28 / 48
【お絹という女―其ノ參】
しおりを挟む
「ふぅーっ、ふぅーっ……! あん畜生。よくも、あんなこと言いやがって。悪気が有ろうと無かろうと、言って良いことと悪いことがあらぁ! あたしが一端の女じゃあねぇってことくらい、あたしが一番解ってるってぇのに、それを逆撫でるみたく『そんなこと』なんて言い方しなくても良いじゃねぇかよ。えぇ? それとも何かい、あたしみてぇな半端もんは手前を皮肉ることも許されねぇってのかい。えぇ? 謙遜すんのも手前を皮肉るのも、一端になるような努力をしてから言えってことかい。確かにあたいは色恋だとか頓着しないでこれまで生きてきたけど、それは他にやりてぇ事が幾らでも有ったからで、別に色恋をしたくねぇとかそういうんじゃねぇんだよ。彫吉の野郎だって、手前のやりたいように彫金にこれまで打ち込んできたんじゃねぇかい。だから人様に認められる様な腕になったんだろう? そうだろ? えぇ? 手前は良くて、あたしは駄目だってのかい? あん畜生はそんな狭量な懐しか持ち合わせてねぇってことかい? いや、違ぇねぇ。正しくそうなんだろうよ。そんな度量も器もねぇ狭い懐だからあたしに何も言わずおとっつぁんおっかさんに夫婦の挨拶だなんて頓珍漢なこと言い出したのかもしんねぇ。ねぇ? そうだろう? そう思うよな? 昔っから好き勝手やってあたしを振り回すところがあった奴だったけど、この時分はあたしも彫吉もそれなりに歳を取ってそれなりに心持ちも気構えも、それに高くはねぇが気位ってやつも大人になったと思ってた。思ってたけど、それはあたしの思い違い勘違いってやつだったんだ。今日それが漸くあたしにも分かった。今日、今更になって分かったってんだからあたしも彫吉の奴のこと悪く言えたもんじゃないのかもしれねぇな。あたしも彫吉も、色恋をどうこうするなんてのはまだ烏滸がましいってこった。あぁ、よぉく解ったぜ。あたしと彫吉には色恋だとか惚れた腫れたとかそういうのはまだまだ早いってこった。お互いの気持ちの機微も感じ取れねぇってのに一緒になろうだなんて、それこそ順序が逆ってもんだ。よし、あたいは明日から、いや、今日から一段とあたしのやりてぇことに打ち込んでやらぁ。あたしが人様に認められるくらいんなったら、彫吉の心も今より分かるようになるだろうさ。ねぇ? そう思うだろ? おとっつぁんおっかさん」
(次話に続く)
(次話に続く)
0
お気に入りに追加
37
あなたにおすすめの小説
妻がエロくて死にそうです
菅野鵜野
大衆娯楽
うだつの上がらないサラリーマンの士郎。だが、一つだけ自慢がある。
美しい妻、美佐子だ。同じ会社の上司にして、できる女で、日本人離れしたプロポーションを持つ。
こんな素敵な人が自分のようなフツーの男を選んだのには訳がある。
それは……
限度を知らない性欲モンスターを妻に持つ男の日常
お前は家から追放する?構いませんが、この家の全権力を持っているのは私ですよ?
水垣するめ
恋愛
「アリス、お前をこのアトキンソン伯爵家から追放する」
「はぁ?」
静かな食堂の間。
主人公アリス・アトキンソンの父アランはアリスに向かって突然追放すると告げた。
同じく席に座っている母や兄、そして妹も父に同意したように頷いている。
いきなり食堂に集められたかと思えば、思いも寄らない追放宣言にアリスは戸惑いよりも心底呆れた。
「はぁ、何を言っているんですか、この領地を経営しているのは私ですよ?」
「ああ、その経営も最近軌道に乗ってきたのでな、お前はもう用済みになったから追放する」
父のあまりに無茶苦茶な言い分にアリスは辟易する。
「いいでしょう。そんなに出ていって欲しいなら出ていってあげます」
アリスは家から一度出る決心をする。
それを聞いて両親や兄弟は大喜びした。
アリスはそれを哀れみの目で見ながら家を出る。
彼らがこれから地獄を見ることを知っていたからだ。
「大方、私が今まで稼いだお金や開発した資源を全て自分のものにしたかったんでしょうね。……でもそんなことがまかり通るわけないじゃないですか」
アリスはため息をつく。
「──だって、この家の全権力を持っているのは私なのに」
後悔したところでもう遅い。
婚約者が幼馴染を愛人にすると宣言するので、別れることにしました
法華
恋愛
貴族令嬢のメリヤは、見合いで婚約者となったカールの浮気の証拠をつかみ、彼に突きつける。しかし彼は悪びれもせず、自分は幼馴染と愛し合っていて、彼女を愛人にすると言い出した。そんなことを許すわけにはいきません。速やかに別れ、カールには相応の報いを受けてもらいます。
※四話完結
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
公爵家の末っ子娘は嘲笑う
たくみ
ファンタジー
圧倒的な力を持つ公爵家に生まれたアリスには優秀を通り越して天才といわれる6人の兄と姉、ちやほやされる同い年の腹違いの姉がいた。
アリスは彼らと比べられ、蔑まれていた。しかし、彼女は公爵家にふさわしい美貌、頭脳、魔力を持っていた。
ではなぜ周囲は彼女を蔑むのか?
それは彼女がそう振る舞っていたからに他ならない。そう…彼女は見る目のない人たちを陰で嘲笑うのが趣味だった。
自国の皇太子に婚約破棄され、隣国の王子に嫁ぐことになったアリス。王妃の息子たちは彼女を拒否した為、側室の息子に嫁ぐことになった。
このあつかいに笑みがこぼれるアリス。彼女の行動、趣味は国が変わろうと何も変わらない。
それにしても……なぜ人は見せかけの行動でこうも勘違いできるのだろう。
※小説家になろうさんで投稿始めました
子爵家の長男ですが魔法適性が皆無だったので孤児院に預けられました。変化魔法があれば魔法適性なんて無くても無問題!
八神
ファンタジー
主人公『リデック・ゼルハイト』は子爵家の長男として産まれたが、検査によって『魔法適性が一切無い』と判明したため父親である当主の判断で孤児院に預けられた。
『魔法適性』とは読んで字のごとく魔法を扱う適性である。
魔力を持つ人間には差はあれど基本的にみんな生まれつき様々な属性の魔法適性が備わっている。
しかし例外というのはどの世界にも存在し、魔力を持つ人間の中にもごく稀に魔法適性が全くない状態で産まれてくる人も…
そんな主人公、リデックが5歳になったある日…ふと前世の記憶を思い出し、魔法適性に関係の無い変化魔法に目をつける。
しかしその魔法は『魔物に変身する』というもので人々からはあまり好意的に思われていない魔法だった。
…はたして主人公の運命やいかに…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる