妊活と稽古台

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第一幕 家の女と書いて嫁

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「どうだった? ……そっか。もうわかった。切るぞ」
 一階リビング兼キッチンの中央にて、息子の峰山みねやま和也かずやは苛立たし気に携帯電話を切った。
 食卓の硬い椅子に腰掛けて、新聞を読んでいたワシは思わず。
「上手くいかなんだか?」
 と、余計な一言を口にしてしまった。
「――見たらわかるだろ」
 四十歳でサラリーマンの和也は、ここのところ家では不機嫌をつのらせて行く一方じゃった。年金生活のワシは言うか言うまいか迷ったが。
美紗子みさこちゃんのこと、あまり責めるんじゃ――」
 ダッ、ダン、ダン。
 ワシの言葉を拒絶するように、わざと音を響かせて二階の自室へ上がっていった。
 やがて聞こえる上階からの、バタン! という扉の音を聞いて、脱力したように溜息をつく。
「――まぁ、ワシにとっては、それほど悪い事では無いかもだがのぉ」
 人知れず、自分でも気色の悪い笑みを浮かべた。
 ……今年で六十八になるワシの一軒家に、和也と嫁の美紗子が転がり込んで来ておよそ半年が経った。三十三歳の美紗子は、野暮ったい和也と違い、控え目で気弱な女性だった。
 勤め先であった化粧品会社せいしゃいんを辞めて、時間的制約の少ないパートになった彼女と和也には、ある願いがあった。
 『子供』、二人が行うのはいわゆる妊活と呼ばれるもの。加えて不妊治療という観点からも注意して、彼女は産婦人科へ通い続けた。
 また通院だけでなく、妊娠米などのよくわからない民間療法なども試みているが、結果ははかばかしくなかった。
「(こればかりは授かりもんじゃからなぁ)っと、そろそろ掃除をしているでもしておかんとな」
 美紗子ちゃんが病院クリニックから帰宅する時間帯を見計らい、流し台の掃除をし始める。シンクのステンレスは錆びないことで有名だが、古びたこの家では、老いたようにくすんでいた。
 毛糸の布巾で五分も掃除しない内に。
「ただいま帰りました……」
 落ち込んだ声が聞こえ、控えめな扉の開閉音と共に玄関から居間へと姿を現す。
 ――肩まである髪は艶のある黒で、顔はやや丸く愛らしかった。背は平均くらいで、体毛は薄く、胸や尻周りの肉付きはワシ好みであった。
 何よりには、思わず口元が緩んだ。
「(本人は気づいとらんが、涎が垂れるほどの肉付きじゃて。ヒヒッ)おぉ、おかえり美紗子ちゃん」
 気づいていませんでしたよ、っと言った感じで、掃除機へ伸ばし掛けた手を止める。
「あ、お義父さん。掃除は私がやりますので――」
「いやいや、美紗子ちゃんも疲れとるじゃろ」
 薄くなった頭へ手を置きつつ、にこやかに声をかけ続ける。
「……すみません。家を間借りさせていただいているのに」
 ハァ、っと溜息を突く姿も艶っぽい。
「何を言っておる。ワシらは家族じゃろうが、ささ」
 軽く彼女の背に触れ、椅子へと誘う。
 半年以上に渡って講じて来た策が実り、この程度のボディタッチでは警戒心を抱かれないところまでやってきた。
「本当にいつもありがとうございます。お義父さん」
 腰を降ろし、申し訳なさそうに上目遣いでこちらへお礼を言う。くぅっ、タマラン!
「ええんじゃ、ええんじゃ」
 和也夫婦が同居し始めた日を境に、ワシの醜く卑怯で、いやしい劣情が産まれ育っていったが、その説明は不要じゃろう。
 もっとも、同居初期の頃、義理とは言え血の繋がっていないワシとの生活に、尻込みをしている様子じゃった。
 ……じゃが、それを解消してくれたのが、先の不妊治療と、和也むすこの横柄な性格であった。
「だんだん肌寒くなってきたからのぉ、温かいほうじ茶でも淹れようか」
 仕事まで変えて世帯収入が落ち込み、なのに妊活が上手くいかない美紗子ちゃんへの当たりが強くなった。
 そこを取り持つように心血を注ぎ、家事を少し手伝い、不妊治療の苦労に同調し、頃合いをみてこっそりと優しい言葉をかけ続けた。
「何から、何まですみません……」
 と、警戒心はかなり薄れてきた。しかし、顔に皺どころか沁みまで出来て来た不細工なワシが相手では、ドラマや小説のように簡単にはなびいてくれそうにない。
「いやいや、気にするでない」
 これ以上の進展は、さぁてどうしたものか――。
 こっそりと、着ている白のセーターを押しのけるかのように膨れた乳房へ目をやる。
「(いつの日かワシのものにして、しゃぶり尽くしてやるからのぉ)煎れたぞ。熱いから、気をつけてな」



 カチャ、カチャ。
 夕方も、相変わらず無言の食事であった。食器と箸がぶつかる音だけが、食卓の上で響く。家具店で買った木製のテーブルも椅子も古ぼけており、和也と美紗子ちゃんの対面にワシが座る恰好であった。
「治療代って、結構するよなぁ」
 和也が不機嫌そうにつぶやく。もちろん、不妊治療のことじゃろう。
「……」
 当然ながら美紗子ちゃんはますます萎縮するも、気づかない振りをしつつ続ける。
「タイミング療法だけで一万円以上するんだぜ? もう何ヶ月目だよ」
 和也の文句垂れにはワシもちと手を焼いていた。ちょっとしたことですぐ怒りよるからのぉ。
 注意するか迷ったが、美紗子ちゃんが気に病んで家出とか、果ては離婚でもされたらコトじゃ。
「これ、和也。食事中にする話題か?」
「は~ぁ、親父は何かと美紗子コイツの肩を持つよなぁ」
 マズイ、美紗子ちゃんへの情欲を勘付かれるのは困る。――じゃが、ここはあえて臆せずに突貫するのも目くらましの一種となろう。
「当り前じゃろう。発言力のあるお主と、そうでない美紗子ちゃんとのバランスを考えての言動じゃ」
「お義父さん……」
 おっ、今のは好感度が上がったかの? 僅かながら眼差しに尊敬の念が込められているような気がした。
「ハァ、家主に言われたら、こっちだって嫌になるって」
 ガタッ。音を立てて椅子から立つ。
「おい、和――」
「うるさいって」
 和也が蝿を追い払うかのように手を振った時。ガチャン、ピチャ。
っつ、あつっ!」
「!」
「お、お義父さん!」
 和也の手は、熱いお茶が入った湯呑を弾き飛ばし、ワシの上着へと飛沫が散り飛ぶ。
「あ、あなた……」
「――ふんっ!」
 謝りもせず、飲みかけの酒だけを持ってまた二階の自室へ行きおった。
 ワシの育て方が間違ってたかのぉ。
「(それはさておき)あつつ」
 十年もののジャージには広い染みが出来ていた。テーブル上の布巾ふきんを探していると。
「お義父さん、私が拭きますので」
 申し訳なさそうな顔の美紗子ちゃんが、急ぎ隣までやってきてくれる。
「い、いや~、すまんなぁ」
 と言いつつ、目を大きく見開く。懸命にワシのを拭く彼女は気づいておらぬが、アンダーフリーとカーディガンという組み合わせのため、屈めば谷間ができてしまう。
「私のせいで……本当にすみません」
 ムチ、ムチっと音がしそうな乳房は、生き物のようにワシの鼻先の三十センチメートルくらいの位置で、悩ましげに揺れ動く。
「い、いやいや。美紗子ちゃんは関係ない」
 それだけではない。彼女の頭から発散される洗髪剤シャンプーと僅かな体臭が混じり合った匂いが、たまらなく官能的エロティックであった。
「あ、お義父さん。ズボンも濡れていますから、すぐに着替えてください」
「(! そりゃマズイ)……だ、大丈夫。そこまでは濡れなんだ」
「でも」
「(股間の膨らみを見られるわけにはいかん)では寝巻に着替えるかのぉ」
 やや前屈みで慌てて寝巻を掴み取り、歯も磨かずに寝室を目指す。
 バタン。
「あぶない、あぶない」
 苦心惨憺くしんさんたん、半年以上かけて築きあげてきた信頼関係に、終の文字が打たれでもしたら洒落にならん。
 仕方なく電気を消して布団に入り瞼を閉じる。しかし、美紗子ちゃんの谷間を拝めて治まりがつかぬ上、まだ二十時ちょっと過ぎ。いくらボケ老人のワシでも眠れぬ。
「(仕方が無い、ポルノ雑誌でも読むか)でも何回も読んだしなぁ。ワシもケータイを買おうかのぉ」
 電気を点け、引き出しをあけようとした時であった。
 コン……コン。
 弱々しいノックの音がして慌てて引き出しをしめる。
「ど、どうぞ?」
 なんじゃなんじゃ? ガチャ。
「し、失礼します」
 美紗子ちゃんが、申し訳なさそうな顔をして現れる。
「(まださっきのことを気にしておるのか)どうかしたか?」
「あ、あの――」
 何やら言いよどんでいる。とりあえず小さく手招きをして扉を閉めさせ、色あせた座布団に座らせる。
 密室で人妻と二人きりとはタマランのぉ、ヒヒッ。
「(っと、いかんいかん。今は優しい義父)ふむ、ワシでよかったら何でも聞くぞ」
 神妙な面持ちにて持ち直し、居住まいを正す。
「――えっと」
 意味もなく片手をさすりつつ、視線を畳みのあちこちへ投げている。
「……ひょっとして、妊活のことか?」
「! よ、よくおわかりで」
 いやまぁ、さっきの件でなかったら、それくらいしか思い浮かばんし。
 しかし、ついにワシに相談とはなぁ。……このの実家は遠いため、相談できる相手が少ないのも手伝ってくれたか。
「ほっほっほ、お前さんのことはいつも見守っておるからな」
 もっとも、顔や尻や乳が主じゃがなぁ。――なんてことはもちろん微塵も感じさせず、ただただ優しく強く、そして労わるように諭す。
「お義父さん……」
「もっとも、七十手前のワシなんぞ、頼りがいが無いと思うが」
 さりげなく自身を卑下し、頼らないことを罪悪感のように思わせる。
「そ、そんなことありません! いつも家のこととか、私のことを気遣ってくださって」
 そうじゃろ、そうじゃろ。ま、若い女に気を遣うこと自体は全く苦ではないが。
 にしても、夜に一人でワシの部屋を訪れるとはのぉ。かなり参っているか、あるいはそこまで信用を勝ち得てきたか?
「(ここは攻め時じゃな)では、その不妊治療ないし妊活について、ワシの考えを伝えても良いか?」
 美紗子ちゃんの顔に不安の色がつのる。どうも、成果が無いことを責められるのではと動揺している様子じゃ。
 そんなことはではないんじゃがのぉ。ワシはもっといやらしい所を攻めてやるぞぉ、ヒヒッ。
「大真面目な質問(嘘)じゃが、和也との妊活こづくりはどうなんじゃ? たのしいとか、逆にストレスとか」
 ワシは出来るだけ誠実な表情を作って問いかける。内心は、異性として見ている女に、旦那との夜のを聞けて興奮しておるが。
「……義務感と焦りを、感じます」
 先程の推理の通り、相談役として、ワシは十分に信頼を勝ち得ているな。
「ふむ。そのストレスが、さらに負の感情を増幅させる悪循環、か」
 もっともらしく頷く。安全地帯にいると認識できたワシは、チラチラと、胸を見つつ。
「しかしそれは、和也も同じかもしれんな」
 ちょっと天を仰ぎ、汚れた染みのついた天井へ目をやる。
 この点についてだけは、多少なりとも和也へ同情した。っというのは、男は性欲の塊みたいに思われる節があるが、指示されたりしてヤルのは、意外とストレスだったりする――っと何かの記事で読んだ気がする。
「!」
 ハッと彼女は驚き、小さい肩をさらにすくめる。
「(よしよし、弱っとる弱っとる)じゃが逆に言えば、セックスが気持ち良ければ、ある程度は悩みは解消されるはずじゃ」
 セックスという単語の使用に少しドキマギしたが、彼女はいたって真面目に受け取る。
「それはそうですが。さっきおっしゃったじゃないですか。義務でするのはストレスを感じると――」
 イイ女の沈痛な面持ちを間近で見られて、肩の後ろあたりがゾクゾクするわい。
「結論を急ぐでない。ワシの経験則じゃが、セックスは三つの要因である程度は心地よくなれるものじゃ」
 おくびなく、セックスという単語を若い女に使えるのことに気持ちがたかぶる。
「三つの要因、ですか?」
 眉を少しひそめたことから、半信半疑と言った感じじゃが、まだまだ耳を傾けてくれる。
「一つ目は積極性。つまり『気持ちよくなりたい』と思ってシテおるかどうか。妙な羞恥心や自尊心に邪魔されておらぬか?」
「……」
「(心当たり有りじゃな)二つ目は『感度』じゃ」
「感度?」
「そう。一ヶ月に一回しかセックスしない夫婦より、三日に一回している方が、濡れやすさも感じ方も異なるじゃろう(身体の相性にもよるかもしれんが)」
 ううん、と言った感じでまだピンと来ていない様子じゃが、せっかく見つけた相談相手に頼らざるを得ないこの状況。
「――最後の一つは?」
「やはり技巧テクニックじゃな。男女どちらもコレによる影響が大きいのは、真理といえよう」
 ワシの正しそうで怪しい論を聞いた美紗子ちゃんは、畳を見つつ、顎に手を当てて何やら考えておる。
「(ここは冷静になられる前に、焦らせるか)とは言え、今の状況で悠長に和也と深め、あるいは高め合う時間よゆうはあるかわらかんのぉ」
「……そう、そうですか」
 大きく息を吐き、目を瞑る。
 ヒヒヒッ。上げて、落としてを繰り返す内に、思考力はどんどん鈍くなる。
「そこで、じゃ」
 次の一言には、さすがに少し緊張する。失敗すれば、これまで築いた信頼を失いかねない。
「(少しわかり難いニュアンスも混ぜつつ)ワシをにして、妊活の練習に役立てんか?」
「えっ? け、稽古台?」
 美紗子ちゃんは三度みたび、顔を上げて反芻はんすうする。
「さっき言った三つの内、後ろの二つについては、自慰だけではどうにもならんし、一朝一夕で向上するものでもあるまい」
 あえてオナニーという単語は避けた。
「で、でもそれってつまり。私が、その、お義父さんと――」
「当たり前じゃが、本番なぞせんぞ。スキンシップに重きを置き、触れ合うだけじゃ。そもそも、美紗子ちゃん――」
「は、はい」
 次の言葉の一言一句に、文字通り魂を込める。
「ワシが今まで一度でも、お前さんにやらしいことをしたことがあったか?」
 この一言を放つため、半年以上、耐えに耐えた。
「そ、それは……そうですが」
 しかし、はいそうですか、とはいかんな。
「それに、これら訓練にふさわしい相手は、事情を良く知っていてかつワシより適任もおるまい」
 隙あらば自虐ネタで、彼女の母性を刺激する。
「か、枯れているなんて――」
「まだあるぞ。互いが望んでセックスをした方が、妊娠率が高まるという報告もあるのじゃ(要出典)」
「えっ」
 思考に亀裂を入れたところで。
「(引いて押して、もう一度、引いて)まぁどんな理由があろうと、ワシみたいな老人じじいに触られるなんて、嫌じゃよな。ははっ、すまんすまん」
「お、お義父さん……」
 熱くなってしもうた、っと言った感じを肩で演出しつつ。
「――もちろん、現状のままでいることも選択じゃろう。じゃがそれは、事態が好転する見込みがある時にすべきと思うがの」
「……」
 美紗子ちゃんは膝上へ目をやりジッとする。説得の効果のほどはわからぬが、ここまで来たら。
「お前さん達を想ってこそじゃったが、変な意見であったならすまなかった。決して、孫の――」
「!」
 ゴホッ、っとわざとらしく咳をしたが、今のセリフは攻め過ぎたか?
「すまんすまん。歯を磨き忘れていたから、ワシはちょっと失礼するよ――」
 彼女をわざと一人残し、部屋を後にする。
 さて、人事は尽くした。後は淫命てんめいを待つのみ。


 昼下がり、テレビを眺めながら熱蕎麦をすする。
 和也の出勤時間は七時過ぎから十九時くらいで、美紗子ちゃんは八時半から十六時くらい。
 妻と熟年離婚して、後になって和也らと同居したその日より、ワシの一人の時間はだいたい決まっている。
「(休みの日は違うが)にしても昼の番組はつまらん。こうやってボケ老人が製造されていくんじゃろうなぁ」
 消して室内を見渡す。何もしないでいると、いつもの誘惑に駆られる。――そう、美紗子ちゃんの下着を嗅ぐという、抗いがたいユウワクに。
「(いや、我慢ガマン)――ふぁぁ~、昼寝するか。夜、眠れなくなるけど」
 しのぎを削って、その変態的嗜好を我慢する。万が一、下着の位置がおかしいことに気付かれでもしたらコトじゃからな。この情勢では和也のせいにも出来まい。
「昨晩は結局、何もなかったし、失策じゃったかなぁ――」
 ハァっと、次第に瞼が重くなる。
 ……。
「――ん?」
 いつの間にか西日が顔にあたって起きる。壁の時計を見ると十五時半過ぎ。
「(いかんいかん、もうすぐ帰ってきおる)机の上を拭く振りをせねば」
 いつもの自作自演にっかをしている内に、やがて。
 ガチャ。
「ただいま帰りました~」
「おぉ、おかえり美紗子ちゃん」
「あ、お義父さん。本当にいつも助かります」
「かまわんよ。ま、ちょっと休憩しなさい」
 我ながら、下心がなかったら良くできた義父じゃと思う。
「たまには珈琲でも淹れようか?」
 まぁ、インスタントしかないが。
「……」
「美紗子ちゃん?」
「あ、あの。お、お義父さん」
 椅子にも座らず、何やら緊張した面持ち。これは、まさか――!
「(へ、平静を装って)なんじゃ?」
「――えっと」
 視線を床のあちこちへ飛ばし、腕をさすり、お尻をモゾモゾと動かしている。
 すぐにでも、話の内容を聞きたいところじゃが、ここはジッと耐えて、相手が口を開くまで黙る。
「あ、あの」
「?」
「だからっ、その」
 羞恥に悶える三十ちょっとの肉付きがイイ女。くはぁっ、タマラン! 泣きそうな顔になりながら、だがようやく。
「――ですか?」
「へっ?」
 今のは本当に聞こえなんだ。
「だから……お、お願いして、い、いいですか?」
 もうちょっと愉しみたいが、逆上されても困る。
「まさかひょっとして、昨晩のことか?」
 さも、今気づきました、みたいな顔で応じ、白く染まった短い髭を撫でる。
「……」
 コクリ、と、耳まで真っ赤にして頷く。
 来た、ついにこの時がっ! やったぁ! ……じゃが、落ちつけ、落ちつけワシ。手中に収めた獲物こそ、もっとも失いやすいのだ。
「――わかった。よく考えてのことじゃろう」
 そう言って傍に寄り、軽く頭を撫でる。柔らかな髪の感触を味わいつつ、まるで父親が子供に言うように。
「順序を追って行うし、止めたくなったらいつでも言いなさい」
 にっこり、と微笑みながら声をかけると、ようやく顔をあげる。
 何とか、おさわりできる大義名分を手に入れたが、まだまだ不安と警戒の心が色濃く顔に現れている。
「(まぁ、その鎧を一枚ずつ、淫らに剥いでいってやろう、ヒヒッ)じゃあ、初日じゃし、とりあえずそこのソファに座ろうか」
「い、今から? ……わ、わかりました」
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