7 / 7
最終話 穏やかな冬風
しおりを挟む
シュッ。
自宅の洗面所前にて、薄水色のネクタイを締める。
今日は営業同行で、大口の客層相手にプレゼンをしなければならない。
「(今年、最後の大勝負だな)ふぅ」
軽く息を突くと、肩に温かくて小さな指が触れる。
「トシ、糸くずが」
「サンキュ、真」
振り返ると、家庭的な姿の真と目線を合わせて、笑う。
――真と繋がった日から、俺達は恋人同士になり、同棲という形で俺の家に住んでいる。
結局、真のアパートはご両親の力も借りて退去した。
「(それより、真の性別が変わった説明が本当に大変だったなぁ)……よっと」
おじさんは倒れるは、おばさんはなぜ早く連絡しなかったと怒鳴り散らすは、姉さんはなぜかハイテンションだはで――。
「トシ。緊張してる?」
玄関まで見送りに来てくれた真が、小さく首を傾げる。
「あ、いや。全然――っ」
そうじゃない、っと苦笑して振り返ると一瞬、柔らかく温かいものが当たる。
「届いたぁ」
全力背伸びで唇が触れ合い、満足気に笑う真は。
「帰ったら続きだゾ」
「――そのつもりだよ」
そう言うと、柔らかな髪を撫でる。
気持ちよさそうにする真を、優しく抱きしめる。
「もうすぐクリスマスだな」
まさか真と過ごすクリスマスが、こんなに楽しみになるなんて、数ヶ月前までは頭をよぎりもしなかった。
「うん――あ、当日はサンタコスでエッチしてあげるから」
ミニスカでね?
などと照れもせずに悪戯っぽく笑う。
「……辛抱できませんな」
もう一度、軽くキスして玄関の扉を開ける。
――チュンチュン。
冬晴れの風は冷たく、俺の頬を撫でるも、心の中は灯った暖炉みたく優しく、穏やかであった。
「行ってきます」
「行ってらっしゃい」
――幸せはの定義は人それぞれと思う。
けど、実在すると、真が教えてくれた。
今度は俺が、確かに掴んだ今を、大切にしていきたい。冬の弱い、だが眩しい陽光が街を照らす中、力強く歩き始めた。
俺一人の力じゃない、小さな一歩を踏みしめて。
自宅の洗面所前にて、薄水色のネクタイを締める。
今日は営業同行で、大口の客層相手にプレゼンをしなければならない。
「(今年、最後の大勝負だな)ふぅ」
軽く息を突くと、肩に温かくて小さな指が触れる。
「トシ、糸くずが」
「サンキュ、真」
振り返ると、家庭的な姿の真と目線を合わせて、笑う。
――真と繋がった日から、俺達は恋人同士になり、同棲という形で俺の家に住んでいる。
結局、真のアパートはご両親の力も借りて退去した。
「(それより、真の性別が変わった説明が本当に大変だったなぁ)……よっと」
おじさんは倒れるは、おばさんはなぜ早く連絡しなかったと怒鳴り散らすは、姉さんはなぜかハイテンションだはで――。
「トシ。緊張してる?」
玄関まで見送りに来てくれた真が、小さく首を傾げる。
「あ、いや。全然――っ」
そうじゃない、っと苦笑して振り返ると一瞬、柔らかく温かいものが当たる。
「届いたぁ」
全力背伸びで唇が触れ合い、満足気に笑う真は。
「帰ったら続きだゾ」
「――そのつもりだよ」
そう言うと、柔らかな髪を撫でる。
気持ちよさそうにする真を、優しく抱きしめる。
「もうすぐクリスマスだな」
まさか真と過ごすクリスマスが、こんなに楽しみになるなんて、数ヶ月前までは頭をよぎりもしなかった。
「うん――あ、当日はサンタコスでエッチしてあげるから」
ミニスカでね?
などと照れもせずに悪戯っぽく笑う。
「……辛抱できませんな」
もう一度、軽くキスして玄関の扉を開ける。
――チュンチュン。
冬晴れの風は冷たく、俺の頬を撫でるも、心の中は灯った暖炉みたく優しく、穏やかであった。
「行ってきます」
「行ってらっしゃい」
――幸せはの定義は人それぞれと思う。
けど、実在すると、真が教えてくれた。
今度は俺が、確かに掴んだ今を、大切にしていきたい。冬の弱い、だが眩しい陽光が街を照らす中、力強く歩き始めた。
俺一人の力じゃない、小さな一歩を踏みしめて。
0
お気に入りに追加
10
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
女子高生は卒業間近の先輩に告白する。全裸で。
矢木羽研
恋愛
図書委員の女子高生(小柄ちっぱい眼鏡)が、卒業間近の先輩男子に告白します。全裸で。
女の子が裸になるだけの話。それ以上の行為はありません。
取って付けたようなバレンタインネタあり。
カクヨムでも同内容で公開しています。
好きになった子は小学生だった⁈
はる
恋愛
僕には好きな人がいる。勇気を出してデートに誘った。
待ち合わせ場所にいたのはまさかの小学生⁈
しかもその小学生がまたやばいやつすぎて僕には手に負えないよ……
高校生と小学生の禁断の恋
先生!放課後の隣の教室から女子の喘ぎ声が聴こえました…
ヘロディア
恋愛
居残りを余儀なくされた高校生の主人公。
しかし、隣の部屋からかすかに女子の喘ぎ声が聴こえてくるのであった。
気になって覗いてみた主人公は、衝撃的な光景を目の当たりにする…
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
女の子にされちゃう!?「……男の子やめる?」彼女は優しく撫でた。
広田こお
恋愛
少子解消のため日本は一夫多妻制に。が、若い女性が足りない……。独身男は女性化だ!
待て?僕、結婚相手いないけど、女の子にさせられてしまうの?
「安心して、いい夫なら離婚しないで、あ・げ・る。女の子になるのはイヤでしょ?」
国の決めた結婚相手となんとか結婚して女性化はなんとか免れた。どうなる僕の結婚生活。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる