養父失格

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四話 愛液は血よりも濃い

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「パパ。ニュース見た?」
 翌日の夜であった。特に意味もなく点けていたテレビを眺める久美が、急に話題を振ってくる。
「――あぁ。廃園した遊園地で、女の人が二人見つかった事件だろ」
「そうそう。怖いねぇ」
 ここ最近、取り立てて目新しい事件が無かったためか、ピックアップされた事案であった。確かに異常な事件ではありそうだが、こっちは昨日の出来事のせいで、関心を持つ余裕など無かった。
 久美は僕のリアクションの薄さを、仕事の疲労のためと勘違いしたのか、
「お疲れ様。パパ」
「うん――」
 もちろん疲れていた。ここしばらくで一番と言えるほどに。
 コップ半分ほど残っているビールは温く、気が抜けたような味であった。
「大丈夫?」
 机の対面から、久美が大きな瞳を覗かせてくる。
「う、うん。大丈夫だよ……」
 五感が久美を知覚するつど、昨晩の出来事オナニーが脳裏にて再生された。それ以来、久美とどう接すれば良いかわからなかった。
「新しい仕事でも任されたの?」
 隣にやってきて座る久美は、セーターにミニスカートという男受けしそうな格好で、不思議そうに小首を傾げる。
「――まぁ、無いこともないけどね」
「じゃあ、ご近所問題?」
 そう言いつつ、眺めに袖を持ち、そっと僕の腕を掴む。
「今更だね」
「なら、私の学校の成績?」
 やがて腕を軽く抱きしめてくる。
「そこまでは、心配してない、かな?」
 久美は視線を切り、僕の腕を深く抱きしめる。まるで寄りかかるように。
「それなら……」
 僕は目を見開く。僕の手首から先をミニスカートの中へ誘導するように引っ張り、そして――、
「昨晩の自慰オナニーのこと?」
 流し目で、だが確信をもった、まるで久美のではないような表情で見上げてくる。
「く、み?」
 息が詰まるように言葉が漏れ出る。
 太腿で僕の腕を挟み込み、身体全体を使って抱きしめてくる。
「気づいていたよ? パパが寝たふりをしていたのも。パパの大事なところが――」
 きてたのも。
「!」
 ドックン、ドックン。
 心臓がバクバク言い出す。全身が熱く、耳の中が血液の流れる音でうるさい。
「ねぇ、パパ」
 ふっ、と耳に息を吹きかけてくる。一瞬だけ涼しいが、膨張する熱がそれらを瞬時に打ち消す。
 ――今、この腕を振りほどかないと、おそらく取り返しの付かないことになる。妻にも合わせる顔が――、
「一緒にお風呂はいろうよ。昔みたいに♪」
「……」
 さぁ、今すぐその腕を振れ、飯塚秀一。今しなければ、永遠にできなくなる!
 グニッ。
「なっ」
 久美が手を伸ばした先には――、
「ココ、苦しそうだよ? パパぁ」
 僕の肉棒ナニが、嬉々とした弾力で、養女くみの細い指を押し返す。
「……あっ」
 今、確信した。自分は猿か何かと大差ない、あるいはそれ未満の薄汚れた下等生物なのだと。僕の盛り上がった部分を、久美はジーパンの上から優しく何度も撫でた。
 久美はまるで欲しいものが手に入った子供のような、あるいは獲物を捕まえた肉食獣のように、あるいは――、
「早くお風呂入って、キレイキレイしよ? ――あっ、でもぉ」
 最愛の異性を、完璧に追い詰められた、人間の女のように、
「逆にヨゴレちゃったりして? フフッ」
 小さく嗤った。



 シャアアア。
 シャワーの設定温度が少し高めのため、早々に湯気が浴室を満たす。
「ささっ、座ってパパぁ」
 拒絶のタイミングなどとっくにっしているのは重々承知だが、せめて無言のまま従った。
 浴室鏡を正面に、僕が座り、背後に久美が立て膝をついた。
「じゃあ、背中を洗ってあげるね」
「――」
 当然ながら目を瞑る。鏡越しに、久美の整った裸体を見ないために、そして不甲斐ない自分から目を背けるために。ボディーソープのポンプを押す音と、手が泡を揉む音が小さく響く。
「なっ!」
 ハンマーで頭を叩かれたような驚きにより、思わず目を開く。背中が感じた感触は、柔らかで、温かく、だが硬い小さな何かが、媚びるように肩甲骨の辺りを擦っているといったものであった。
「――ンッ。どう? パパ。ァ、きもち、イイ?」
 首筋に深い官能の息を吐きかけられ、ゾクゾクと毛が逆立つ。
「く、み。おま、え」
 僕の背中を洗っているのは、スポンジでも手でもなく、久美のであった。まるで風俗ソープ嬢のような媚笑と嬌声と共に、泡と身体にくで拭き続けた。
「パパ、だけ、ッ、サービス、ン、だよぅ?」
 発展途上だが、すでに充分な大きさの乳房は、まるで生き物のように揺れ、そして背中を這い回った。温かさと滑めらかさの奇妙な二重奏が、僕の理性を一つ二つといやらしく、丸呑みしていった。
 二十四ふたまわり以上も年が離れている養女むすめに、こんなことをされて、怒りに震えなければならない僕は――、
 ググッ、グググ。
 だが、久美の硬くなった乳首が背中にて折れ曲がるつど、甘い溜息がうなじに当たるたびに、
「パパのもぉ、硬くぅ、なってきたぁ」
 ――僕は、本当に最低だ。
「パパぁ、こっち向いてぇ」
 ……意志を放棄して、久美の言葉に従った。なぜなら、こんな愚かで下品な僕が、養父ちちとして彼女にナニかを言う権利なんて、あるはずもなかったからだ。
 振り返る中、僕は酷く弱ったように肩も視線も腕をも落とした、――たった一ヶ所の例外を除いて、
肉棒パパが私で元気になるなんて、本当に夢みたい」
 天井めがけて、肉棒ソイツはそそり立っていた。息巻くように血管をみなぎらせたソレは、小刻みに震えている。
「触っていいよね? えへへ~」
 悪戯っぽく笑うと、髪を耳の後ろへそっと直して。
「あ~ん」
 チュブ、レロ。
「――はっ?」
 温かくて柔らかい感触が、亀頭に絡みつく。濡れた粘着物は、尿道口や雁首を優しく舐め這い、たまに下品な音を立てては唾液ごと啜った。
「く、みっ」
 肉棒にドンドンと血が送られると、筋肉が締め上げられるように力づく。目の下で、長年連れ添った養女むすめが、嬉々として僕の肉棒ペニスをしゃぶるという異常事態なのに、――なのにっ。
 ジュル、チュボ。
 久美はアイスを頬張る子供ように、だが愛おしく舐め吸う。
「ジュポ。――パパぁ、気持ちイイ?」
 その瞳は無垢な、あるいは振り切った狂気そのものであり、僕を射貫くように見上げてくる。
 そして、肉棒は青筋をてて悦び、かつてないほどに収縮していた。
「うふっ、か~わいい」
 やがて久美は犬のように舌を這わせ、陰茎みきを細い指で擦っていた。その痴態を視界から消すため、目を瞑ろうとする僕へ、
「ダメだよパパ。ちゃんと視てよ」
 目がこじ開けられる。
 久美は僕の目線を合わせたまま、鼻先で陰茎を擦る。その絵面に、吐きそうになる僕は、
「なぜ、なんだ? 久美。僕の、せいなのか?」
 その問いかけに対して、意味がわからない、といった感じに大きな瞳を何度も瞬かせる。
「ナニを言っているの? パパ」
 今日、初めて久美の慌てた声を聞いた気がした。その微かな揺らぎに、一縷いちるの望みがあるように思えたが――、
「パパは私のものだよ? ただ、それだけの話」
 ズキン。さっきから頭のどこかが痛む。
「あたしのことをいつも一番に考えてくれて、気を遣ってくれて、優しくしてくれる……そんなひと、血が繋がってないなら好きになるに決まってんじゃん」
「僕は、養父ちちとして――」
 だがその先は、尿道口に舌を這わされることで、阻止された。久美は見たことも無いよう妖艶な笑みと共に、
「ふふっ、勃起こんなしといて、そんなセリフはいくらパパでも変だよぉ」
 シャワーヘッドが誰もいないところへ向けられ、音だけを残していた。
「――いつから、そんな心境に?」
 絶望の海に沈みつつある僕は、かすれた声で呟やいた。
「小学校高学年くらいだったかな? 生理が初めて来た時だったよ。――あぁ、あたし、この養父ひとのことスキなんだって、想った」
 久美は睾丸を片手でくゆらせつつ、
「それからはあたしも割と変態してたよ? パパのパンツでこっそり自慰オナニーとか、歯ブラシ借りたいとか……」
 そんな話を、信じられないくらい明るい声で話す。だが、それらの行為や感情に、僕は六年も気づかなかったのか――、
「パパのことは大好きだし、可愛いし、絶対に離さない。けど、ちょっと抜けてるところがあるよね。そこもカワイイんだけどさ」
「? どういう――」
「私の理解者、って思ってたんだろけど、半分は分かっていなかったことになるよね? だってさ」
 ――私がパパのことを、異性として愛してた、って全然気づかなかったでしょ?
「……」
「お養母さんは勘がいいっていうのかな? 気づいてた感じがしたから、割と困ってたんだ。いや~、ほんとうに今回の出張様々だったよ」
「なんで、僕、なんだ?」
 もう、僕に出来ることはない、そう思いつつ、口からこぼれた。久美は心底、不思議そうに、
「? さっきの私の話聞いてた? 私のことをいつも心配して、気遣って、愛してくれている男性ひとなんだよ? 血が繋がっていないんだから、独占したいって思うじゃん」
 僕は……僕は、
「――パパ、膝をついて」
 全て僕のせいだ。
「私の恋人になって欲しいの。オッケーだったら、誓いの接吻キスを、あたしの
 目の前に、雫をいくつも垂らす小さな青い茂みが現れる。僕は涙腺に涙を溜めながら、心の中にて妻へ謝罪し続ける。
 妻がわずかに家を空けただけで、今まで築き上げてきたものを、全て喪うことになるなんて。
「あっ、断るなら。今すぐ外に出て、他の男の人達に抱かれにいくから」
「なにを、どういう――?」
「だってさ、世界で一番好きな人に拒絶されるんだよ。女としての愉しみの半分以上がもうないわけじゃん」
 頭の中が熱と真実でグチャグチャにされる中、ふと見上げる。
 綺麗な双乳むねのその先に、見たことの無い色の狂気を瞳に灯した久美が、黙ってこちらを見下す。
 ――本気でやりかねない。そしてソレを止める言葉を、僕は欠片も思いつけない。
「どっち?」
 ナニを迷う必要があるの? と言った感じで僅かに気色ばんでいる気配すらあった。
 ……僕は目線を戻す。そこにはやはり、水に濡れた薄い陰毛と、女の秘部があるだけであった。
 目を瞑った。選ばない僕は、選べない僕は、そうやって決断から逃げるしかできなかった。
 まぶたの裏には、小さなころの久美が浮かんだ。笑い、泣き、怒り、喜んでいる久美の顔が。そして、その周囲にいる妻と僕が、奇跡で繋げ得た、宝石のような日々が、
 ――少し生臭く、味わったことのない塩味が、不意に口の中に拡がった。
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