うさぎ穴の姫

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オルレアン、ニームに案内される。

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「ところで、君」オルレアンは呼び止められたついでに、ニームに聞いた。「今夜泊まれるところはあるだろうか。せっかくここまで来たのだから、一晩待って、その先生に診てもらおうと思うのだけれど」
「うーん、そうですね」ニームはそう言って、あごに指を置いた。「うちに泊めて差し上げますられたらよいのですが、客間などない狭い家なのです」
ふつうこれくらい小さな子どもだと、地元の宿場など知らないものである。そもそも地元の人間は宿場など帰る家があるのだから宿場など使わない。オルレアンもそれがどこにあるか知らない。オルレアンにとっては、自分の家に帰れたらそれが一番よかったが、それができるはずもなかった。闇夜にまぎれれば、庭に侵入し、穴から自分の時代に戻ることもできないわけではなかったが、それに賭ける危険以上に、アルルになにか一言言わなければ元の時には戻れないような気分にオルレアンはなっていた。
「まあ、いいや。なんとか探してみせるさ」
オルレアンがそう言って立ち去ろうとすると、ニームはまたオルレアンを呼び止めた。
「ぼく、泊まれるところ知っています。そこでよければご案内します」
「ここから近いのかい」
「ええ。なにしろ、そこの足の悪い婆さんが、この病院まで歩いて来られる距離なのですから」
「なるほど」
オルレアンが自分の案を了承したと判断したニームはオルレアンを先行して歩き出した。
「でも、申し訳ないですけれども、宿泊代が法外に高いのです。この町など、外部から訪れる要人や商人や旅人なほとんどないのですから。あなたのように、先生の評判を聞いて、他に術もなくこの町を訪れた病人たちが利用するくらいしか宿泊客がいないので、その数少ない客から、ありったけの金をふんだくろうとするのです。決まった料金なんてないですよ。もし不幸にも、あなたがひと月ぶりの客だとすれば、婆さんひと月ぶんの生活費を請求されることでしょう」
「弱ったなあ。ぼくはほとんどお金を持っていないのだよ」オルレアンは、ほとんどどころではなく、全くお金を持っていなかった。
「あの婆さんにどれくらいの良心があるかわかりませんが、あなたのそのありのままの姿を見せれば、あるいは同情を引けるかもしれません」
オルレアンはニームに言われて自分の姿を見たが、電灯のない、月明かりのもとでは、よく見えなかった。「ぼくはそんなにひどい格好をしていたかい?」
ニームは苦笑いしたようにくすりと笑い、「ええ、まあ」と遠慮がちに言った。





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