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第7章:最初の首取りです!

あくまで人を小馬鹿にする

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 1548年8月30日巳の刻(午前10時)
 赤石砦東正面
 三ツ木弘敏(那波家足軽大将。右翼迂回部隊)


 そろりそろりと雑木林を進む。
 下生えに何かが隠されていて罠にかかるのはかなわん。手槍で足元を探りながら足軽が先頭を進む。手斧を持つ者もいる。

 ここは赤石砦東方を流れる粕川西岸に沿って南北に伸びる草叢くさむらと雑木林の中だ。

 儂の備えは、この茂みに沿って北上し、砦東門を守備する敵後方に出ることが目的じゃ。そして東門の守備隊を南北から挟み撃ちにして、東門を攻略する。
 若しくは、そのまま素通りして北門を狙うこともあるやもしれぬ。
 東門南部で腰を据えている殿を軸として、左回り(反時計回り)で包囲する形となる。

 見える敵は200。
 これを700で包囲だ。

 主になる柵の前方に出ている敵の備えは、殆どが長柄を立てて防備を固めている。その後ろに弓兵でもいるのであろう。馬出しの部分だけ柵は二重となっている。左右の矢倉には、10名も上がれないだろう。

 勝った、と思った。
 しかしそれは早計であった。

「申し上げます。
 前方雑木林。黒松の多いところで鉄の縄が無数に張ってあります。
 切れませぬ!」

 やはり、仕掛けがしてあったか。

「罠はないか?」
「いいえ。近寄っても何も見つけられません」

 これは、ここは通さない! 
 見えるところに出て行け!! 
 という事か。

 左は西の砦から3町、荒れた田畑が広がり丸見えになっている。
 これは殿に報告後、指示を待つか。

 多分遊兵化しないように、叢を出て右翼に合流することになろう。



 ◇ ◇ ◇ ◇

 同日同刻
 赤石砦東正面南東矢倉から15間(30m)
 那波宗俊(結構焦っている北条勢右翼700の指揮官)


 使い番が最右翼の前進が不可能なことを伝えてきた。
 鉄の縄が張り巡らされている?

 どうやって? 

 という疑問は、今はおいておく。これで回り込んでの伏撃はできなくなった。右翼に合流せよと使い番を返す。
 砦内部は土塁に囲まれ見通せないが、あの東門に200が配置されているという事は、

 正面に300から400。
 西と北にそれぞれ50で100。

 700が配備されているわけだから、総動員しても1200程度である大胡だ。後詰がないことは確認してあるから本城などの留守居に100置いておくとして、あと400がまだ確認されていない。

 それが砦内部にいる本隊か?
 それとも別動隊が外にいるか?


 わからぬ。
 殆どの物見が帰ってこなかった。

 それでも強引に城攻め(フンッ! たかが砦攻めだがな)を開始したのは、もうすぐ刈り入れ時だからだ。儂の都合に合わせておるのじゃから、ここはなんとしても一番乗りせねばならぬ。

 あと四半刻で完全に包囲できる。

 なるべく叢などに隠れるよう移動するため時間がかかる。これならば同じ速さになるかもしれない。矢盾を持っての移動をした方がよかったか。

 儂の陣取る場所を旋回軸としての移動だから、先の三ツ木の備えが遅れている。
 儂がここに陣取ったのは、こちらに目を向けさせ右翼の移動に気取られぬようにと考えていたが、これも裏目に出たか?

 その時、左の上の方から声が聞こえてきた。
 でかい声じゃ。

「おお~。
 そこに見えるのは、赤石城を由良ちゃんに取られそうになって燃やして逃げちった臆病……
 おっと失礼、腰に羽が生えているくらい軽~い、那波宗俊殿じゃぁないですかぁ?
 どうせならここまで飛んできたらいかがかな~。ここには大将である大胡の政賢様がおられますよ~♪」

 あ奴。大胡の松風か!?
 大男に負ぶられて、大見栄を切っておる。
 阿呆か?

「人に負ぶさって言うセリフではないのう! 松風の坊主!
 登ったはいいが、高いので怖くなり降りてこれなくなったか。
 もうすぐ戦が始まる。戦の間、そこで指をしゃぶりながら見ておれ!
 経験の浅いガキの作戦と本当の戦い方の違いを見せてくれる!!」

「ああ、これね。
 今度はおんぶされなくても見られるように台を作るね。その時もう那波くんは、相手にならないけど。だって地獄に送ってあげちゃっている後だから~♪」

 くっ、言葉合戦か。
 相手は口から生まれてきたという噂もある童だ。
 かなわん。と思っていると、

「那波ちゃんの相手をするのに、矢はもったいないなぁ。これでも喰らって倒れていてね~」

 いつの間に大男の背中から降りたのか、前をはだけた松風が矢盾の間から尿いばりをし始めた。

 ぬぉお!

 そこまで人を小馬鹿にするか??
 さらには、尻をまくり尻をこちらに向けて、ペンペン音を立ててはたきおった!!

「ええい! 弓兵、あの小僧を必ずや射殺せ!」

 矢が何本も飛ぶが、その時には矢盾の隙間は塞がれており、顔だけ少し、上から出されたり引っ込んだりしている。

「火矢だ、火矢を射かけて、燃やせっ!」

 火矢を射かけても先ほどの矢もそうであったが、矢盾にはじき返される。

 くそっ! 
 あの矢盾は鉄で出来ているのか?
 こうなったら矢倉ごと引き倒してくれるっ!!

「縄を持て! かぎ爪で引き倒せ!!」

 今度は縄が何本も伸びるが、先ほどの大男がすかさず切り捨ている。何本か足桁に掛かるが全く微動だにしない。どうやら柱にも所々鉄が使われているらしい。

 そうこうするうちに、敵もこちらに向けて矢を放ち始める。

 儂の兜にも当たった。矢盾に隠れて指揮をすることになる。矢倉は弓兵で牽制しながら、突撃を繰り返させるか。

 既に南では戦が始まったらしい。こちらも前進を開始する号令を掛ける。

 いよいよ憎っくき大胡の陣を崩壊させる時が来た。


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