うさぎ穴の姫

アルル、涙を流す。

「ぼくにはわかりません！」ニームは混乱したようだった。「お嬢様は、自分がこの部屋に閉じ込められていることに、自分の病気は関係ないとおっしゃった。しかし、自分が病気であるという事実のために、閉じ込められているともおっしゃる。これは矛盾ではないですか？！」
「つまりね、私の病気はなんだっていいのよ」アルルの態度はまるで優れた教師のようであった。「私の病気がもし日光を浴びないと死んでしまうような病だったとしても、私の病気が完治しないのであれば、私は世間の目に触れるわけにはいかないの。わかる？」
「納得できません！お嬢様に日の光が栄養になるならば、太陽に当ててあげるのが医者の役目であり、先生が医者の指使命に背くことはないでしょう！」
「私はそのあなたの大好きな先生のために、お父様の権威を守るために孤独でいるのよ！」
そのとき、アルルの冷静さが一瞬崩れたように、オルレアンに見えた。それはまるで氷でできた城の塔が崩れようとする軋みの音のようであった。「医者の娘の病気が治らないなんて、医者が娘の病気を治せないなんて、そんな滑稽な話はないじゃない」アルルは溶けた氷の水滴のような涙を目から流したが、それをなかったことにするようにすぐにぬぐった。「私は心臓の病気なの。心臓が脈を打つと、パタパタと風が心臓のひだをなでるような音がするの。私はずっとこの乾いた音を身体の中から聞いている。お父様は私が産まれてすぐ聴診器を私の胸に当てた時からこの音を聞いてきている。赤ん坊の泣き声が天使の福音ならば、私の胸の音は、さしづめ冥界の王が馬車に乗って地上に現れた悪魔の汽笛かしら」アルルはそう言って、皮肉っぽく笑った。
「それはお嬢様が外に出られないことになるのですか？お嬢様の心臓はその負担に耐えられないのでしょうか」
ニームの疑問はもっともだとオルレアンは思った。アルルはそれは愚問であると言わんばかりに、乾いた笑いを口元に浮かべた。
「私の心臓が強いか弱いか。私にもわからないわ。試したことがないもの。確信がないときに、どちらの行動を取るか。楽観的か悲観的か。お父様はそんな呑気なひとではないわ。もしそれで私が倒れるようなことがあったら、お父様は自分の娘の体調すら把握できない医者の汚名をかぶることになるもの。そんなひとのもとにわざわざ診察を受けにくる患者なんているかしら」
アルルはニームを試すようにそう言ったが、オルレアンはもしそれが不治の病か難病ならば、治らない責任はアルルにもダンケルクにもないように思えた。オルレアンはダンケルクに下された診断をむやみに疑ったりはしないだろう。しかし、誰よりもダンケルクを名医と盲目的に崇めていたニームには、ダンケルクが隠匿してきた事実が、その根幹を揺るがすものとしてとらえられているようであった。
「ぼくは、お嬢様のためになにができるでしょうか」ニームはようやくアルルの言葉を真実だと認めたようでそう言ったが、ニームのそのしょげた様子では、アルルのためになにかをしても全く役に立ちそうにはオルレアンには思えなかった。