91 / 101
H
しおりを挟む
「アルルお嬢様は?」ニームは念のためそうたずねた。
「きみにいったとおりだよ。彼にさらわれた。奪われた。アルルの部屋を開けたら、もう彼らは去った後だったよ」
ニームはダンケルクのその言葉を聞いて、ほっと息を吐き出す自分を認めた。ニームはアルルの無事をきいて安心する自分を素直に喜ばしく感じていた。
「きみは彼のことを知っていたのかね」こんどはダンケルクがニームにそうたずねた。
「知っていたとは、その」
「彼がアルルを連れ出そうとしていたことだよ」
「知っていたといえば知っていたでしょうけど、ぼくは知らなかったと、できることならそういいたいです」
「はっきりしないな」
「はっきりとしていなかったのです。今なら、わりとはっきりしているのですが」
「きみが私に彼のことを忠告したのは、きみが彼のことを知っていたからではないのかね」
「そのあたりが、ぼくのはっきりとしてなかった所以なのだと思います」ニームはそこで言葉を切ったが、続けた。「ぼくかはっきりしていなかったことも、先生がオルレアンを疑うことができなかったことも、すべて彼自身がななも知らなかったせいなのでしょう。彼が先生と会ったとき、彼はお嬢様のことさえ知らなかったのですから」
ニームのその言葉を、ダンケルクは冷静に受け止めて、そして観念したように笑った。
「裏庭の防空壕か」
「ええ」ニームはごまかさずにそう認めた。「すべてはぼくがまねいたことなのです。先生とパスィヤンス病院を誰よりも守りたいと願っていたぼくが、皮肉にも、パスィヤンス病院と先生を窮地に追い込んでしまったのです」
「過ぎたことをいってもしかたがない」ダンケルクはニームから身体をそむけると、書棚にむかい、手当たり次第に棚から本を抜き出しては、床につみあげていった。その中のほんの一部はダンケルクの机の上に大切に置かれたが、それ以外のほとんどは、まるでゴミのように扱われていた。
「なにをされているのですか?」ニームは信じがたそうに眉間にシワをよせて、そうきいた。
「知れたこと」ダンケルクは手を休めることなくこたえた。「この病院は後任に引き渡す。私は経営にはかかわるが、医者として治療に従事するのはこれまでだ。私はもう患者はみない」
ダンケルクの言葉にニームが絶句していると、ダンケルクはそれをみてニヤリと笑った。「自分のせいだと思っているのなら、それは思い上がりというものだよ、きみ」
「え?」ニームは驚きの声をあげた。ダンケルクが自分をかばおうとしているのか。
「きみにいったとおりだよ。彼にさらわれた。奪われた。アルルの部屋を開けたら、もう彼らは去った後だったよ」
ニームはダンケルクのその言葉を聞いて、ほっと息を吐き出す自分を認めた。ニームはアルルの無事をきいて安心する自分を素直に喜ばしく感じていた。
「きみは彼のことを知っていたのかね」こんどはダンケルクがニームにそうたずねた。
「知っていたとは、その」
「彼がアルルを連れ出そうとしていたことだよ」
「知っていたといえば知っていたでしょうけど、ぼくは知らなかったと、できることならそういいたいです」
「はっきりしないな」
「はっきりとしていなかったのです。今なら、わりとはっきりしているのですが」
「きみが私に彼のことを忠告したのは、きみが彼のことを知っていたからではないのかね」
「そのあたりが、ぼくのはっきりとしてなかった所以なのだと思います」ニームはそこで言葉を切ったが、続けた。「ぼくかはっきりしていなかったことも、先生がオルレアンを疑うことができなかったことも、すべて彼自身がななも知らなかったせいなのでしょう。彼が先生と会ったとき、彼はお嬢様のことさえ知らなかったのですから」
ニームのその言葉を、ダンケルクは冷静に受け止めて、そして観念したように笑った。
「裏庭の防空壕か」
「ええ」ニームはごまかさずにそう認めた。「すべてはぼくがまねいたことなのです。先生とパスィヤンス病院を誰よりも守りたいと願っていたぼくが、皮肉にも、パスィヤンス病院と先生を窮地に追い込んでしまったのです」
「過ぎたことをいってもしかたがない」ダンケルクはニームから身体をそむけると、書棚にむかい、手当たり次第に棚から本を抜き出しては、床につみあげていった。その中のほんの一部はダンケルクの机の上に大切に置かれたが、それ以外のほとんどは、まるでゴミのように扱われていた。
「なにをされているのですか?」ニームは信じがたそうに眉間にシワをよせて、そうきいた。
「知れたこと」ダンケルクは手を休めることなくこたえた。「この病院は後任に引き渡す。私は経営にはかかわるが、医者として治療に従事するのはこれまでだ。私はもう患者はみない」
ダンケルクの言葉にニームが絶句していると、ダンケルクはそれをみてニヤリと笑った。「自分のせいだと思っているのなら、それは思い上がりというものだよ、きみ」
「え?」ニームは驚きの声をあげた。ダンケルクが自分をかばおうとしているのか。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
ある日仕事帰りに神様の手違いがあったが無事に転移させて貰いました。
いくみ
ファンタジー
寝てたら起こされて目を開けたら知らない場所で神様??が、君は死んだと告げられる。そして神様が、管理する世界(マジョル)に転生か転移しないかと提案され、キターファンタジーとガッツポーズする。
成宮暁彦は独身、サラリーマンだった
アラサー間近パットしない容姿で、プチオタ、完全独り身爆走中。そんな暁彦が神様に願ったのは、あり得ない位のチートの数々、神様に無理難題を言い困らせ
スキルやらetcを貰い転移し、冒険しながらスローライフを目指して楽しく暮らす場を探すお話になると?思います。
なにぶん、素人が書くお話なので
疑問やら、文章が読みにくいかも知れませんが、暖かい目でお読み頂けたらと思います。
あと、とりあえずR15指定にさせて頂きます。
美少女に転生して料理して生きてくことになりました。
ゆーぞー
ファンタジー
田中真理子32歳、独身、失業中。
飲めないお酒を飲んでぶったおれた。
気がついたらマリアンヌという12歳の美少女になっていた。
その世界は加護を受けた人間しか料理をすることができない世界だった
名前を書くとお漏らしさせることが出来るノートを拾ったのでイジメてくる女子に復讐します。ついでにアイドルとかも漏らさせてやりたい放題します
カルラ アンジェリ
ファンタジー
平凡な高校生暁 大地は陰キャな性格も手伝って女子からイジメられていた。
そんな毎日に鬱憤が溜まっていたが相手が女子では暴力でやり返すことも出来ず苦しんでいた大地はある日一冊のノートを拾う。
それはお漏らしノートという物でこれに名前を書くと対象を自在にお漏らしさせることが出来るというのだ。
これを使い主人公はいじめっ子女子たちに復讐を開始する。
更にそれがきっかけで元からあったお漏らしフェチの素養は高まりアイドルも漏らさせていきやりたい放題することに。
ネット上ではこの怪事件が何らかの超常現象の力と話題になりそれを失禁王から略してシンと呼び一部から奉られることになる。
しかしその変態行為を許さない美少女名探偵が現れシンの正体を暴くことを誓い……
これはそんな一人の変態男と美少女名探偵の頭脳戦とお漏らしを楽しむ物語。
【完結】虐げられた令嬢の復讐劇 〜聖女より格上の妖精の愛し子で竜王様の番は私です~
大福金
ファンタジー
10歳の時、床掃除をしている時に水で足を滑らせ前世の記憶を思い出した。侯爵家令嬢ルチア
8さいの時、急に現れた義母に義姉。
あれやこれやと気がついたら部屋は義姉に取られ屋根裏に。
侯爵家の娘なのに、使用人扱い。
お母様が生きていた時に大事にしてくれた。使用人たちは皆、義母が辞めさせた。
義母が連れてきた使用人達は私を義母と一緒になってこき使い私を馬鹿にする……
このままじゃ先の人生詰んでる。
私には
前世では25歳まで生きてた記憶がある!
義母や義姉!これからは思い通りにさせないんだから!
義母達にスカッとざまぁしたり
冒険の旅に出たり
主人公が妖精の愛し子だったり。
竜王の番だったり。
色々な無自覚チート能力発揮します。
竜王様との溺愛は後半第二章からになります。
※完結まで執筆済みです。(*´꒳`*)10万字程度。
※後半イチャイチャ多めです♡
※R18描写♡が入るシーンはタイトルに★マークをいれています。
幼馴染み達が寝取られたが,別にどうでもいい。
みっちゃん
ファンタジー
私達は勇者様と結婚するわ!
そう言われたのが1年後に再会した幼馴染みと義姉と義妹だった。
「.....そうか,じゃあ婚約破棄は俺から両親達にいってくるよ。」
そう言って俺は彼女達と別れた。
しかし彼女達は知らない自分達が魅了にかかっていることを、主人公がそれに気づいていることも,そして,最初っから主人公は自分達をあまり好いていないことも。
【書籍化】家に住み着いている妖精に愚痴ったら、国が滅びました【決定】
猿喰 森繁
ファンタジー
【書籍化決定しました!】
11月中旬刊行予定です。
これも多くの方が、お気に入り登録してくださったおかげです
ありがとうございます。
【あらすじ】
精霊の加護なくして魔法は使えない。
私は、生まれながらにして、加護を受けることが出来なかった。
加護なしは、周りに不幸をもたらすと言われ、家族だけでなく、使用人たちからも虐げられていた。
王子からも婚約を破棄されてしまい、これからどうしたらいいのか、友人の屋敷妖精に愚痴ったら、隣の国に知り合いがいるということで、私は夜逃げをすることにした。
まさか、屋敷妖精の一声で、精霊の信頼がなくなり、国が滅ぶことになるとは、思いもしなかった。
裏アカ男子
やまいし
ファンタジー
ここは男女の貞操観念が逆転、そして人類すべてが美形になった世界。
転生した主人公にとってこの世界の女性は誰でも美少女、そして女性は元の世界の男性のように性欲が強いと気付く。
そこで彼は都合の良い(体の)関係を求めて裏アカを使用することにした。
―—これはそんな彼祐樹が好き勝手に生きる物語。
♪イキイキさん ~インフィニットコメディー! ミラクルワールド!~ 〈初日 巳よっつの刻(10時30分頃)〉
神棚 望良(かみだな もちよし)
ファンタジー
「♪吾輩(わあがはあい~)は~~~~~~ ♪一丁前(いっちょおうまええ)の~~~~~~ ♪ネコさんなんだもの~~~~~~
♪吾輩(わあがはあい~)は~~~~~~ ♪一丁前(いっちょおうまええ)の~~~~~~ ♪ネコさんなんだもの~~~~~~
♪吾輩(わあがはあい~)は~~~~~~ ♪一丁前(いっちょおうまええ)の~~~~~~ ♪ネコさんなんだもの~~~~~~」
「みんな、みんな~~~!今日(こお~~~~~~んにち~~~~~~わあ~~~~~~!」
「もしくは~~~、もしくは~~~、今晩(こお~~~~~~んばん~~~~~~わあ~~~~~~!」
「吾輩の名前は~~~~~~、モッチ~~~~~~!さすらいの~~~、駆け出しの~~~、一丁前の~~~、ネコさんだよ~~~~~~!」
「これから~~~、吾輩の物語が始まるよ~~~~~~!みんな、みんな~~~、仲良くしてね~~~~~~!」
「♪吾輩(わあがはあい~)は~~~~~~ ♪一丁前(いっちょおうまええ)の~~~~~~ ♪ネコさんなんだもの~~~~~~
♪吾輩(わあがはあい~)は~~~~~~ ♪一丁前(いっちょおうまええ)の~~~~~~ ♪ネコさんなんだもの~~~~~~
♪吾輩(わあがはあい~)は~~~~~~ ♪一丁前(いっちょおうまええ)の~~~~~~ ♪ネコさんなんだもの~~~~~~」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる