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第23章:桶狭間の戦闘状況が全然正史と違う【桶狭間の戦い】

大胡水軍作っちゃえ!

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 遂に相模の海を手に入れた大胡。
 どのような水軍が作られていくのか?

 ◇ ◇ ◇ ◇

 1556年4月下旬
 駿河国今川館
 今川義元
(宰相亡くしてさらに三国同盟叶わず外交力低下中)


 あ奴、雪斎とはだいぶ違うの。

 蹴鞠や連歌等で儂に取り入り、今川を北条再興のために動かそうとしておるのが見え見えじゃ。幻庵の奴、見破られているのが分かっているじゃろうが、それすらも利用してくる。
 確かに氏照殿を手中に収めていることは、今後の対大胡戦略の上で有利となろうこと必定。

 氏照自身も才気あふれる者と見た。
 相模へ討ち入る際には有用な旗頭じゃ。

 しかし今暫しは大胡への侵攻などお預けじゃ。
 というか必要性を最初から見い出せぬ。

 既に伊豆は手に入れた。
 湯ヶ島の砂金採集は順調。

 それが分かっていように、此度の三河一向宗蜂起の手柄の褒美にと小田原城の攻略に兵を貸せと言うてきた。

 小田原城は堅城じゃ。
 しかし如何せん、そこを守る兵がいない。
 大胡もそうそう兵を割けぬ様子。
 そこへ内応があれば成功率は高くなろう。

 一旦落としてしまえば今川の兵を誘引、守備することで維持は出来よう。

 それは分かる。
 じゃがそれをして今川はなんの得がある?

 三河を手に入れ、尾張を手に入れる。

 これが既定路線。相模など手に入れても意味がない。
 精々権威としての鎌倉の八幡宮が魅力的なだけ。

 畿内に近く、広い濃尾の肥沃な平野の生産力に勝るものでは到底ない。勝幡も魅力的じゃ。

 ……しかし、大胡の政賢という男。
 戦だけではなく外交も鬼手を使いおる。
 まさか織田と縁組をするとは思わなんだ。

 しかも全くそのそぶりも見せぬうちにするりと縁組した後、更に時を置かず幻庵が氏照旗揚げの報を流して旧北条家臣団を動揺させたにもかかわらず、それを押さえるために氏政の妹をすぐに側室にするとは。

 これで今川の味方は、周りでは武田しかおらぬことが確定してしまった。
 それらの敵が堅固な結びつきを持っておる。
 切り崩すのはまずは不可能。

 いくら堺から銭が来ても動かす兵がいないのでは、らちが明かぬ。
 逆に、こちらへ調略の手が伸びておる。
 一番多く入っていたのが三河だったが、これを幻庵の奴が一向宗を使って潰した。
 これは確かにありがたい。

 だが今度は一向宗への対応が思いやられる。
 もう元康では押さえられぬであろう。

 水軍にも調略が入っている。
(伊丹)康直などが怪しい。
 政賢をおめおめと駿河湾を通すばかりか、焼津に上陸させるとは。
(葛山)氏元も同心しているやもしれぬ。

 こうなると打つ手が限られてくる。
 葛山かつらやまが怪しいとなると、駿河には最低3000程度は配備しておかねば危うい。
 西に出るにせよ東を掠めるにせよ、駿府を取られては元も子もない。

 動かせる兵は12000程度か。
 三河の兵は3000程度。
 全く当てにならぬのが一向宗の30000。
 これでは大胡へ対するに、10000程度しか使えぬ。
 武田は出兵できたとしても1000以下であろう。

 問題は里見じゃな。
 あ奴は信用できぬ。
 見事、武田の梯子を外しおった。

 何が目的じゃ? 
 時間稼ぎにしては時が悪すぎように。

 此度は銭で釣る算段をしているが無理であろう。
 しかし武田が踏ん張ったおかげで大胡は大分すり減ったらしい。
 火薬が危険な程、減っているとの調べも届いている。

 政賢という男。
 兵を大事にするという。

 敵には鬼神の様じゃが味方には仏のようであると。
 という事は、無理な戦はせぬであろう。

 であるならば今のうちに伊豆と箱根を要害化し、西へ全力で討って出るのが
 正解であろう。
 幻庵が美濃を織田とを敵対させると言うておったが、そうそううまくいくとは限らぬ。

 やはり雪斎の巧みさが惜しまれる。
 同じ坊主でもこうも違うとはの。

 いや、後がない者と今川という大身を背負うている者の違いか。
 貧すれば鈍すよ。

 ◇ ◇ ◇ ◇

 1556年4月下旬
 韮山城
 葛山氏元
(この人の悪口言っちゃダメ!)


 義元殿から足柄と湯河原に城を作れと言われて、早1年。

 とりあえず、本丸と大手門だけは作った。
 だが他は作っていない。

 誰が作るかよ。
 どうせまた勢力地図が書き換えられるのに、銭費やして『俺にとって』必要でない城を自前で作らせようとする魂胆が気に入らぬ。

 動向定かならぬ俺故、その力を弱めようっていうんだろ? 
 逆だよ、そういう扱いをするから裏切るのさ。
 ちゃんと手元に置いておきたければ、それなりの情勢を作れって。

 こんな端境にいる国衆なんぞ、情勢判断でコロコロ転ぶのは、この戦乱の世の習いだ。

 俺だってな、謀反を企てられないようなしっかりとした態勢で守られていれば、こんなに忠誠心が薄いとか言われぬ態度を取ってやる。

 だからと言って転封など命令されたら、それこそ謀反だ!

 俺はここが好きなんだよ。
 この穏やかで美しい富士が見える駿河が!


 大胡から調略を持ちかけられた。

 領地をくれてやるとか銭をくれてやると言って来るかと思ったら、謀反をしなくともいい世をくれてやる、と言うてきた。

 ははは。

 良く見抜いていやがる。
 少し心が靡いたぜ。

 だが「領地は安堵できない」と来た。
 何考えてやがる? 
 そんなんで調略になるかよ。
 
 と思ったよ。
 だがその翌月にこんな手紙が来た。

『葛山氏が未来永劫、土地の者に慕われる仕事をしませんか? 
 銭は出します。
 代わりに駿河を日本一住みやすい場所にしましょう。
 支配者ではなく土地の者に愛される指導者になってみませんか?』

 なんだか、全く違う文体で全く違う考えに触れた。

 だから政賢という男に会った。
 引き込まれた。

 その考えに。
 その情熱に。
 それに従う者の表情に。

 だから調略を受けると言った。

 あそこであいつをひっ捕らえて御屋形様に突き出せば一郡くらい貰えたのかもしれないが、そんな場所、ここに比べたら天と地との差があるだろう。

 俺は駿河が大好きだ。

 ◇ ◇ ◇ ◇

 1556年4月下旬
 相模国小田原
 伊丹康直
(実は上野に縁がある今川の水軍指揮官)


 儂の関船のともに3人の漢が揃った。

 儂はともかく、他の2人も潮焼けをした肌の色で水軍の者であること、見誤ろうはずもない。

「これで伊勢湾から相模湾まで儂らの海じゃな」

 伊勢から相模までを股にかけて活躍している、半分水軍半分商人の梶原景宗殿が胸を張って言う。

「そうじゃな。大胡の庇護下にあるが、儂らの海であることには変わりがない」

 伊勢湾の覇者、佐治為景殿が沖を見渡しながら、これまた胸を逸らして大きく息を吸い込みながら、海の男らしい皴枯れ声で確かめるように声を出す。

「して、此度の積荷が房総の奴らに気づかれぬように尾張まで届けられる手配は済んだか?」

 儂は此度の会談で最重要な話題を切り出す。

「ああ。房総の奴ら、大胡の殿の策略にまんまと嵌められたわ。関白殿の叱責の使いをもてなす間は動けぬわ。大胡の調略は痛いところを突くのう。全ての船を使える」

 そう。

 儂らの長距離航海が出来る120隻余りの船にて、一気にこの小田原から大胡の兵3500を熱田まで運ぶ。
 あくまでも極秘裏に、という厳命じゃ。

 成功すれば『笑いが止まらぬ船』を作らせてくれるそうじゃ。
 銭よりうれしいの。
 儂らは海で生活する。
 じゃから銭よりも船の方が大事。
 陸の上の大名はそれを理解せぬ。

 大胡の殿はなぜそのことを知っているのかは知らぬが、船じゃ。

 新しき船じゃ。
 図面だけ見ただけでも心が騒いだわ。

 作りたいの。
 無性に作りたい。

 だから成功させるんじゃ。
 この大輸送作戦を。

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