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長縄跳びは苦手だった
しおりを挟む光浦靖子さんの「50歳になりまして」を読んだ。
芸能全般に疎い私にとって光浦さんは、お笑いの人、手芸の人、わりとズケズケ言っている感じのする人、という印象の人だ。なにかで見たときは泣いていたような気もするのだけれど、あれはなにを見たときのことだったか、くらいの距離感のある人でもある。
なので、おそらく自力では、この本にたどり着けなかっただろう。でも読めた。
たまたま眺めていたInstagramの読了報告で、この本がたびたび登場した。伊坂幸太郎作品とか、有川浩作品とかとおなじくらいの頻度で、私のタイムラインに現れた。これは超絶ヒットしているか、あるいはなんらかの啓示、ということかも。なんて気になったから読んでみた。
うん、読むことができてよかった!
ひとことで言うと、「あ、なんかわかる」が多い、自分語りエッセイだった。自ら行動する人の自分語りは読んだ者に原動力を与える。この本も、ほわんと読み終わるのだけれど、なんだかちょっとやる気が出る。
エッセイの中に長縄跳びについて書かれた部分があり、ちょうど私も少し前に長縄跳びのことが書きたいなと思っていたから、これもタイミングと思って、今これを書いている。
私も長縄跳びが苦手だった。タイミングが取れるように、「ハイっ、ハイっ」っと発せられる掛け声に意識が引っ張られて、身体を動かすタイミングが遅れてしまう。それがわかっているからちょっと早く、なんて考えているといつ入っていいのかわからなくなる。そうして入るのを躊躇していると、入りやすいようにゆっくりおおきく回してくれるのだけれど、変化するスピードにどぎまぎして、最終的にはピシッ、ピシッと縄がコンクリを打つ音が怖くなる。
合わせる、ということが苦手だった。私には私のタイミングがあり、いくら合図をされても、他人のタイミングに合わせるのは難しかった。縄に引っかかってしまうと、申し訳ない気持ちでいっぱいになる。だから長縄跳びには近づかないようにした。
輪の中に入れない。今思えば、長縄跳びに入れないことは、私の性格をぴたりと言い表していたのだ。
変わっている。ちょっとへん。そんなふうに言われることは、大人になるにつれ減った。
皆おなじにしなければならないような機会が滅多になくなったこともあるし、行動範囲が広がることで周りの人たちの多様性は増し、社会の波に揉まれて、なんとなく合っている風な雰囲気だけをまとうことができるようになってもいたからだろう。タイミングが取れずとも、入れずとも、目立たなくなった。
それでも、ときどき長縄跳びの掛け声のような言葉をかけられることがある。合わせることを圧で知らせられることがある。
少し前にもあった。コミュニケーションの機会が減っているから、と、頻繁に電話がかかってきたり、対面での会話を求められたり、たいして仲のいい間柄でも、もっと言ったら仲良くなりたいとも思っていない人からのアクションがある。このとき不意に、私の頭に長縄跳びが思い浮かんだ。
コミュニケーションの機会が減っているのは確かだ。けれどそれゆえに波風立たずなりたつ関係もある。距離をとることで均衡が保たれているということもある。誰もにおなじように声掛けしても、誰もが入れる、入りたいとは限らない。縄には入れと掛け声をかけられても、私は入れない。
エッセイの内容とは少しちがうのだけれど、そんなことを考えていたから、手にした光浦さんの本をわかるって思ったのかもしれない。
長縄跳びは苦手だった。大人になった私は苦手を克服しようとも思っていない。長縄跳びがすべてではない。輪に入れないなら入れないなりに、やりたいことも、できることもある。
長縄とびは苦手だ。だけど苦手なままでいい。
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