上 下
2 / 13

2.秘密の指輪

しおりを挟む
 煌びやかな卒業パーティーが終わりジルリア、アンジェリーナ、フランシーヌが顔を輝かせて家族のサロンに入ってきた。

 ジルリアは婚約者のライラ・ダルア侯爵令嬢を伴なって、アンジェリーナは祖父にフランシーヌは父にエスコートされて。

 フィリパ譲りの金髪に王家のロイヤル・パープルの瞳のジルリアは紺色の礼装。淡い青のクラバットに琥珀のピンを留めている。婚約者のライラの色だ。
 ライラはクリーム色と淡い黄色の縞を織り出した絹地に、淡い紫色のトレーンを引いたローブ・デコルテを纏っている。暗褐色の髪を今夜はふんわりと結い、ジルリアから贈られた紫の花飾りをつけている。淡い青の瞳は輝いている。

 アンジェリーナとフランシーヌは双子だが装いはいつも違う傾向にしている。
 二人共赤みがかった金髪にロイヤル・パープルの瞳。アンジェリーナの髪の方が赤みが濃い。

 今夜のアンジェリーナは白の綾織の絹地に、ラベンダー色の霞のようなチュールをあしらったベルラインのドレス。
 フランシーヌは光沢のある薄紅のサテン生地に、花模様を浮き出したレースを重ねたエンパイアラインのドレス。
「パーティーで着たら、思い出に交換するのよ」
 二人は仕立てる時に楽しそうに言い合っていた。

「三人とも、よく見せておくれ。皆、大きくなったね」
 しみじみとデーティアは三人に見入る。
「今夜のライラはどうだった?ジル。さぞ美しかっただろうね」
 ジルリアが赤くなる。
「ライラはいつでも美しいです」
「おやおや、言うようになったね」
 そう言ってジルリアの頬を撫でる。
 その横でライラが頬を染める。

「ライラ、このヘタレ男を見捨てないでおくれ」
 右手をひらひらさせてデーティアが言う。
「はい、おばあさま」
 笑ってジルリアを見るライラは幸せそうだ。
 ライラはジルリアの正式な婚約者なので、すでに王宮内に私室がある。今夜はこのまま王宮に泊まるのだが、アンジェリーナとフランシーヌに誘われて、三人で夜通し話すのだと言う。

「アンジー、フラニー、この指輪をあげよう」
 デーティアは二人の右手の小指に指輪をはめた。
 それは真ん中に丸い水晶、その両側に真珠母貝を丸く加工したものが嵌められた金の指輪で、すんなり指に馴染んだ。
「何かあったらこれがあたしとの連絡手段になるよ。どんな時でも飛んでいくからね」
 説明を続ける。
「フィランジェ王国で調べられても大丈夫。これには『気にならない』魔法がかけてあるからね」
「気にならない?」
 そうさ。くすくす笑うデーティア。
「ほら、ごらん」
 デーティアの右手の小指にも 同じ指輪がはまっていた。
「『ある』けれど『気にならない』んだよ。指に爪があるのと同じようにごく当然に感じるのさ」
 二人は自分の指の指輪を見た。

「これには三つの秘密があってね」
 指輪の秘密はこうだ。

 まず自分を害するものや悪意のあるものを見分ける。
 人でも物でも指輪をかざして見れば透明な水晶が赤くなるのだ。
 そして毒物を真珠母貝が無効化する。

 二つ目はこの指輪を持つ者同士、どんなに離れていても連絡ができる。
 紙に文字を書いて右手を置けば文字が消える。そうすると瞬時に宛先の者に手紙が届くのだ。
 文字が消えた紙はインクの跡もペンの跡も残らない。
 紙も何もない緊急事態には、魔力を注げばデーティアに思いが届く。

 最後にどうしようもない窮地に陥った時に発動される効果がある。
 空間を移動してデーティアの元に跳べるのだ。

「いいな。おばあさま、わたくしのはないの?」
 ベアトリスが不満そうに強請る。

「どうだったかね?ああ、これか」
 デーティアはさらに五つの指輪をテーブルに置いた。
「欲しいかい?」
「もちろん!」
 ベアトリスは嬉しそうに言って、指輪をデーティアにはめてもらった。

「わたくしもいただきましたのよ」
 シャロンが右手を出す。

「ジル、ライラ、必要だったら持ってお行き。二つ錬成したらいくつ作るのも同じだったからね。そちらの殿方達もどうぞ」
 右手をひらひら振る。

「これがあればアンジェリーナやフランシーヌと連絡が取れるのですか」
 国王のジルリアが指輪を手に取る。
「持っている者達の間でだけね」
「私もいただきます」
 子供達の父親である王太子フィリップが指輪を自分の右の小指にはめる。

「これで後顧の憂いが少し晴れました」
 国王ジルリアも指輪をはめる。
 もちろんジルリアも自分の指にはめ、ライラにの指にもはめる。
「なんだか不思議ですね。はめているのに少しも気にならない」
「そうだろうよ」
 デーティアは笑う。

「エルフの伝手を使ってね、ドワーフが錬成した金を使っているのさ。そこにロナウの北の山の水晶と、南の海岸で穫れた真珠母貝を嵌めて、あたしの魔法で錬成したのがこの指輪だ」
 そういうデーティアにベアトリスが不思議そうに聞く。
「おばあさまがアクセサリーをつけるなんて変な気分。いつもはその首の鎖しか見えないのに。それには何か飾りがついているの?」
「ああ、これかい?」
 デーティアは細い鎖を胸元から引っ張り出した。

 鎖には精緻な金の細工に平たい楕円の水晶が嵌ったものがついていた。
 国王ジルリアが驚いた顔になる。

「そうだよ。これには王家の紋章が裏彫りにされているんだ。あんたの祖父があたしに残したものさ」
 笑って続ける。
「あんまりにも長い間身に着けていたから、体の一部のような気がするけれど…王家に返還しようか?」
「いいえ!大伯母上!」
 国王ジルリアが止める。
「それは大伯母上がお持ちください」

 デーティアはにこっとわらった。
「じゃあ、あたしが死んだら王家に戻るように仕掛けをしておくよ」

「今日は魔法がいっぱいね。いつも魔法で暮らせたら楽しいのに」
 ベアトリスが浮き浮きと言う。

「日々の生活は自分の体でなんとかするのが基本だよ。お忘れかい?忘れたならまた鍛えてあげるよ」
 ベアトリスの目が嬉しそうに輝いた。
「また冬に言ってもいいの!?」
 一同が笑う。
「この子にはおばあさまのことならば、何も罰にならないようですわ」
 ベアトリスの髪を撫でながらシャロンが笑う。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

あなたの秘密を知ってしまったから私は消えます

おぜいくと
恋愛
「あなたの秘密を知ってしまったから私は消えます。さようなら」 そう書き残してエアリーはいなくなった…… 緑豊かな高原地帯にあるデニスミール王国の王子ロイスは、来月にエアリーと結婚式を挙げる予定だった。エアリーは隣国アーランドの王女で、元々は政略結婚が目的で引き合わされたのだが、誰にでも平等に接するエアリーの姿勢や穢れを知らない澄んだ目に俺は惹かれた。俺はエアリーに素直な気持ちを伝え、王家に代々伝わる指輪を渡した。エアリーはとても喜んでくれた。俺は早めにエアリーを呼び寄せた。デニスミールでの暮らしに慣れてほしかったからだ。初めは人見知りを発揮していたエアリーだったが、次第に打ち解けていった。 そう思っていたのに。 エアリーは突然姿を消した。俺が渡した指輪を置いて…… ※ストーリーは、ロイスとエアリーそれぞれの視点で交互に進みます。

裏切りの先にあるもの

マツユキ
恋愛
侯爵令嬢のセシルには幼い頃に王家が決めた婚約者がいた。 結婚式の日取りも決まり数か月後の挙式を楽しみにしていたセシル。ある日姉の部屋を訪ねると婚約者であるはずの人が姉と口づけをかわしている所に遭遇する。傷つくセシルだったが新たな出会いがセシルを幸せへと導いていく。

〖完結〗その子は私の子ではありません。どうぞ、平民の愛人とお幸せに。

藍川みいな
恋愛
愛する人と結婚した…はずだった…… 結婚式を終えて帰る途中、見知らぬ男達に襲われた。 ジュラン様を庇い、顔に傷痕が残ってしまった私を、彼は醜いと言い放った。それだけではなく、彼の子を身篭った愛人を連れて来て、彼女が産む子を私達の子として育てると言い出した。 愛していた彼の本性を知った私は、復讐する決意をする。決してあなたの思い通りになんてさせない。 *設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。 *全16話で完結になります。 *番外編、追加しました。

「お前を妻だと思ったことはない」と言ってくる旦那様と離婚した私は、幼馴染の侯爵から溺愛されています。

木山楽斗
恋愛
第二王女のエリームは、かつて王家と敵対していたオルバディオン公爵家に嫁がされた。 因縁を解消するための結婚であったが、現当主であるジグールは彼女のことを冷遇した。長きに渡る因縁は、簡単に解消できるものではなかったのである。 そんな暮らしは、エリームにとって息苦しいものだった。それを重く見た彼女の兄アルベルドと幼馴染カルディアスは、二人の結婚を解消させることを決意する。 彼らの働きかけによって、エリームは苦しい生活から解放されるのだった。 晴れて自由の身になったエリームに、一人の男性が婚約を申し込んできた。 それは、彼女の幼馴染であるカルディアスである。彼は以前からエリームに好意を寄せていたようなのだ。 幼い頃から彼の人となりを知っているエリームは、喜んでその婚約を受け入れた。二人は、晴れて夫婦となったのである。 二度目の結婚を果たしたエリームは、以前とは異なる生活を送っていた。 カルディアスは以前の夫とは違い、彼女のことを愛して尊重してくれたのである。 こうして、エリームは幸せな生活を送るのだった。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

【取り下げ予定】愛されない妃ですので。

ごろごろみかん。
恋愛
王妃になんて、望んでなったわけではない。 国王夫妻のリュシアンとミレーゼの関係は冷えきっていた。 「僕はきみを愛していない」 はっきりそう告げた彼は、ミレーゼ以外の女性を抱き、愛を囁いた。 『お飾り王妃』の名を戴くミレーゼだが、ある日彼女は側妃たちの諍いに巻き込まれ、命を落としてしまう。 (ああ、私の人生ってなんだったんだろう──?) そう思って人生に終止符を打ったミレーゼだったが、気がつくと結婚前に戻っていた。 しかも、別の人間になっている? なぜか見知らぬ伯爵令嬢になってしまったミレーゼだが、彼女は決意する。新たな人生、今度はリュシアンに関わることなく、平凡で優しい幸せを掴もう、と。 *年齢制限を18→15に変更しました。

挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました

結城芙由奈@12/27電子書籍配信
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】 今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。 「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」 そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。 そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。 けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。 その真意を知った時、私は―。 ※暫く鬱展開が続きます ※他サイトでも投稿中

処理中です...