うさぎ穴の姫

もも

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オルレアン、少年ニームに出会う。

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 自分が本来住む元の時に戻るためには、出てきた穴にもう一度戻らなければならない。オルレアンは自分がこちら側に飛び移った、ダンケルク家の敷地の角のところまで回って戻ったが、家側からこちら側に飛び移るには不足のなかった堀と塀のわすがな空間は、こちらからあちらに飛び移る着地場所にするにはいささか頼りなかった。やもりのように少ない足場に着地しながら、おのれの手で塀をつかみ、身体ごと塀に自分をうまく預けられたらよいが、堀に落ちてしまってはしょうがない。この堀の砂質は、それを目的としているのだから当然だったが、水はけのよいサラサラとした細粒で、いわばひとを生け取りにするアリ地獄のようだった。オルレアンはこれをダンケルクがひとりで掘ったのならたいしたものだと感心したが、たしか、もともと防空壕に使われていたあの穴も、戦争の時にその当時の敷地の主によって掘られたものであるとあの老婆が言っていたから、この堀もダンケルクが掘ったものではなくて、この堀に目をつけて、ダンケルクがこの敷地に病院を建てたと考えたほうが自然のように思えた。おそらくこの敷地は戦争時、軍のなんらかの施設だったのだろう。そこを選んでダンケルクが病院を建てたということは、周囲から見れば確かに酔狂で奇妙なことだったかもしれないが、自ら家の敷地の周囲を物好きに掘るよりは、その理解の及ばぬ行動にも雲泥の差があるというものである。ダンケルクにとっては、実は庭の防空壕は目的でななくおまけであって、本当の目的はこの堀のほうだったのかもしれない。
 ブラーヴの市民がこの堀に落ちて出られなくなっても、親切な市民や警察に救い出されて、注意されるか笑い話で済むことだろうが、ブラーヴの市民では目下なくなってしまっているオルレアンはこの堀に落ちるわけにはいかない。
 オルレアンは家の周囲をぐるりと戻って、家の正面まできた。ダンケルクが家を空けているのだから当然だったが、今日の診療はもう終わっていた。これでは患者のフリをして家の敷地に入って、庭への抜け道を探すこともままならい。
 オルレアンがそうして途方に暮れていると、家の中から肩を落とした少年が歩き出てくるのにはたと鉢合わせた。少年ニームだった。
「病院に御用ですか?」ニームはオルレアンを見上げてそう言った。自分の腰のあたりからこちらを仰ぎ見るニームは、いつにない愛嬌のある仕草にオルレアンには感じられたが、ぼおっとそれを眺めているわけにもいかなかったので、オルレアンは斜めに顔を背けた。


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