101 / 101
R
しおりを挟む
オルレアンの連れ子を大学の保育所にいったん預け、ニームは図書館の中の個室を一室借りた。個人の研究室を持っている助教授のニームがわざわざ学生も往来するような学内施設をつかうことはあまりないことだったが、怪しまれるほどのことでもない。保育所でもとくに不審に思われることもなかった。学内関係者の身分を提示すれば保育士は子どもを預かるしかないし、教授職はそのなかでも権威ある立場だった。保育士は保育所にかよう教授たち以外とと接点もたないし、ニームがそこをはじめておとずれても、奥さんに用事があって、しかたなく子どもを預かるしかなくなった教授のひとりくらいにしかみられていないようだった。
「きみのことは耳に入っていたよ。あんな田舎町でも新進気鋭な医者の話は入ってくるものなんだ。ましてや、その医者の出身地であればなおさらだろう」
オルレアンはまるで学校の教室で話していたときと同じように話した。一方、ニームはもう二度そのときには戻れないだろうと思いながら話した。
「ぼくにはブラーヴのことはしばらく耳に入ってこなかった。ぼくの両親もこっちに呼んでしまったからね」
「こんな都市にきみのような若さで親に家をプレゼントするなんてそうそうできることではない。ぼくがいうのも気が引けるくらいだが、きみはたいしたひとだと思うよ」
「ぼくなんて、運がよかっただけさ」ニームは運によしあしなんてないと思いながら、そういった。よしあしではなく、ただそうなるしかなかったから運なのだ。ニームはブラーヴにはもういられなくなった。でも、独力でブラーヴを飛び出るだけの元手がなかった。だからダンケルクに依存するしかなかった。依存を強めるしかなかった。ニームはブラーヴの学校を即日退学し、ダンケルクのいわば門下に入り、医学を学んだ。ダンケルクを崇拝するニームの両親を説得するのは難しいことではなかった。むしろ彼らのほうが率先してそれを進めようとした。
しかしもちろん、ニームは医者になりたかったわけではなかった。ニームが欲していたのはブラーヴからの脱出だった。ニームはそのためにダンケルクを利用した。ずっと利用され続けていたダンケルクをはじめてニームが利用したのだった。
「きみの専門をぼくなんかの凡人が理解することはできないんだろうね」オルレアンは感心するようにそういったが、オルレアンは過去についてお互いの理解を深めるような議論は無意味だとあらかじめ腹に決めてきているようだった。実際、そんなことは無意味だ。なぜブラーヴを去ったのだと、そんなことをたずねられてもなんの意味もない。
「きみのことは耳に入っていたよ。あんな田舎町でも新進気鋭な医者の話は入ってくるものなんだ。ましてや、その医者の出身地であればなおさらだろう」
オルレアンはまるで学校の教室で話していたときと同じように話した。一方、ニームはもう二度そのときには戻れないだろうと思いながら話した。
「ぼくにはブラーヴのことはしばらく耳に入ってこなかった。ぼくの両親もこっちに呼んでしまったからね」
「こんな都市にきみのような若さで親に家をプレゼントするなんてそうそうできることではない。ぼくがいうのも気が引けるくらいだが、きみはたいしたひとだと思うよ」
「ぼくなんて、運がよかっただけさ」ニームは運によしあしなんてないと思いながら、そういった。よしあしではなく、ただそうなるしかなかったから運なのだ。ニームはブラーヴにはもういられなくなった。でも、独力でブラーヴを飛び出るだけの元手がなかった。だからダンケルクに依存するしかなかった。依存を強めるしかなかった。ニームはブラーヴの学校を即日退学し、ダンケルクのいわば門下に入り、医学を学んだ。ダンケルクを崇拝するニームの両親を説得するのは難しいことではなかった。むしろ彼らのほうが率先してそれを進めようとした。
しかしもちろん、ニームは医者になりたかったわけではなかった。ニームが欲していたのはブラーヴからの脱出だった。ニームはそのためにダンケルクを利用した。ずっと利用され続けていたダンケルクをはじめてニームが利用したのだった。
「きみの専門をぼくなんかの凡人が理解することはできないんだろうね」オルレアンは感心するようにそういったが、オルレアンは過去についてお互いの理解を深めるような議論は無意味だとあらかじめ腹に決めてきているようだった。実際、そんなことは無意味だ。なぜブラーヴを去ったのだと、そんなことをたずねられてもなんの意味もない。
0
お気に入りに追加
2
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子
ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。
Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。
隣の席の女の子がエッチだったのでおっぱい揉んでみたら発情されました
ねんごろ
恋愛
隣の女の子がエッチすぎて、思わず授業中に胸を揉んでしまったら……
という、とんでもないお話を書きました。
ぜひ読んでください。
お嬢様、お仕置の時間です。
moa
恋愛
私は御門 凛(みかど りん)、御門財閥の長女として産まれた。
両親は跡継ぎの息子が欲しかったようで女として産まれた私のことをよく思っていなかった。
私の世話は執事とメイド達がしてくれていた。
私が2歳になったとき、弟の御門 新(みかど あらた)が産まれた。
両親は念願の息子が産まれたことで私を執事とメイド達に渡し、新を連れて家を出ていってしまった。
新しい屋敷を建ててそこで暮らしているそうだが、必要な費用を送ってくれている以外は何も教えてくれてくれなかった。
私が小さい頃から執事としてずっと一緒にいる氷川 海(ひかわ かい)が身の回りの世話や勉強など色々してくれていた。
海は普段は優しくなんでもこなしてしまう完璧な執事。
しかし厳しいときは厳しくて怒らせるとすごく怖い。
海は執事としてずっと一緒にいると思っていたのにある日、私の中で何か特別な感情がある事に気付く。
しかし、愛を知らずに育ってきた私が愛と知るのは、まだ先の話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる