うさぎ穴の姫

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オルレアン、老婆に再会する

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 オルレアンはパスィヤンス病院についての確かな噂を手に入れた。それはダンケルクと旧知のあの老婆から仕入れた情報なのだから間違いない。老婆はうさぎ穴という言葉から、うさぎ穴そのものではないけれども、たしかにパスィヤンス病院の裏手に人が入れるくらいの穴があることを思い出したと言うのだった。
 老婆はオルレアンが放課後、学校を出たところでオルレアンを待っていた。ブラーヴには学校がいくつかしかないとはいえ、オルレアンがなぜこの学校にいるのか知っていたのかについてはなにも言わなかった。あるいは、ブラーヴのあらゆる学校を練り歩いたのかもしれないけれど、足の悪い老婆にそれは無理だろうとオルレアンは思い直した。
 老婆との再会を喜んだオルレアンは老婆を見かけると自分から近づいて行った。
「やあ。お元気でしたか」
「見ての通り、この歳になると毎日不健康さ」老婆はそう言って笑った。「あれからうさぎは見つかったかね」
 オルレアンは首を横に振った。「ぼくはあのあと素晴らしいことを考えつきました。初等教育学校に行けばいいのです。初等学校ではたいていうさぎを飼っていますからね」
「なるほどね。それで」
「はい。うさぎはどこにもいませんでした。やはりブラーヴからうさぎは消えてしまったようです」
「しかし、うさぎが消えてしまった理由は、学校で管理されていたうさぎならばわかっているのではないか」
「ぼくもそう思いました。ブラーヴにある10の初等学校全部回って話を聞いてきました。そうしたら誠に不思議な話を聞かされました」
「満月の晩に、月の光にでもさらわれたりしたか」
 老婆はそう軽口を叩いたが、オルレアンは真面目だった。
「うさぎが消えた理由はそのようなファンタジーなものではなくて、いたって現実的な理由でした。つまりどこの学校でもたまたま同じ性別のうさぎしかいなかったのです。うさぎは多産ですから、学校の人たちはみな子どもが産まれないことに気づいていました。でも増えすぎたほうがよほど困るし、もし今のうさぎが死んでしまったら、子どもが増えすぎて困っている学校から譲り受ければいいと、全ての学校がみな同じことを考えながらこの何年かを過ごしてしまったのです。そしてこれもまた不思議なことに、学校で飼育されていたうさぎたちがみな同じときに寿命を迎えたのです。譲ってもらえるうさぎは学校にもそして自然にも、そのときにはどこにもいなくなってしまっていました」
「それのどこが現実的かね。こっちのほうがよっぽどファンタジーだ」老婆は冷静に、そう批判した。
「しかし、誰かが人の手を加えて、うさぎをブラーヴから消し去ったのではないということは明らかに思えます」
「わからんぞ。誰かが同じ年齢のうさぎばかりを、性別が同じになるように組み合わせて移し替えたのかもしれない」
「誰がそんなめんどうなことをするでしょうか」
「そんなことは私に聞かれても困る。だいたいお主こそ、町中の学校を回るなんてめんどうなこと、どうしてしたのか説明できるのかね」
「たしかにそれは無理そうです」
「時に常人には理解できないことをする者がいたりするんだ」
「なるほど。説得力がありますね」オルレアンはそう言ってのんきに笑った。
「」
















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