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月が天頂に登る頃には、部屋を満たすのはばちゅんばちゅんという荒々しい水音ばかりになっていた。生温い湿った空気の中で、まだ激しい交わりは続く。
「んほぉ♡ おっ、お゛ぉっ♡ ふかいっ、ふかいぃぃ♡」
グレンは半狂乱になってシーツを掻きむしっていた。片足を担がれて側位で貫かれている。より奥まで入れられる体位で、散々精液を吐き掛けられて柔らかく弛んだ結腸の窄まりはあっけなく奥への侵入を許していた。
ぐちゃぐちゃに歪んだ喜悦の表情で、涙と涎を垂れ流して泣き叫ぶ。
逃げをうつ腰をがっちりと掴まれて引き戻される。
「そうだなっ、俺も、凄く気持ちいい、ぞっ!」
ばちゅんっ! と力強く腰を送り込みながらレグリスが唸る。奥の奥、肉の窄まりに亀頭がずっぽりとはまり込む感覚が信じられない程気持ちいい。カリの下をぎゅうぎゅうに締め付けられて何度も奥に吐精してしまった。
奥にはめ込んで揺すりながら腰をグラインドさせるとグレンがぐりんっと白目を剥き、弓なりにしなった体が小刻みに痙攣して舌を突き出して吼える。
「あ゛っ、あ゛っ! そこだめぇ、し、しぬぅ、ひ♡」
「ころさんから、安心しろっ」
「い゛ぃっ、い゛、いぐっ、い、うぅうッ‥‥‥」
腹上死というなら、レグリスは淫呪のせいで泡を吹いて悶えるグレンの姿を知っている。だからそんなことにはならんだろうと余裕の笑みさえ見せている。老人ならまだしも健康な若者であるグレンがそこまでいくとは到底思えない。もっともグレンにとっては笑いごとでないのだろうが。
ぐちょん、ばちゅっ、ぐちっ、ぬちゃ、と交わっている場所からは絶え間なく粘着質な水音が大音量で響き渡っている。肉棒を引きずり出すとごぽごぽと白く泡立った体液の混ざりものが溢れ出しレグリスをますます燃え上がらせる。一緒に引きずり出されて捲れた雄膣の入り口は真っ赤に腫れ、まさに唇でしゃぶられているようだ。
「うぅっ、ふぅ……はぁ」
どくどく結腸の奥に精液を注ぎ込む。鍛えられた筋肉に包まれた直腸はグレンの意識が混濁していても締め付けを緩めることはなく、ぎゅうぎゅうとこちらを搾り取ろうとしてくる。
レグリスはグレンの腹に目をやる。
(流石に膨れたりは……しないか)
女だったら確実に妊娠しているくらい注ぎ込んでいると思う。そもそもここまですると確実に振られるのでこんな事にはならないが。
腰を突き出しながらぴゅくぴゅくと潮を吐き出しているグレンの陰茎を手に取る。かろうじて芯は通って勃起してはいるものの力なくふにゃりと手の中に横たわっている。揉んでみても最早硬さを増すこともない。
中だけイキすぎて勃起の仕方を忘れてしまったみたいだった。
「グレン」
「あぁあッ、んひ、まら、いぐぅう」
顔を汚す涙と汗を拭ってやる。綺麗な顔が白目を剥いて舌を放り出して歪んでいた。涙で濡れた頬が明かりを反射している。綺麗なものが適度に崩れている様はどうしようもなく獣性を刺激して止まない。
「お前ってやつは、こんなになっちまってッ」
「うぅっ、おっ、れぐ、りすぅ、んあぁ、はーっ、はぁあッ、あっ、あぁ――――ッ」
グレンが殆ど精魂尽きてシーツの海に沈んでも腕を引いて腹の奥を捏ね続ける。
「どうだッ」
「んお゛ぉおおっ♡ そこ、あぁッ」
グレンが腰だけを跳ねさせて悶える。声だけはまだ出るあたり流石と言うべきだが、持久力はレグリスには遠く及ばない。
「もっとして、いいか?」
がくがくとグレンが頷く。本当か? と聞いてやりたかったが藪蛇な気がして止める。せっかく我儘を聞いてもらったのだ、思いっきり甘えるかと頬を張って気合を入れ直す。
ぴしゃりと濡れていて、自分も汗だくになっている事に気付く。寝台から身を乗り出して空を見上げる。月は高く昇っているが、まだ日が昇り始めるまでにはたっぷりと時間がある。
「いやぁ、流石にそこまではもたないか」
だがキリのいいタイミングなんてある訳ない。深く息を吸い込む。空気さえ体液と汗と体臭のいやらしい臭いに満ちて性感を煽るばかりだ。
最初から根競べまがいのセックスとは爛れてるなと苦笑する。最初くらいもう少し甘い雰囲気になるだろうと思っていたのに、全然そんな事にはならなかった。
まあ男同士だし、雰囲気を無碍にしたとて怒られやしないだろう。
そんなことを考えながら、再び互いの体に没頭していった。
「ん、ん‥‥‥、?」
俺は何をしているのか、とまずグレンは思った。
眠い。とにかくねむい。怠い。重い。億劫だ。
全身がポカポカしている。声を出した瞬間喉が痛みを訴えた。ひりつく喉に湿った空気が流れ込んできてほぅと安堵のため息を付いた。痛む腰に温かさが染み渡る。
疲れ切ってまた惰眠を貪りたい気分だったが、なんだかやたらと眩しい。瞼の隙間から光が入ってきてチカチカする。何の気なしに目を手で覆おうとして、その手を何者かに受け止められた。
「へ?」
「おう、起きたか?」
驚いてぱちりと目が開く。いやに晴れやかな顔のレグリスの姿がある。頭の中が真っ白になった。どういう事だ?
「おわ、こらこら暴れるな。溢れるっ」
身を起こそうとすると慌てた様子でレグリスに抱き留められ押さえつけられる。ぴちゃりと水音が鳴った。水音?
「ん? へ、あぁ!? なんだこれ!?」
慌てて周りを確認すると、どうやら湯に浸かっているようだ。どうも暖かいはずである。レグリスの肩口に頭を預け、身を寄せ合うようにして個人用の浴槽に収まっている。
「片付けついでに身ぎれいにしようかとな」
武骨な指が額をなぞり張り付いた髪を脇へどける。ニヤニヤしながらレグリスはグレンの呆けた顔を眺めた。
「お前ドロドロだったからな。洗ってる途中で湯を張り替えることになったんだぞ。贅沢な奴め」
「な、あ、なっ! ~~~~~ッ!」
みるみるうちにグレンの顔が真っ赤に染まっていく。元々湯に浸かっているせいで火照っていた肌が茹でだこのようになる。
ぐぅぅと呻きながらグレンは羞恥に頭を抱える。途端に昨晩の行為の記憶がかつてないほどの現実感をもって圧し掛かってきた。どんな卑猥な動きで彼を誘い、淫蕩な言葉で求めたか手に取るように思い出せる。
わなわなと体が震える。レグリスと肌が触れている今の状況すら耐えがたいほど恥ずかしい。穴があったら入りたい。今すぐ殺せと叫び出しそうになるのをどうにか飲み込んだ。
こんな状態でいられるかと身を起こそうとしたがそれもレグリスに抱き込まれて阻まれる。
「おいっ! 離せよっ」
「そう言うな。やっとゆっくりできるんだから。お前さんだってもう一日したら帰るんだろう」
労わるように腰と尻を撫でられるが納得するグレンではない。一晩丸々セックスに使っておいてよく言う。今触ってくる手だって少し下心がある手つきではないか。湯に当たってじんじんと腫れた痛みを訴えてくる尻の穴の事は絶対に伝えるものかと思った。
「今何時」
「もうすぐ昼」
「はぁ!?」
夜更けまで体を重ねて、それから眠ってと考えればそんな時間になっていてもおかしくはない。だがせっかく都市部に登ってきたのに予定が狂ってしまう。
今日は冒険者仲間に頼まれた物資の買い出しをする予定だったのだ。元々午後からの予定ではあったがもたもたしていたら全て買いきれなくなる。
「で、出るっ。買いだし!」
ばっと立ち上がった勢いで周囲に水が散る。腰がつきりと痛んだが構ってはいられない。おいおい、とレグリスが不満げ声を出した。
「たかが買い物だろ? どうしてもなのか」
言ってくれれば後で送ってやるのにと言うレグリスの態度にグレンは呆れてため息を吐いた。
「ばかやろー、安いけど仲間からの立派な依頼だよっ。そもそもお前に構ってやれる時間はそんなにないって言ってあったじゃねぇか。なのにがっつきやがってこのケダモノ! 風呂は有難いけど、帰ってくるまで大人しく待ってろ!」
えっちらおっちらと水を撥ね飛ばしタオルを探る。どうせグレンは客であるし自分が逗留する間レグリスは家にいると言っていたから、それに甘えて元より片付けなどに気を遣うつもりはさらさらなかった。
「俺だけ変態呼ばわりは酷いんじゃないのか? お前昨日あんなに」
「あーあー聞こえないね! くそ~おっさんとも腕試ししようと思ってたのに時間ないじゃねぇか」
「叩きのめされる予感しかしないからそれは有難いな」
血気盛んな発言にレグリスは背筋がぞっとする。
一度は負けたものの最終的には古代の魔物を討ち取っただけあって、グレンの個人としての力は恐ろしく強い。レグリスは部隊戦なら得意だが、流石に一人であんなに飛んだり跳ねたりできはしない。一対一で勝てるビジョンは正直見えなかった。
それにその様な事になれば昨夜の意趣返しをされるであろうこともわかりきっている。抱き潰しておいて良かったかもしれないと表情筋が引き攣った。
グレンが出ていったことで、型の下まであった湯は胸の下にまで減ってしまって少し肌寒い。半分はみだしていた足を湯船の中にしまって服を纏っていく背中を見守る。膝裏や腰にくっきりと浮かび上がった手の痣をみていると不満に燻る心が少しは癒された。
「明日の午後に帰るんだっけ。午前は多少暇なんだっけか」
「あぁ。で? そこでなら一試合付き合ってくれるって?」
「騎士団で山麓の洞窟で魔物退治をこの前してな」
ちゃぽん、と湯の水を掬い上げる。
「どうもその洞窟の中が熱いってんで探索したら奥で大量の湯が沸いてたんだ。そのままじゃ熱くて入る所じゃなかったが、人を入れて入り口近くまで掘削して湯を通したらちょうどいい温度になって人が入れるようになった。打ち身に効くって医者の話だから騎士団でも訓練の後に時々行くんだよ」
くるりとグレンが振り向く。心なしか興味ありげに揺れた瞳にしめしめと内心ほくそ笑む。
「長湯できるように寝転べるところなんかも協力して作ったりしてな。一時間行くくらいでなかなかちょうどいいんじゃないか。どうだ、行かないか」
「……行く」
返事は思いの外早かった。天然温泉の誘惑には勝てなかったようだ。
「了解。夕飯作って待ってるから、早く帰ってこいよ」
「うっせー。……、体力使わせたんだから、肉多めにしろよな」
「はいよ」
すっかりと情事の痕を服の下に覆い隠した友人がバタバタと部屋を飛び出していく足音をバックにレグリスは明日の予定に胸を躍らせる。
もしかしたら騎士団の知り合いに会ってしまうかもしれんと思ったが、まあその時はその時だ。例の『友人』ですとても紹介しておこうか。
「んん~~っ、いでっ」
ぐっと体を伸ばすと腰がミシリと軋みを発したので、少し張り切りすぎたかと狭い浴槽で腰をさすりながら乾いた笑いを漏らした。
「んほぉ♡ おっ、お゛ぉっ♡ ふかいっ、ふかいぃぃ♡」
グレンは半狂乱になってシーツを掻きむしっていた。片足を担がれて側位で貫かれている。より奥まで入れられる体位で、散々精液を吐き掛けられて柔らかく弛んだ結腸の窄まりはあっけなく奥への侵入を許していた。
ぐちゃぐちゃに歪んだ喜悦の表情で、涙と涎を垂れ流して泣き叫ぶ。
逃げをうつ腰をがっちりと掴まれて引き戻される。
「そうだなっ、俺も、凄く気持ちいい、ぞっ!」
ばちゅんっ! と力強く腰を送り込みながらレグリスが唸る。奥の奥、肉の窄まりに亀頭がずっぽりとはまり込む感覚が信じられない程気持ちいい。カリの下をぎゅうぎゅうに締め付けられて何度も奥に吐精してしまった。
奥にはめ込んで揺すりながら腰をグラインドさせるとグレンがぐりんっと白目を剥き、弓なりにしなった体が小刻みに痙攣して舌を突き出して吼える。
「あ゛っ、あ゛っ! そこだめぇ、し、しぬぅ、ひ♡」
「ころさんから、安心しろっ」
「い゛ぃっ、い゛、いぐっ、い、うぅうッ‥‥‥」
腹上死というなら、レグリスは淫呪のせいで泡を吹いて悶えるグレンの姿を知っている。だからそんなことにはならんだろうと余裕の笑みさえ見せている。老人ならまだしも健康な若者であるグレンがそこまでいくとは到底思えない。もっともグレンにとっては笑いごとでないのだろうが。
ぐちょん、ばちゅっ、ぐちっ、ぬちゃ、と交わっている場所からは絶え間なく粘着質な水音が大音量で響き渡っている。肉棒を引きずり出すとごぽごぽと白く泡立った体液の混ざりものが溢れ出しレグリスをますます燃え上がらせる。一緒に引きずり出されて捲れた雄膣の入り口は真っ赤に腫れ、まさに唇でしゃぶられているようだ。
「うぅっ、ふぅ……はぁ」
どくどく結腸の奥に精液を注ぎ込む。鍛えられた筋肉に包まれた直腸はグレンの意識が混濁していても締め付けを緩めることはなく、ぎゅうぎゅうとこちらを搾り取ろうとしてくる。
レグリスはグレンの腹に目をやる。
(流石に膨れたりは……しないか)
女だったら確実に妊娠しているくらい注ぎ込んでいると思う。そもそもここまですると確実に振られるのでこんな事にはならないが。
腰を突き出しながらぴゅくぴゅくと潮を吐き出しているグレンの陰茎を手に取る。かろうじて芯は通って勃起してはいるものの力なくふにゃりと手の中に横たわっている。揉んでみても最早硬さを増すこともない。
中だけイキすぎて勃起の仕方を忘れてしまったみたいだった。
「グレン」
「あぁあッ、んひ、まら、いぐぅう」
顔を汚す涙と汗を拭ってやる。綺麗な顔が白目を剥いて舌を放り出して歪んでいた。涙で濡れた頬が明かりを反射している。綺麗なものが適度に崩れている様はどうしようもなく獣性を刺激して止まない。
「お前ってやつは、こんなになっちまってッ」
「うぅっ、おっ、れぐ、りすぅ、んあぁ、はーっ、はぁあッ、あっ、あぁ――――ッ」
グレンが殆ど精魂尽きてシーツの海に沈んでも腕を引いて腹の奥を捏ね続ける。
「どうだッ」
「んお゛ぉおおっ♡ そこ、あぁッ」
グレンが腰だけを跳ねさせて悶える。声だけはまだ出るあたり流石と言うべきだが、持久力はレグリスには遠く及ばない。
「もっとして、いいか?」
がくがくとグレンが頷く。本当か? と聞いてやりたかったが藪蛇な気がして止める。せっかく我儘を聞いてもらったのだ、思いっきり甘えるかと頬を張って気合を入れ直す。
ぴしゃりと濡れていて、自分も汗だくになっている事に気付く。寝台から身を乗り出して空を見上げる。月は高く昇っているが、まだ日が昇り始めるまでにはたっぷりと時間がある。
「いやぁ、流石にそこまではもたないか」
だがキリのいいタイミングなんてある訳ない。深く息を吸い込む。空気さえ体液と汗と体臭のいやらしい臭いに満ちて性感を煽るばかりだ。
最初から根競べまがいのセックスとは爛れてるなと苦笑する。最初くらいもう少し甘い雰囲気になるだろうと思っていたのに、全然そんな事にはならなかった。
まあ男同士だし、雰囲気を無碍にしたとて怒られやしないだろう。
そんなことを考えながら、再び互いの体に没頭していった。
「ん、ん‥‥‥、?」
俺は何をしているのか、とまずグレンは思った。
眠い。とにかくねむい。怠い。重い。億劫だ。
全身がポカポカしている。声を出した瞬間喉が痛みを訴えた。ひりつく喉に湿った空気が流れ込んできてほぅと安堵のため息を付いた。痛む腰に温かさが染み渡る。
疲れ切ってまた惰眠を貪りたい気分だったが、なんだかやたらと眩しい。瞼の隙間から光が入ってきてチカチカする。何の気なしに目を手で覆おうとして、その手を何者かに受け止められた。
「へ?」
「おう、起きたか?」
驚いてぱちりと目が開く。いやに晴れやかな顔のレグリスの姿がある。頭の中が真っ白になった。どういう事だ?
「おわ、こらこら暴れるな。溢れるっ」
身を起こそうとすると慌てた様子でレグリスに抱き留められ押さえつけられる。ぴちゃりと水音が鳴った。水音?
「ん? へ、あぁ!? なんだこれ!?」
慌てて周りを確認すると、どうやら湯に浸かっているようだ。どうも暖かいはずである。レグリスの肩口に頭を預け、身を寄せ合うようにして個人用の浴槽に収まっている。
「片付けついでに身ぎれいにしようかとな」
武骨な指が額をなぞり張り付いた髪を脇へどける。ニヤニヤしながらレグリスはグレンの呆けた顔を眺めた。
「お前ドロドロだったからな。洗ってる途中で湯を張り替えることになったんだぞ。贅沢な奴め」
「な、あ、なっ! ~~~~~ッ!」
みるみるうちにグレンの顔が真っ赤に染まっていく。元々湯に浸かっているせいで火照っていた肌が茹でだこのようになる。
ぐぅぅと呻きながらグレンは羞恥に頭を抱える。途端に昨晩の行為の記憶がかつてないほどの現実感をもって圧し掛かってきた。どんな卑猥な動きで彼を誘い、淫蕩な言葉で求めたか手に取るように思い出せる。
わなわなと体が震える。レグリスと肌が触れている今の状況すら耐えがたいほど恥ずかしい。穴があったら入りたい。今すぐ殺せと叫び出しそうになるのをどうにか飲み込んだ。
こんな状態でいられるかと身を起こそうとしたがそれもレグリスに抱き込まれて阻まれる。
「おいっ! 離せよっ」
「そう言うな。やっとゆっくりできるんだから。お前さんだってもう一日したら帰るんだろう」
労わるように腰と尻を撫でられるが納得するグレンではない。一晩丸々セックスに使っておいてよく言う。今触ってくる手だって少し下心がある手つきではないか。湯に当たってじんじんと腫れた痛みを訴えてくる尻の穴の事は絶対に伝えるものかと思った。
「今何時」
「もうすぐ昼」
「はぁ!?」
夜更けまで体を重ねて、それから眠ってと考えればそんな時間になっていてもおかしくはない。だがせっかく都市部に登ってきたのに予定が狂ってしまう。
今日は冒険者仲間に頼まれた物資の買い出しをする予定だったのだ。元々午後からの予定ではあったがもたもたしていたら全て買いきれなくなる。
「で、出るっ。買いだし!」
ばっと立ち上がった勢いで周囲に水が散る。腰がつきりと痛んだが構ってはいられない。おいおい、とレグリスが不満げ声を出した。
「たかが買い物だろ? どうしてもなのか」
言ってくれれば後で送ってやるのにと言うレグリスの態度にグレンは呆れてため息を吐いた。
「ばかやろー、安いけど仲間からの立派な依頼だよっ。そもそもお前に構ってやれる時間はそんなにないって言ってあったじゃねぇか。なのにがっつきやがってこのケダモノ! 風呂は有難いけど、帰ってくるまで大人しく待ってろ!」
えっちらおっちらと水を撥ね飛ばしタオルを探る。どうせグレンは客であるし自分が逗留する間レグリスは家にいると言っていたから、それに甘えて元より片付けなどに気を遣うつもりはさらさらなかった。
「俺だけ変態呼ばわりは酷いんじゃないのか? お前昨日あんなに」
「あーあー聞こえないね! くそ~おっさんとも腕試ししようと思ってたのに時間ないじゃねぇか」
「叩きのめされる予感しかしないからそれは有難いな」
血気盛んな発言にレグリスは背筋がぞっとする。
一度は負けたものの最終的には古代の魔物を討ち取っただけあって、グレンの個人としての力は恐ろしく強い。レグリスは部隊戦なら得意だが、流石に一人であんなに飛んだり跳ねたりできはしない。一対一で勝てるビジョンは正直見えなかった。
それにその様な事になれば昨夜の意趣返しをされるであろうこともわかりきっている。抱き潰しておいて良かったかもしれないと表情筋が引き攣った。
グレンが出ていったことで、型の下まであった湯は胸の下にまで減ってしまって少し肌寒い。半分はみだしていた足を湯船の中にしまって服を纏っていく背中を見守る。膝裏や腰にくっきりと浮かび上がった手の痣をみていると不満に燻る心が少しは癒された。
「明日の午後に帰るんだっけ。午前は多少暇なんだっけか」
「あぁ。で? そこでなら一試合付き合ってくれるって?」
「騎士団で山麓の洞窟で魔物退治をこの前してな」
ちゃぽん、と湯の水を掬い上げる。
「どうもその洞窟の中が熱いってんで探索したら奥で大量の湯が沸いてたんだ。そのままじゃ熱くて入る所じゃなかったが、人を入れて入り口近くまで掘削して湯を通したらちょうどいい温度になって人が入れるようになった。打ち身に効くって医者の話だから騎士団でも訓練の後に時々行くんだよ」
くるりとグレンが振り向く。心なしか興味ありげに揺れた瞳にしめしめと内心ほくそ笑む。
「長湯できるように寝転べるところなんかも協力して作ったりしてな。一時間行くくらいでなかなかちょうどいいんじゃないか。どうだ、行かないか」
「……行く」
返事は思いの外早かった。天然温泉の誘惑には勝てなかったようだ。
「了解。夕飯作って待ってるから、早く帰ってこいよ」
「うっせー。……、体力使わせたんだから、肉多めにしろよな」
「はいよ」
すっかりと情事の痕を服の下に覆い隠した友人がバタバタと部屋を飛び出していく足音をバックにレグリスは明日の予定に胸を躍らせる。
もしかしたら騎士団の知り合いに会ってしまうかもしれんと思ったが、まあその時はその時だ。例の『友人』ですとても紹介しておこうか。
「んん~~っ、いでっ」
ぐっと体を伸ばすと腰がミシリと軋みを発したので、少し張り切りすぎたかと狭い浴槽で腰をさすりながら乾いた笑いを漏らした。
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グレンさんの可愛らしさ尋常じゃないですね!二人のやり取りが好きすぎて何度も読み返してしまいました。続編あるといいなぁ(*´∀`)♪