うさぎ穴の姫

もも

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 後ろから殴りつけるということは、現実にはなかなか難しい。足音を立てないように歩こうとしても、猫でもない限り、音を消し去るまでにはいかない。それが成功するには、殴ろうとする相手が寝入ってしまっているか、耳をふさいでいるか、あるいは、堂々と音を立てても相手の背後に近づけるくらい、音が立つのが自然な状態に自分の身を置くかのどちらかである。つまり、オルレアンはいま眠っていないのだから、その相手はいったんオルレアンに自分の存在を気づかせ、オルレアンが油断したところをおそうしかない。だからその相手が妖精か風でもない限り、オルレアンの目の前に現れることはわかっていた。
 そうしてオルレアンが歩いている先に、見覚えのある青年の陰が立っていた。その陰に近づいていくと、その青年は振り向き、感激したような表情でオルレアンをみた。そして、「オルレアン!そこにいたのか!よかった!」とオルレアンを抱きしめんといわんばかりに走り近づいて、叫んだ。「心配してたんだぞ!」
 ニームは偶然をよそおって現れた。しかし偶然というのは奇妙に思えるくらい、そこはあたりになにもない単なる道の往来だったし、ニームの顔はひどく青ざめてみえた。ニームは明らかにオルレアンを待ち伏せしていた。
 オルレアンはため息をついて、いった。
「きみか」
「きみかって」ニームは一瞬、絶句してみせた。「きみはなんでそんなに冷静なんだ。こっちの気もしらずに!」
 そういうニームの言葉は真剣そうな真実味を帯びていた。ニームの表情も鬼気迫るようすにみえた。オルレアンは束の間自分の考えを疑ったが、すぐにその疑念を振り払った。
「きみはぼくのことをずいぶん心配してくれていたようだが」オルレアンはニームの白々しさに憎々しく思った。
「そりゃあ心配するさ。穴の中にもぐっていったと思ったら、いつまでも出てこない。声をかけても返事はしない。あとについて防空壕にぼくがもぐってみたら、君の姿は神隠しのようになくなっている。防空壕にもぐるようにそそのかしたのはぼくだ。心配もしたし、自分を強く責めたよ。それがおかしいとでもいうのかい?」
 ニームのその言葉はどうやら本当のようだった。ニームの靴は防空壕にもぐったときと同じものをはいているようで、そこには赤土が付着していた。それはオルレアンの靴や服や手に付着しているものと同じもののようだった。
 オルレアンはまるでオルレアンの蒼白が自分の顔に伝染するように感じた。






 
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