4 / 7
四話 愛液は血よりも濃い
しおりを挟む
「パパ。ニュース見た?」
翌日の夜であった。特に意味もなく点けていたテレビを眺める久美が、急に話題を振ってくる。
「――あぁ。廃園した遊園地で、女の人が二人見つかった事件だろ」
「そうそう。怖いねぇ」
ここ最近、取り立てて目新しい事件が無かったためか、ピックアップされた事案であった。確かに異常な事件ではありそうだが、こっちは昨日の出来事のせいで、関心を持つ余裕など無かった。
久美は僕のリアクションの薄さを、仕事の疲労のためと勘違いしたのか、
「お疲れ様。パパ」
「うん――」
もちろん疲れていた。ここしばらくで一番と言えるほどに。
コップ半分ほど残っているビールは温く、気が抜けたような味であった。
「大丈夫?」
机の対面から、久美が大きな瞳を覗かせてくる。
「う、うん。大丈夫だよ……」
五感が久美を知覚するつど、昨晩の出来事が脳裏にて再生された。それ以来、久美とどう接すれば良いかわからなかった。
「新しい仕事でも任されたの?」
隣にやってきて座る久美は、セーターにミニスカートという男受けしそうな格好で、不思議そうに小首を傾げる。
「――まぁ、無いこともないけどね」
「じゃあ、ご近所問題?」
そう言いつつ、眺めに袖を持ち、そっと僕の腕を掴む。
「今更だね」
「なら、私の学校の成績?」
やがて腕を軽く抱きしめてくる。
「そこまでは、心配してない、かな?」
久美は視線を切り、僕の腕を深く抱きしめる。まるで寄りかかるように。
「それなら……」
僕は目を見開く。僕の手首から先をミニスカートの中へ誘導するように引っ張り、そして――、
「昨晩の自慰のこと?」
流し目で、だが確信をもった、まるで久美のではないような表情で見上げてくる。
「く、み?」
息が詰まるように言葉が漏れ出る。
太腿で僕の腕を挟み込み、身体全体を使って抱きしめてくる。
「気づいていたよ? パパが寝たふりをしていたのも。パパの大事なところが――」
勃きてたのも。
「!」
ドックン、ドックン。
心臓がバクバク言い出す。全身が熱く、耳の中が血液の流れる音でうるさい。
「ねぇ、パパ」
ふっ、と耳に息を吹きかけてくる。一瞬だけ涼しいが、膨張する熱がそれらを瞬時に打ち消す。
――今、この腕を振りほどかないと、おそらく取り返しの付かないことになる。妻にも合わせる顔が――、
「一緒にお風呂はいろうよ。昔みたいに♪」
「……」
さぁ、今すぐその腕を振れ、飯塚秀一。今しなければ、永遠にできなくなる!
グニッ。
「なっ」
久美が手を伸ばした先には――、
「ココ、苦しそうだよ? パパぁ」
僕の肉棒が、嬉々とした弾力で、養女の細い指を押し返す。
「……あっ」
今、確信した。自分は猿か何かと大差ない、あるいはそれ未満の薄汚れた下等生物なのだと。僕の盛り上がった部分を、久美はジーパンの上から優しく何度も撫でた。
久美はまるで欲しいものが手に入った子供のような、あるいは獲物を捕まえた肉食獣のように、あるいは――、
「早くお風呂入って、キレイキレイしよ? ――あっ、でもぉ」
最愛の異性を、完璧に追い詰められた、人間の女のように、
「逆にヨゴレちゃったりして? フフッ」
小さく嗤った。
シャアアア。
シャワーの設定温度が少し高めのため、早々に湯気が浴室を満たす。
「ささっ、座ってパパぁ」
拒絶のタイミングなどとっくに逸っしているのは重々承知だが、せめて無言のまま従った。
浴室鏡を正面に、僕が座り、背後に久美が立て膝をついた。
「じゃあ、背中を洗ってあげるね」
「――」
当然ながら目を瞑る。鏡越しに、久美の整った裸体を見ないために、そして不甲斐ない自分から目を背けるために。ボディーソープのポンプを押す音と、手が泡を揉む音が小さく響く。
「なっ!」
ハンマーで頭を叩かれたような驚きにより、思わず目を開く。背中が感じた感触は、柔らかで、温かく、だが硬い小さな何かが、媚びるように肩甲骨の辺りを擦っているといったものであった。
「――ンッ。どう? パパ。ァ、きもち、イイ?」
首筋に深い官能の息を吐きかけられ、ゾクゾクと毛が逆立つ。
「く、み。おま、え」
僕の背中を洗っているのは、スポンジでも手でもなく、久美の乳房そのものであった。まるで風俗嬢のような媚笑と嬌声と共に、泡と身体で拭き続けた。
「パパ、だけ、ッ、サービス、ン、だよぅ?」
発展途上だが、すでに充分な大きさの乳房は、まるで生き物のように揺れ、そして背中を這い回った。温かさと滑めらかさの奇妙な二重奏が、僕の理性を一つ二つといやらしく、丸呑みしていった。
二十四以上も年が離れている養女に、こんなことをされて、怒りに震えなければならない僕は――、
ググッ、グググ。
だが、久美の硬くなった乳首が背中にて折れ曲がるつど、甘い溜息がうなじに当たるたびに、
「パパのもぉ、硬くぅ、なってきたぁ」
――僕は、本当に最低だ。
「パパぁ、こっち向いてぇ」
……意志を放棄して、久美の言葉に従った。なぜなら、こんな愚かで下品な僕が、養父として彼女にナニかを言う権利なんて、あるはずもなかったからだ。
振り返る中、僕は酷く弱ったように肩も視線も腕をも落とした、――たった一ヶ所の例外を除いて、
「肉棒が私で元気になるなんて、本当に夢みたい」
天井めがけて、肉棒はそそり立っていた。息巻くように血管を漲らせたソレは、小刻みに震えている。
「触っていいよね? えへへ~」
悪戯っぽく笑うと、髪を耳の後ろへそっと直して。
「あ~ん」
チュブ、レロ。
「――はっ?」
温かくて柔らかい感触が、亀頭に絡みつく。濡れた粘着物は、尿道口や雁首を優しく舐め這い、たまに下品な音を立てては唾液ごと啜った。
「く、みっ」
肉棒にドンドンと血が送られると、筋肉が締め上げられるように力づく。目の下で、長年連れ添った養女が、嬉々として僕の肉棒をしゃぶるという異常事態なのに、――なのにっ。
ジュル、チュボ。
久美はアイスを頬張る子供ように、だが愛おしく舐め吸う。
「ジュポ。――パパぁ、気持ちイイ?」
その瞳は無垢な、あるいは振り切った狂気そのものであり、僕を射貫くように見上げてくる。
そして、肉棒は青筋を勃てて悦び、かつてないほどに収縮していた。
「うふっ、か~わいい」
やがて久美は犬のように舌を這わせ、陰茎を細い指で擦っていた。その痴態を視界から消すため、目を瞑ろうとする僕へ、
「ダメだよパパ。ちゃんと視てよ」
目がこじ開けられる。
久美は僕の目線を合わせたまま、鼻先で陰茎を擦る。その絵面に、吐きそうになる僕は、
「なぜ、なんだ? 久美。僕の、せいなのか?」
その問いかけに対して、意味がわからない、といった感じに大きな瞳を何度も瞬かせる。
「ナニを言っているの? パパ」
今日、初めて久美の慌てた声を聞いた気がした。その微かな揺らぎに、一縷の望みがあるように思えたが――、
「パパは私の男だよ? ただ、それだけの話」
ズキン。さっきから頭のどこかが痛む。
「あたしのことをいつも一番に考えてくれて、気を遣ってくれて、優しくしてくれる……そんな男、血が繋がってないなら好きになるに決まってんじゃん」
「僕は、養父として――」
だがその先は、尿道口に舌を這わされることで、阻止された。久美は見たことも無いよう妖艶な笑みと共に、
「ふふっ、勃起しといて、そんなセリフはいくらパパでも変だよぉ」
シャワーヘッドが誰もいないところへ向けられ、音だけを残していた。
「――いつから、そんな心境に?」
絶望の海に沈みつつある僕は、かすれた声で呟やいた。
「小学校高学年くらいだったかな? 生理が初めて来た時だったよ。――あぁ、あたし、この養父のことスキなんだって、想った」
久美は睾丸を片手でくゆらせつつ、
「それからはあたしも割と変態してたよ? パパのパンツでこっそり自慰とか、歯ブラシ借りたいとか……」
そんな話を、信じられないくらい明るい声で話す。だが、それらの行為や感情に、僕は六年も気づかなかったのか――、
「パパのことは大好きだし、可愛いし、絶対に離さない。けど、ちょっと抜けてるところがあるよね。そこもカワイイんだけどさ」
「? どういう――」
「私の理解者、って思ってたんだろけど、半分は分かっていなかったことになるよね? だってさ」
――私がパパのことを、異性として愛してた、って全然気づかなかったでしょ?
「……」
「お養母さんは勘がいいっていうのかな? 気づいてた感じがしたから、割と困ってたんだ。いや~、ほんとうに今回の出張様々だったよ」
「なんで、僕、なんだ?」
もう、僕に出来ることはない、そう思いつつ、口からこぼれた。久美は心底、不思議そうに、
「? さっきの私の話聞いてた? 私のことをいつも心配して、気遣って、愛してくれている男性なんだよ? 血が繋がっていないんだから、独占したいって思うじゃん」
僕は……僕は、
「――パパ、膝をついて」
全て僕のせいだ。無様に膝が折れる。
「私の恋人になって欲しいの。オッケーだったら、誓いの接吻を、あたしの下の口にして」
目の前に、雫をいくつも垂らす小さな青い茂みが現れる。僕は涙腺に涙を溜めながら、心の中にて妻へ謝罪し続ける。
妻がわずかに家を空けただけで、今まで築き上げてきたものを、全て喪うことになるなんて。
「あっ、断るなら。今すぐ外に出て、他の男の人達に抱かれにいくから」
「なにを、どういう――?」
「だってさ、世界で一番好きな人に拒絶されるんだよ。女としての愉しみの半分以上がもうないわけじゃん」
頭の中が熱と真実でグチャグチャにされる中、ふと見上げる。
綺麗な双乳のその先に、見たことの無い色の狂気を瞳に灯した久美が、黙ってこちらを見下す。
――本気でやりかねない。そしてソレを止める言葉を、僕は欠片も思いつけない。
「どっち?」
ナニを迷う必要があるの? と言った感じで僅かに気色ばんでいる気配すらあった。
……僕は目線を戻す。そこにはやはり、水に濡れた薄い陰毛と、女の秘部があるだけであった。
目を瞑った。選ばない僕は、選べない僕は、そうやって決断から逃げるしかできなかった。
まぶたの裏には、小さなころの久美が浮かんだ。笑い、泣き、怒り、喜んでいる久美の顔が。そして、その周囲にいる妻と僕が、奇跡で繋げ得た、宝石のような日々が、
――少し生臭く、味わったことのない塩味が、不意に口の中に拡がった。
翌日の夜であった。特に意味もなく点けていたテレビを眺める久美が、急に話題を振ってくる。
「――あぁ。廃園した遊園地で、女の人が二人見つかった事件だろ」
「そうそう。怖いねぇ」
ここ最近、取り立てて目新しい事件が無かったためか、ピックアップされた事案であった。確かに異常な事件ではありそうだが、こっちは昨日の出来事のせいで、関心を持つ余裕など無かった。
久美は僕のリアクションの薄さを、仕事の疲労のためと勘違いしたのか、
「お疲れ様。パパ」
「うん――」
もちろん疲れていた。ここしばらくで一番と言えるほどに。
コップ半分ほど残っているビールは温く、気が抜けたような味であった。
「大丈夫?」
机の対面から、久美が大きな瞳を覗かせてくる。
「う、うん。大丈夫だよ……」
五感が久美を知覚するつど、昨晩の出来事が脳裏にて再生された。それ以来、久美とどう接すれば良いかわからなかった。
「新しい仕事でも任されたの?」
隣にやってきて座る久美は、セーターにミニスカートという男受けしそうな格好で、不思議そうに小首を傾げる。
「――まぁ、無いこともないけどね」
「じゃあ、ご近所問題?」
そう言いつつ、眺めに袖を持ち、そっと僕の腕を掴む。
「今更だね」
「なら、私の学校の成績?」
やがて腕を軽く抱きしめてくる。
「そこまでは、心配してない、かな?」
久美は視線を切り、僕の腕を深く抱きしめる。まるで寄りかかるように。
「それなら……」
僕は目を見開く。僕の手首から先をミニスカートの中へ誘導するように引っ張り、そして――、
「昨晩の自慰のこと?」
流し目で、だが確信をもった、まるで久美のではないような表情で見上げてくる。
「く、み?」
息が詰まるように言葉が漏れ出る。
太腿で僕の腕を挟み込み、身体全体を使って抱きしめてくる。
「気づいていたよ? パパが寝たふりをしていたのも。パパの大事なところが――」
勃きてたのも。
「!」
ドックン、ドックン。
心臓がバクバク言い出す。全身が熱く、耳の中が血液の流れる音でうるさい。
「ねぇ、パパ」
ふっ、と耳に息を吹きかけてくる。一瞬だけ涼しいが、膨張する熱がそれらを瞬時に打ち消す。
――今、この腕を振りほどかないと、おそらく取り返しの付かないことになる。妻にも合わせる顔が――、
「一緒にお風呂はいろうよ。昔みたいに♪」
「……」
さぁ、今すぐその腕を振れ、飯塚秀一。今しなければ、永遠にできなくなる!
グニッ。
「なっ」
久美が手を伸ばした先には――、
「ココ、苦しそうだよ? パパぁ」
僕の肉棒が、嬉々とした弾力で、養女の細い指を押し返す。
「……あっ」
今、確信した。自分は猿か何かと大差ない、あるいはそれ未満の薄汚れた下等生物なのだと。僕の盛り上がった部分を、久美はジーパンの上から優しく何度も撫でた。
久美はまるで欲しいものが手に入った子供のような、あるいは獲物を捕まえた肉食獣のように、あるいは――、
「早くお風呂入って、キレイキレイしよ? ――あっ、でもぉ」
最愛の異性を、完璧に追い詰められた、人間の女のように、
「逆にヨゴレちゃったりして? フフッ」
小さく嗤った。
シャアアア。
シャワーの設定温度が少し高めのため、早々に湯気が浴室を満たす。
「ささっ、座ってパパぁ」
拒絶のタイミングなどとっくに逸っしているのは重々承知だが、せめて無言のまま従った。
浴室鏡を正面に、僕が座り、背後に久美が立て膝をついた。
「じゃあ、背中を洗ってあげるね」
「――」
当然ながら目を瞑る。鏡越しに、久美の整った裸体を見ないために、そして不甲斐ない自分から目を背けるために。ボディーソープのポンプを押す音と、手が泡を揉む音が小さく響く。
「なっ!」
ハンマーで頭を叩かれたような驚きにより、思わず目を開く。背中が感じた感触は、柔らかで、温かく、だが硬い小さな何かが、媚びるように肩甲骨の辺りを擦っているといったものであった。
「――ンッ。どう? パパ。ァ、きもち、イイ?」
首筋に深い官能の息を吐きかけられ、ゾクゾクと毛が逆立つ。
「く、み。おま、え」
僕の背中を洗っているのは、スポンジでも手でもなく、久美の乳房そのものであった。まるで風俗嬢のような媚笑と嬌声と共に、泡と身体で拭き続けた。
「パパ、だけ、ッ、サービス、ン、だよぅ?」
発展途上だが、すでに充分な大きさの乳房は、まるで生き物のように揺れ、そして背中を這い回った。温かさと滑めらかさの奇妙な二重奏が、僕の理性を一つ二つといやらしく、丸呑みしていった。
二十四以上も年が離れている養女に、こんなことをされて、怒りに震えなければならない僕は――、
ググッ、グググ。
だが、久美の硬くなった乳首が背中にて折れ曲がるつど、甘い溜息がうなじに当たるたびに、
「パパのもぉ、硬くぅ、なってきたぁ」
――僕は、本当に最低だ。
「パパぁ、こっち向いてぇ」
……意志を放棄して、久美の言葉に従った。なぜなら、こんな愚かで下品な僕が、養父として彼女にナニかを言う権利なんて、あるはずもなかったからだ。
振り返る中、僕は酷く弱ったように肩も視線も腕をも落とした、――たった一ヶ所の例外を除いて、
「肉棒が私で元気になるなんて、本当に夢みたい」
天井めがけて、肉棒はそそり立っていた。息巻くように血管を漲らせたソレは、小刻みに震えている。
「触っていいよね? えへへ~」
悪戯っぽく笑うと、髪を耳の後ろへそっと直して。
「あ~ん」
チュブ、レロ。
「――はっ?」
温かくて柔らかい感触が、亀頭に絡みつく。濡れた粘着物は、尿道口や雁首を優しく舐め這い、たまに下品な音を立てては唾液ごと啜った。
「く、みっ」
肉棒にドンドンと血が送られると、筋肉が締め上げられるように力づく。目の下で、長年連れ添った養女が、嬉々として僕の肉棒をしゃぶるという異常事態なのに、――なのにっ。
ジュル、チュボ。
久美はアイスを頬張る子供ように、だが愛おしく舐め吸う。
「ジュポ。――パパぁ、気持ちイイ?」
その瞳は無垢な、あるいは振り切った狂気そのものであり、僕を射貫くように見上げてくる。
そして、肉棒は青筋を勃てて悦び、かつてないほどに収縮していた。
「うふっ、か~わいい」
やがて久美は犬のように舌を這わせ、陰茎を細い指で擦っていた。その痴態を視界から消すため、目を瞑ろうとする僕へ、
「ダメだよパパ。ちゃんと視てよ」
目がこじ開けられる。
久美は僕の目線を合わせたまま、鼻先で陰茎を擦る。その絵面に、吐きそうになる僕は、
「なぜ、なんだ? 久美。僕の、せいなのか?」
その問いかけに対して、意味がわからない、といった感じに大きな瞳を何度も瞬かせる。
「ナニを言っているの? パパ」
今日、初めて久美の慌てた声を聞いた気がした。その微かな揺らぎに、一縷の望みがあるように思えたが――、
「パパは私の男だよ? ただ、それだけの話」
ズキン。さっきから頭のどこかが痛む。
「あたしのことをいつも一番に考えてくれて、気を遣ってくれて、優しくしてくれる……そんな男、血が繋がってないなら好きになるに決まってんじゃん」
「僕は、養父として――」
だがその先は、尿道口に舌を這わされることで、阻止された。久美は見たことも無いよう妖艶な笑みと共に、
「ふふっ、勃起しといて、そんなセリフはいくらパパでも変だよぉ」
シャワーヘッドが誰もいないところへ向けられ、音だけを残していた。
「――いつから、そんな心境に?」
絶望の海に沈みつつある僕は、かすれた声で呟やいた。
「小学校高学年くらいだったかな? 生理が初めて来た時だったよ。――あぁ、あたし、この養父のことスキなんだって、想った」
久美は睾丸を片手でくゆらせつつ、
「それからはあたしも割と変態してたよ? パパのパンツでこっそり自慰とか、歯ブラシ借りたいとか……」
そんな話を、信じられないくらい明るい声で話す。だが、それらの行為や感情に、僕は六年も気づかなかったのか――、
「パパのことは大好きだし、可愛いし、絶対に離さない。けど、ちょっと抜けてるところがあるよね。そこもカワイイんだけどさ」
「? どういう――」
「私の理解者、って思ってたんだろけど、半分は分かっていなかったことになるよね? だってさ」
――私がパパのことを、異性として愛してた、って全然気づかなかったでしょ?
「……」
「お養母さんは勘がいいっていうのかな? 気づいてた感じがしたから、割と困ってたんだ。いや~、ほんとうに今回の出張様々だったよ」
「なんで、僕、なんだ?」
もう、僕に出来ることはない、そう思いつつ、口からこぼれた。久美は心底、不思議そうに、
「? さっきの私の話聞いてた? 私のことをいつも心配して、気遣って、愛してくれている男性なんだよ? 血が繋がっていないんだから、独占したいって思うじゃん」
僕は……僕は、
「――パパ、膝をついて」
全て僕のせいだ。無様に膝が折れる。
「私の恋人になって欲しいの。オッケーだったら、誓いの接吻を、あたしの下の口にして」
目の前に、雫をいくつも垂らす小さな青い茂みが現れる。僕は涙腺に涙を溜めながら、心の中にて妻へ謝罪し続ける。
妻がわずかに家を空けただけで、今まで築き上げてきたものを、全て喪うことになるなんて。
「あっ、断るなら。今すぐ外に出て、他の男の人達に抱かれにいくから」
「なにを、どういう――?」
「だってさ、世界で一番好きな人に拒絶されるんだよ。女としての愉しみの半分以上がもうないわけじゃん」
頭の中が熱と真実でグチャグチャにされる中、ふと見上げる。
綺麗な双乳のその先に、見たことの無い色の狂気を瞳に灯した久美が、黙ってこちらを見下す。
――本気でやりかねない。そしてソレを止める言葉を、僕は欠片も思いつけない。
「どっち?」
ナニを迷う必要があるの? と言った感じで僅かに気色ばんでいる気配すらあった。
……僕は目線を戻す。そこにはやはり、水に濡れた薄い陰毛と、女の秘部があるだけであった。
目を瞑った。選ばない僕は、選べない僕は、そうやって決断から逃げるしかできなかった。
まぶたの裏には、小さなころの久美が浮かんだ。笑い、泣き、怒り、喜んでいる久美の顔が。そして、その周囲にいる妻と僕が、奇跡で繋げ得た、宝石のような日々が、
――少し生臭く、味わったことのない塩味が、不意に口の中に拡がった。
0
お気に入りに追加
13
あなたにおすすめの小説



【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

父が再婚してから酷い目に遭いましたが、最終的に皆罪人にして差し上げました
四季
恋愛
母親が亡くなり、父親に新しい妻が来てからというもの、私はいじめられ続けた。
だが、ただいじめられただけで終わる私ではない……!

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

本を返すため婚約者の部屋へ向かったところ、女性を連れ込んでよく分からないことをしているところを目撃してしまいました。
四季
恋愛
本を返すため婚約者の部屋へ向かったところ、女性を連れ込んでよく分からないことをしているところを目撃してしまいました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる