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13.命の輪と語り継ぐもの《最終話》

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 ヘンルーダは安堵のため息を吐き、ベロニカが封印された骨壺を持参した黒い布で包み、バッグに仕舞いこんだ。

「魔女様、イザベラは無事ですか」
「変わりないよ、ヘンルーダ」
 デーティアが応える。

 三人がデーティアの所へ向かう。
「イザベラは解放されたの?」
 ベアトリスの問いにヘンルーダが応える。
「まだしばらくはかかるでしょう。自分で気づかないといけないのです」
「そんな…」
 ベアトリスの呟きにデーティアが答える。
「百三十年の呪縛に比べたら、気づくまでなんてほんの短い時間だよ」
「そうです」
 ヘンルーダが微笑む。
「アンダーテイカーと私が祈ります。それにこの賑やかな場所ですもの。すぐに気づくでしょう」
 中庭を見渡す。
「イザベラが"命の輪"に還る日はそう遠くはありません」

 四人は王宮の地下墓所へ戻った。

 ヘンルーダはベロニカを封じた骨壺をアンダーテイカーに渡され、ベロニカの日記と呪いの魔法陣の羊皮紙と共に、アンダーテイカーの領分に厳重に保管されることになった。
 ヘンルーダは三人に向き合った。
「ベロニカの記憶が薄れるまで、まだまだ長い時がかかるでしょう。どうか皆様、ベロニカを忘れてください。忘却が彼女にとって最も必要なものなのなのです」
「しばらく忘れられそうにないわ」
 胸を押さえるベアトリスにユージーンが寄り添う。
「公爵家の記録からベロニカを消そう。掘り返して語り継ぐことがないように」
「あたしもビーも、"巻き毛の伯爵令嬢"の話を封印しなければね」
 ベアトリスは自分の髪を撫でながら
「しばらくは鏡を見るたびに思い出しそうだわ」
 と言ってぶるっと震えた。
「私にはこの世の巻き毛はビーただ一人だから大丈夫」
 ユージーンがベアトリスの髪を撫でる。

「覚えていることがベロニカに力を与えてしまうんだよ。ま、あたし達が生きている間はベロニカの忘却は難しいだろうね」
「そのためにアンダーテイカーがいるのです」
 ヘンルーダが体を自分の腕でぎゅっと抱く。
「いつしかあの名簿から、ベロニカ・カタリナの名前が薄れる時、その代のアンダーテイカーが彼女を"命の輪"へ送るでしょう」

 その夜、事の顛末をベアトリスの母親のシャロンと兄のジルリアに報告した。
 そしてデーティアはしみじみと言った。
「人の命はあたしからしたら短いけどね、アンダテイカーの仕事はあたしの命より長く、連綿と続いて行くのさ」

「アンダーテイカーの仕事や思いを次代が、そしてそのまた次代が継いでいく。子供を産むっていうことは命を継いでいくだけじゃない。思いを後の世に繋いでいくんだってこの歳になってわかったよ。永遠を継いでいくんだ」
「おばあさま、子供を産まないことを後悔していらっしゃる?」
 思わず問いかけるベアトリス。デーティアはきっぱりと首を振った。
「いや。あたしは自分の選んだ道を悔いてはいないよ。確かにあたしは命を繋がない。だけど繋いでいくものもあるんだよ」
 ベアトリスの髪を撫でる。
「王家の子供達はあたしの魔法を継いでくれている。記憶もね」
 ベアトリスが驚くほど優しい笑顔だ。

「継いでいくものが負の遺産でないように、あたしは努めるよ」
 遠い目をして呟くデーティア。
「だから」
 ベアトリスとジルリアを見て言葉を繋げた。
「あんたたちは幸せな人生を送っておくれ。いつか"命の輪"に胸を張って還れるようにね。そして」
 デーティアは微笑む。
「あんた達の子孫が、優しい気持ちであんた達を語り継げるようにね」
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