ちきれなかった。
早がけの伝令が帰国してヒルダに戦況を報告した。アイザック、レティシア2人でドロティア国王を倒したが、2人とも重症という報告だった。そのため、アスティア国まで早がけできず、慎重に連れ帰るという手筈になった。
ヒルダと湊はアスティア国の勝利を喜んだが、アイザックの状態が心配だった。
数日後、アイザックとレティシアを乗せた馬車が到着した。ルイザは不眠不休でレティシアのそばに付き添っておりふらふらだった。ルクスもレティシアとアイザックの闇魔術を払い続けていたため衰弱していた。アスティア国の医師団が、ルイザとルクスを2人から離し、緊急入院させた。アイザックとレティシアには医師団と巫女達が対応した。湊は邪魔になるので遠巻きに見ることしかできず、第3陣の他の負傷者の手当の手伝いをした。
1か月後、ルイザとルクスは元気になり退院した。しかし、ルクスから聖魔術は失われてしまって、普通の赤ちゃんになっていた。ルクスは全ての魔力を使って戦ってくれたのだ。
普通の子供で結構。誰か文句を言うなら、王位なんていらない。チカット国に戻って、普通に平和に暮らす。
ルイザはルクスを守り抜こうと強気に思っていたが、退院後、ヒルダが泣きながらルイザとルクスにお礼を言ってくれたので、毒気が抜けて、一緒に泣いてしまった。
ヒルダはルクスがアイザックを守ってくれたこと、そのために聖魔術の力を失ったことの重大性を理解していた。
「ドロティア国王が滅んで、闇魔術がなくなったから、ルクスが聖魔術の力を失っても問題ないわ。そもそも、歴代のアスティア国の王に聖魔術の力を持ったものなど1人もいないのだから。ルクスに予定通り是非王位について欲しい」
ヒルダはルイザとルクスにお願いする。
「王位はアイザック様が……」
ルイザは呟いて、ヒルダの顔色を見て察した。
「レティシア様は?」
ルイザは慌てて自分の愛しい人の名前を呼ぶ。
「レティシアはまだ、かなり弱ってるので入院が必要だけど、面会はできるわ。あなた達が顔を見せると喜ぶわ。案内するわね」
ヒルダが歩き出したので、安心してルイザはルクスを抱いて、後をついていった。
「ルイザ、ルクス!」
「レティシア!」
やつれてはいたが、レティシアはベッドの中で座って迎えてくれた。3人で抱き合う。涙がとまらなかった。
レティシアにかかっていた闇魔術は、もともとの体質から、比較的すみやかに排除された。しかし、闇魔術との戦いでかなり体力が削り取られており、今後はしばらく療養が必要であった。
「皇太后様にルクスが王位について欲しいと言われたの」
ルイザがレティシアに報告する。
「アイザックが、あの状況ではやむを得ないね。私も本調子でないから、皇太后様と協力してやってほしい。ルイザは宰相の役職が与えられるからルクスをサポートしてあげてね」
「アイザック様は?」
ルイザは恐る恐る聞く。レティシアは無言で首を振った。
アイザックは肉体的な傷は治ったのだが、ドロティア国王から近い距離で強烈な闇魔術攻撃を受けていた。巫女達が懸命に払ったのだが、払いきれず、意識不明のままである。
おそらく、このまま死に向かっていくだろう。
ヒルダは聖魔術の最高の使い手であるレティシアとルクスの回復を待っていたが、ルクスにはもう聖魔術の力がないことが判明した。そしてレティシアも。
「私も聖魔術の力を使いすぎて、自分の回復にも使ってしまったので、今はほとんどないんだ。他の巫女以下になってしまった」
レティシアは苦笑する。ルイザはレティシアを抱きしめる。
「普通で……普通で、いいじゃありませんか。私はレティシアもルクスも私と同じ普通になってくれて嬉しいです。普通に幸せになりたい……」
ルイザは涙ながらに訴えた。
「ありがとう。聖魔術の力がほぼ無くなってしまったので、私の意味がなくなったと絶望していたんだ。そうか、ルイザとルクスと一緒か……。それは素敵だな」
レティシアは微笑んで、泣いているルイザの頬に口づけした。ルクスも機嫌良くにこにこ笑っていた。
そんな3人の家族の仲睦まじい姿を見て、ヒルダはそっと病室から去った。
アスティア国にいたチカット国の巫女が闇魔術の減弱を感じ、ヒルダに報告した。アスティア国の勝利が確信された。それは喜ばしいことであったが、ヒルダはアイザック達の安否が気になっていた。第3陣の報告が待ちきれなかった。
早がけの伝令が帰国してヒルダに戦況を報告した。アイザック、レティシア2人でドロティア国王を倒したが、2人とも重症という報告だった。そのため、アスティア国まで早がけできず、慎重に連れ帰るという手筈になった。
ヒルダと湊はアスティア国の勝利を喜んだが、アイザックの状態が心配だった。
数日後、アイザックとレティシアを乗せた馬車が到着した。ルイザは不眠不休でレティシアのそばに付き添っておりふらふらだった。ルクスもレティシアとアイザックの闇魔術を払い続けていたため衰弱していた。アスティア国の医師団が、ルイザとルクスを2人から離し、緊急入院させた。アイザックとレティシアには医師団と巫女達が対応した。湊は邪魔になるので遠巻きに見ることしかできず、第3陣の他の負傷者の手当の手伝いをした。
1か月後、ルイザとルクスは元気になり退院した。しかし、ルクスから聖魔術は失われてしまって、普通の赤ちゃんになっていた。ルクスは全ての魔力を使って戦ってくれたのだ。
普通の子供で結構。誰か文句を言うなら、王位なんていらない。チカット国に戻って、普通に平和に暮らす。
ルイザはルクスを守り抜こうと強気に思っていたが、退院後、ヒルダが泣きながらルイザとルクスにお礼を言ってくれたので、毒気が抜けて、一緒に泣いてしまった。
ヒルダはルクスがアイザックを守ってくれたこと、そのために聖魔術の力を失ったことの重大性を理解していた。
「ドロティア国王が滅んで、闇魔術がなくなったから、ルクスが聖魔術の力を失っても問題ないわ。そもそも、歴代のアスティア国の王に聖魔術の力を持ったものなど1人もいないのだから。ルクスに予定通り是非王位について欲しい」
ヒルダはルイザとルクスにお願いする。
「王位はアイザック様が……」
ルイザは呟いて、ヒルダの顔色を見て察した。
「レティシア様は?」
ルイザは慌てて自分の愛しい人の名前を呼ぶ。
「レティシアはまだ、かなり弱ってるので入院が必要だけど、面会はできるわ。あなた達が顔を見せると喜ぶわ。案内するわね」
ヒルダが歩き出したので、安心してルイザはルクスを抱いて、後をついていった。
「ルイザ、ルクス!」
「レティシア!」
やつれてはいたが、レティシアはベッドの中で座って迎えてくれた。3人で抱き合う。涙がとまらなかった。
レティシアにかかっていた闇魔術は、もともとの体質から、比較的すみやかに排除された。しかし、闇魔術との戦いでかなり体力が削り取られており、今後はしばらく療養が必要であった。
「皇太后様にルクスが王位について欲しいと言われたの」
ルイザがレティシアに報告する。
「アイザックが、あの状況ではやむを得ないね。私も本調子でないから、皇太后様と協力してやってほしい。ルイザは宰相の役職が与えられるからルクスをサポートしてあげてね」
「アイザック様は?」
ルイザは恐る恐る聞く。レティシアは無言で首を振った。
アイザックは肉体的な傷は治ったのだが、ドロティア国王から近い距離で強烈な闇魔術攻撃を受けていた。巫女達が懸命に払ったのだが、払いきれず、意識不明のままである。
おそらく、このまま死に向かっていくだろう。
ヒルダは聖魔術の最高の使い手であるレティシアとルクスの回復を待っていたが、ルクスにはもう聖魔術の力がないことが判明した。そしてレティシアも。
「私も聖魔術の力を使いすぎて、自分の回復にも使ってしまったので、今はほとんどないんだ。他の巫女以下になってしまった」
レティシアは苦笑する。ルイザはレティシアを抱きしめる。
「普通で……普通で、いいじゃありませんか。私はレティシアもルクスも私と同じ普通になってくれて嬉しいです。普通に幸せになりたい……」
ルイザは涙ながらに訴えた。
「ありがとう。聖魔術の力がほぼ無くなってしまったので、私の意味がなくなったと絶望していたんだ。そうか、ルイザとルクスと一緒か……。それは素敵だな」
レティシアは微笑んで、泣いているルイザの頬に口づけした。ルクスも機嫌良くにこにこ笑っていた。
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