聖/性騎士さまは二重人格!

虫圭

文字の大きさ
上 下
1 / 9

しおりを挟む
 目を覚ますと隣に裸の男が寝てた。
 筋骨隆々のイケメン。

「……あー、またヤっちゃったかぁー」

 昨晩のことは覚えてない。
 いや、なんかのでっかいパーティー会場にいたのは覚えてる。すごいごちそうとか、高そうなお酒とか、金持ちそうな人たちがたくさんいたこととかも。
 ただ、高そうなお酒を近くにいたイケメンと乾杯した後、その先のことは一つも思い出せない。
 乾杯したイケメンが、私の隣で寝息を立ててるこのイケメンではないことは確かだけど。

「あー、またエロっちに怒られちゃうかなー。怒られるだろうなー。また手紙もらっちゃうんだろうなー」

 ま、良いか。
 そう気持ちをサクッと切り替えて、ベッドから下りると壁に掛かっている姿見の前に立つ。

「うん。今日も最高に美人だ。エロっちに感謝感謝♪」

 私は一糸まとわぬ姿、つまり全裸で仁王立ちし、姿見で全身をくまなくチェックする。
 引き締まった二の腕と腹筋。健康そうな肌の色ツヤ。張りのある豊満なおっぱい。ふっくらと大きいのに重力に逆らいキュッと持ち上がったお尻。そのお尻を恥じらい隠すように腰まで伸びた金色のさらツヤな髪の毛は、朝陽でキラキラと輝いている。
 くっきり二重にスッとした鼻筋、透き通った海のような色素の薄い瞳。
 そして凛と引き締まった唇。
 うん。私の身体は本物の美人だ。
 姿見を前に私はうんうんと頷く。
 鏡に写った自身の姿を何度も確認し、今日も美しい自分を堪能、十二分に満足すると、そのまま大手を振ってバスルームへと向かう。

 高級そうな家具や内装に彩られた部屋を出て、廊下を通りバスルームに着くと、浴室の壁に取り付けられた蛇口のようなものを覚悟を決めて思い切りひねる。

「うっ……ひぃ……! 冷たぁ!」

 シャワーヘッドのようなそうでないような、ホースの先にミラーボールを取り付けたような歪な器具から冷水が溢れ飛び散る。

「あああああ! つべたいぃぃぃぃ! 暖かいシャワーが浴びたぁいいぃぃぃぃぃ!」

 この時だけは私は相当な覚悟で挑む。
 身体を打つ凍えるような飛沫。
 心臓までギュッと引き締まるような冷たさに、仕方ないと分かっていても眉間にしわが寄ってしまう。
 朝シャンは37度の少しぬるめのお湯って決めてた私にはこれは大きな試練なのだ。

「……あぁやっぱムリムリ! もうダメ! ギブ! 後でお湯沸かしてもらう! やっぱ水でシャワーとか無理! ごめんなさいメイドさん! 今日も甘えちゃいます!」

  蛇口を締めてドタバタとバスルームを飛び出すと、入り口脇に置かれたふかふかのバスタオルを身体に巻き付けうずくまる。
 カチカチと歯が鳴る。

「だ、だんでこんな冷だいのよもぉー」

 歯の根が噛み合わず上手く喋れない。
 はぁはぁと両手に息を吹きかける。
 毛並みの柔らかなバスタオルのおかげで少しずつ身体が温もりを取り戻し始めると、私はゆっくり立ち上る。
 小さめのタオルを束で取り上げ、びちゃびゃちゃに濡れた床にばらばらと撒き、水を吸わせ拭き取る。

「エロス様? 沐浴ですか?」

 ん?
 振り返るとさっきのイケメン。もちろん全裸。
 私と同じでシャワーを浴びに来たのだろう。
 そしてこのイケメンは私のように音を上げることなく冷水シャワーで身体を洗い流すのだ

「先に済まされてしまったのですね。私も御一緒したかったです。起こしてくだされば御一緒できたのに」

 残念そうに呟くイケメン。

「それにしても、まさかエロス様から夜伽に誘っていただけるなんて、私はこの上ない幸せ者です。一生の想い出にします」

 今度は露骨にテレるイケメン。
 夜伽って何だ?

「いや、何言ってんのかよく分かんないんだけど、一緒に冷水シャワーとかムリだし。今日こそはって思ったけど、やっぱムリだったからこれからメイドさんにお風呂お願いしようと思ってるとこだから」

「え?」

「ん?」

「え?」って何よ。何をそんなに驚くことがあるのよ。
 こちとら身体が冷えきってるんだから暖めるに決まってるじゃない。何を驚くことがあるってのよ。
 私が頭を傾けていると、イケメンが怪訝そうな顔で口を開く。

「エロス様は今から陛下へ謁見なさるのでは? 国境近くに現れた魔獣討伐へ向かうのは午後からですので、エロス様はその前に陛下へ出立の挨拶をなさるのだとばかり」

 んー?
 なんかソレ聞いたことあるような。昨日のパーティーでもみんな魔獣がナントカって言ってたような?

「……ねぇちょっとイケメンさん、一つ聞いていい?」

「イケメンさん? 私のことですか?」

「ここには私とアンタ以外に誰もいないでしょーが」

「は、はい。何でございましょう」

「あのさ、その、魔獣って、何?」


 ズキッ!!!


 突然の激痛。
 強烈な。気が遠くなるような。
 一瞬で気が持っていかれるような激しい痛みと眩暈めまいが。

「あ、ぁ……ヤバ……」

 膝から崩れ落ちる。

「エロス様!? いかがされました! エロスさ……! エ……スさ……! …………!!」

 私を呼ぶ声が遠ざかる。

 サヨナラ、イケメンさん。
 どうやら『交替』の時間みたい。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

赤ずきんちゃんと狼獣人の甘々な初夜

真木
ファンタジー
純真な赤ずきんちゃんが狼獣人にみつかって、ぱくっと食べられちゃう、そんな甘々な初夜の物語。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活

XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。

処理中です...