計画的婚約破棄でした

チャイムン

文字の大きさ
上 下
2 / 6

2.薔薇とガーデン・パーティー

しおりを挟む
 シシリア・ベルトラン公爵令嬢がフローレンスのために開いたガーデン・パーティーは、彼女の自慢の薔薇園で開催された。
 ベルトラン公爵家の令嬢が主催ともなれば、招待客はシシリアの独断で選ばれた。

 シシリアやフローレンスと親しい令嬢やその婚約者だ。
 もちろんフローレンスを侮っているエルマーやローラは招待されていない。

「なぜあんなクズ男と婚約を続けるの?グリフィス公爵家なら引く手数多でしょう?」
 シシリアは憤慨していた。フローレンスはシシリアの気持ちを嬉しく思い、少し微笑んだ。
「もうわたくしは十七歳になったから、エルマーが十七歳になる三か月後には婚約解消する予定よ」
 とこっそり耳打ちする。
「できるだけあちら側有責で解消したいの。わかって」
「そうなの!?」
 シシリアはあからさまに嬉しそうな顔をした。

「それよりこれ」
 フローレンスは髪に飾った艶やかな深紅の薔薇にそっと触れた。
「とても綺麗ね。さすが"シシリア"の名前にふさわしい薔薇だわ」

 その薔薇はベルトラン公爵家の庭師が丹精を込めて交配した、「シシリア」と言う名前を冠した新種だった。
 このガーデン・パーティーの招待状を持つ者には、当日一輪ずつこの薔薇を贈られて、参加者は身に着ける趣向だった。

 シシリアは頬を染めて笑った。
「フローレンスの栗色の髪によく映えるわ」
「あら、この薔薇はシシリアの黒髪にあってこそよ」
 二人は笑い合った。

 その時、薔薇園の入り口が騒がしくなった。

「困ります」
 使用人達が立ち騒いでいる。

「うるさい!俺を誰だと思っているんだ!」
 不躾なその声にシシリアの美しい顔が歪む。
「まあ!エルマーだわ。あの恥知らず」

 エルマーは止める使用人達を振り切って、会場に入ってきた。もちろん腕にはローラがぶら下がっている。
 にこにこ笑ってシシリアに近づいて言った。
「招待状はないけれどいいだろう?俺はフローレンスの婚約者だし」
 シシリアは苦虫を噛み潰したような顔を扇で半ば隠した。
「いいえ。あなたは招待しておりません。お帰りください。もちろんそちらのご令嬢も」
「そんなぁ」
 ローラが鼻にかかった不平を唱える。
「そう言ってくれるな。どうしてもローラがこの薔薇園を見たいと言ったんだから」
「ではもうご覧になったのだからお帰りを」
 取り付く島もなくシシリアが扇て出入り口を指す。

 ぐわっとエルマーの顔が歪む。
「フローレンス!!」
 矛先がフローレンスに向かった。
「お前はどこまでも心が狭いんだ!いつも不遇なローラが可哀想だと思わないのか」
 思うものですか。
 心の中で呟いたが、フローレンスは扇に顔を埋めるだけだ。

「招待客を決めたのはわたくしよ!わたくしの薔薇を身に着けた方だけのお茶会ですの。さあ、薔薇を持たない方はお帰りになって!」
 シシリアは激高寸前だ。

「薔薇…」
 エルマーは周りを見回す。
 皆、髪や胸に深紅の薔薇を飾っている。もちろんフローレンスの髪にも。
「この薔薇があればいいんだな」
 そう言ってエルマーはフローレンスへ迫る。

 まさかとフローレンスは思ったが、引いた体を逃がすまいとエルマーは彼女の髪を引っ掴み、飾られた薔薇をむしり取った。
 会場の誰もがどよめき、立ち上がった。

 そんな周囲の様子に気づかず、エルマーは奪い取った薔薇をローラの髪に飾る。
 その瞬間シシリアは扇でローラの髪に飾られた薔薇を弾き飛ばした。

「わたくしの大切なお友達になんという無体を!!」
 髪をいきなり鷲掴みにされ、勢いよく放されたフローレンスは頽れてしまっていた。
 すぐに立ちあがって体勢を立て直したフローレンスは決意した。

 誰が円満な婚約解消をしてやるものか!手酷い婚約破棄をしてやるわ!

「誰か!この無礼者二人を放り出して!二度とベルトラン公爵家への立ち入りを禁じるわ!!」
 二人は何かをわめいたが、護衛に連れ出された。

 フローレンスの周りに招待客が集まり、彼女を労わった。

 残念ながらベルトラン公爵家のガーデン・パーティーはこれてお開きにならざるを得なかったが、フローレンスにとっては多くの目撃者を得た結果となった。

 今般の騒ぎは、フローレンスへの無体だけではなく、たかが弱小伯爵家の三男と子爵家の娘の、ベルトラン公爵家への無礼なのだ。

 数日のうちに噂はそこここに広まること間違いない。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

聖女アマリア ~喜んで、婚約破棄を承ります。

青の雀
恋愛
公爵令嬢アマリアは、15歳の誕生日の翌日、前世の記憶を思い出す。 婚約者である王太子エドモンドから、18歳の学園の卒業パーティで王太子妃の座を狙った男爵令嬢リリカからの告発を真に受け、冤罪で断罪、婚約破棄され公開処刑されてしまう記憶であった。 王太子エドモンドと学園から逃げるため、留学することに。隣国へ留学したアマリアは、聖女に認定され、覚醒する。そこで隣国の皇太子から求婚されるが、アマリアには、エドモンドという婚約者がいるため、返事に窮す。

【短編完結】地味眼鏡令嬢はとっても普通にざまぁする。

鏑木 うりこ
恋愛
 クリスティア・ノッカー!お前のようなブスは侯爵家に相応しくない!お前との婚約は破棄させてもらう!  茶色の長い髪をお下げに編んだ私、クリスティアは瓶底メガネをクイっと上げて了承致しました。  ええ、良いですよ。ただ、私の物は私の物。そこら辺はきちんとさせていただきますね?    (´・ω・`)普通……。 でも書いたから見てくれたらとても嬉しいです。次はもっと特徴だしたの書きたいです。

お姉様は嘘つきです! ~信じてくれない毒親に期待するのをやめて、私は新しい場所で生きていく! と思ったら、黒の王太子様がお呼びです?

朱音ゆうひ
恋愛
男爵家の令嬢アリシアは、姉ルーミアに「悪魔憑き」のレッテルをはられて家を追い出されようとしていた。 何を言っても信じてくれない毒親には、もう期待しない。私は家族のいない新しい場所で生きていく!   と思ったら、黒の王太子様からの招待状が届いたのだけど? 別サイトにも投稿してます(https://ncode.syosetu.com/n0606ip/)

虚偽の罪で婚約破棄をされそうになったので、真正面から潰す

千葉シュウ
恋愛
王立学院の卒業式にて、突如第一王子ローラス・フェルグラントから婚約破棄を受けたティアラ・ローゼンブルグ。彼女は国家の存亡に関わるレベルの悪事を働いたとして、弾劾されそうになる。 しかし彼女はなぜだか妙に強気な態度で……? 貴族の令嬢にも関わらず次々と王子の私兵を薙ぎ倒していく彼女の正体とは一体。 ショートショートなのですぐ完結します。

お母様と婚姻したければどうぞご自由に!

haru.
恋愛
私の婚約者は何かある度に、君のお母様だったら...という。 「君のお母様だったらもっと優雅にカーテシーをきめられる。」 「君のお母様だったらもっと私を立てて会話をする事が出来る。」 「君のお母様だったらそんな引きつった笑顔はしない。...見苦しい。」 会う度に何度も何度も繰り返し言われる言葉。 それも家族や友人の前でさえも... 家族からは申し訳なさそうに憐れまれ、友人からは自分の婚約者の方がマシだと同情された。 「何故私の婚約者は君なのだろう。君のお母様だったらどれ程良かっただろうか!」 吐き捨てるように言われた言葉。 そして平気な振りをして我慢していた私の心が崩壊した。 そこまで言うのなら婚約止めてあげるわよ。 そんなにお母様が良かったらお母様を口説いて婚姻でもなんでも好きにしたら!

断罪されたので、私の過去を皆様に追体験していただきましょうか。

下菊みこと
恋愛
悪役令嬢が真実を白日の下に晒す最高の機会を得たお話。 小説家になろう様でも投稿しています。

【短編完結】記憶なしで婚約破棄、常識的にざまあです。だってそれまずいって

鏑木 うりこ
恋愛
お慕いしておりましたのにーーー  残った記憶は強烈な悲しみだけだったけれど、私が目を開けると婚約破棄の真っ最中?! 待って待って何にも分からない!目の前の人の顔も名前も、私の腕をつかみ上げている人のことも!  うわーーうわーーどうしたらいいんだ!  メンタルつよつよ女子がふわ~り、さっくりかる~い感じの婚約破棄でざまぁしてしまった。でもメンタルつよつよなので、ザクザク切り捨てて行きます!

断罪される前に市井で暮らそうとした悪役令嬢は幸せに酔いしれる

葉柚
恋愛
侯爵令嬢であるアマリアは、男爵家の養女であるアンナライラに婚約者のユースフェリア王子を盗られそうになる。 アンナライラに呪いをかけたのはアマリアだと言いアマリアを追い詰める。 アマリアは断罪される前に市井に溶け込み侯爵令嬢ではなく一市民として生きようとする。 市井ではどこかの王子が呪いにより猫になってしまったという噂がまことしやかに流れており……。

処理中です...