38 / 101
オルレアン、ニームに案内される。
しおりを挟む
「ところで、君」オルレアンは呼び止められたついでに、ニームに聞いた。「今夜泊まれるところはあるだろうか。せっかくここまで来たのだから、一晩待って、その先生に診てもらおうと思うのだけれど」
「うーん、そうですね」ニームはそう言って、あごに指を置いた。「うちに泊めて差し上げますられたらよいのですが、客間などない狭い家なのです」
ふつうこれくらい小さな子どもだと、地元の宿場など知らないものである。そもそも地元の人間は宿場など帰る家があるのだから宿場など使わない。オルレアンもそれがどこにあるか知らない。オルレアンにとっては、自分の家に帰れたらそれが一番よかったが、それができるはずもなかった。闇夜にまぎれれば、庭に侵入し、穴から自分の時代に戻ることもできないわけではなかったが、それに賭ける危険以上に、アルルになにか一言言わなければ元の時には戻れないような気分にオルレアンはなっていた。
「まあ、いいや。なんとか探してみせるさ」
オルレアンがそう言って立ち去ろうとすると、ニームはまたオルレアンを呼び止めた。
「ぼく、泊まれるところ知っています。そこでよければご案内します」
「ここから近いのかい」
「ええ。なにしろ、そこの足の悪い婆さんが、この病院まで歩いて来られる距離なのですから」
「なるほど」
オルレアンが自分の案を了承したと判断したニームはオルレアンを先行して歩き出した。
「でも、申し訳ないですけれども、宿泊代が法外に高いのです。この町など、外部から訪れる要人や商人や旅人なほとんどないのですから。あなたのように、先生の評判を聞いて、他に術もなくこの町を訪れた病人たちが利用するくらいしか宿泊客がいないので、その数少ない客から、ありったけの金をふんだくろうとするのです。決まった料金なんてないですよ。もし不幸にも、あなたがひと月ぶりの客だとすれば、婆さんひと月ぶんの生活費を請求されることでしょう」
「弱ったなあ。ぼくはほとんどお金を持っていないのだよ」オルレアンは、ほとんどどころではなく、全くお金を持っていなかった。
「あの婆さんにどれくらいの良心があるかわかりませんが、あなたのそのありのままの姿を見せれば、あるいは同情を引けるかもしれません」
オルレアンはニームに言われて自分の姿を見たが、電灯のない、月明かりのもとでは、よく見えなかった。「ぼくはそんなにひどい格好をしていたかい?」
ニームは苦笑いしたようにくすりと笑い、「ええ、まあ」と遠慮がちに言った。
「うーん、そうですね」ニームはそう言って、あごに指を置いた。「うちに泊めて差し上げますられたらよいのですが、客間などない狭い家なのです」
ふつうこれくらい小さな子どもだと、地元の宿場など知らないものである。そもそも地元の人間は宿場など帰る家があるのだから宿場など使わない。オルレアンもそれがどこにあるか知らない。オルレアンにとっては、自分の家に帰れたらそれが一番よかったが、それができるはずもなかった。闇夜にまぎれれば、庭に侵入し、穴から自分の時代に戻ることもできないわけではなかったが、それに賭ける危険以上に、アルルになにか一言言わなければ元の時には戻れないような気分にオルレアンはなっていた。
「まあ、いいや。なんとか探してみせるさ」
オルレアンがそう言って立ち去ろうとすると、ニームはまたオルレアンを呼び止めた。
「ぼく、泊まれるところ知っています。そこでよければご案内します」
「ここから近いのかい」
「ええ。なにしろ、そこの足の悪い婆さんが、この病院まで歩いて来られる距離なのですから」
「なるほど」
オルレアンが自分の案を了承したと判断したニームはオルレアンを先行して歩き出した。
「でも、申し訳ないですけれども、宿泊代が法外に高いのです。この町など、外部から訪れる要人や商人や旅人なほとんどないのですから。あなたのように、先生の評判を聞いて、他に術もなくこの町を訪れた病人たちが利用するくらいしか宿泊客がいないので、その数少ない客から、ありったけの金をふんだくろうとするのです。決まった料金なんてないですよ。もし不幸にも、あなたがひと月ぶりの客だとすれば、婆さんひと月ぶんの生活費を請求されることでしょう」
「弱ったなあ。ぼくはほとんどお金を持っていないのだよ」オルレアンは、ほとんどどころではなく、全くお金を持っていなかった。
「あの婆さんにどれくらいの良心があるかわかりませんが、あなたのそのありのままの姿を見せれば、あるいは同情を引けるかもしれません」
オルレアンはニームに言われて自分の姿を見たが、電灯のない、月明かりのもとでは、よく見えなかった。「ぼくはそんなにひどい格好をしていたかい?」
ニームは苦笑いしたようにくすりと笑い、「ええ、まあ」と遠慮がちに言った。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
今日の授業は保健体育
にのみや朱乃
恋愛
(性的描写あり)
僕は家庭教師として、高校三年生のユキの家に行った。
その日はちょうどユキ以外には誰もいなかった。
ユキは勉強したくない、科目を変えようと言う。ユキが提案した科目とは。
💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活
XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。
W-score
フロイライン
恋愛
男に負けじと人生を仕事に捧げてきた山本 香菜子は、ゆとり世代の代表格のような新入社員である新開 優斗とペアを組まされる。
優斗のあまりのだらしなさと考えの甘さに、閉口する香菜子だったが…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる